第7話 ギルドの洗礼

冒険者ギルド。


 それは、力を持つ者たちが集い、力を必要とする者たちと結びつく場所だ。


 薬草採取や迷子捜索のような穏やかな依頼から、

 凶悪な魔物討伐、危険地帯の調査、盗賊団の制圧まで。


 依頼は多岐にわたる。


 そして、冒険者にもランクが存在する。


 EからSまで。


 高ければ高いほど強く、

 受けられる依頼の難度も上がる。


 逆に言えば、

 自分の実力を超える依頼は受けられない。


 それが、ギルドという“秩序”だった。


 ---


 アントスの通りを歩きながら、アリアは少し得意げに語っていた。


「つまりね、ランクが上がれば上がるほどその冒険者は強いってこと」


 どこか先生気分。


 ディーンは腕を組み、感心したように頷く。


「ふ~なるほどなぁ……ところでアリアは所属してるのか?」


「私? 私は所属してないけど、たまに訓練所を借りてるよ」


「じゃあギルドの案内も任せていいよな?」


 アリアはぱっと笑う。


「うん! 任せて」


 歩みを速める。


 やがて、木造二階建ての建物が見えてくる。


 入口の上には、大きく“冒険者ギルド”の看板。


「着いたよ」


 扉を押し開ける。


 酒の匂いと革の匂い、鉄の匂いが混ざる。


 ざわめき。笑い声。武器が机に当たる音。


「冒険者ギルドへようこそ。どのようなご用件でしょうか?」


 受付嬢が、マニュアル通りの笑顔で応対する。


「あの、実は……」


 アリアが話し始めた、その瞬間。


「おぉ!! アリアじゃねえか!」


 低く太い声が、場の空気を裂いた。


 振り向く。


 身長一九〇センチほどの大柄な男。

 背中には巨大な斧。


 スカー・フール。


 アリアの顔が一瞬だけ引きつる。


「あら、スカーさん。ごきげんよう」


 作り笑い。


「やっとこの俺様のパーティーに加わる気になったか? アッハッハ! そりゃそうだよな! 俺らはCランクパーティー! そして俺様はBランクの凄腕冒険者だ!」


 声がやたらと大きい。


「普通は入りたくて懇願するよな~!」


 アリアのこめかみがぴくりと動く。


「で・す・か・ら! 私は冒険者ではないのでお断りします! って何度も言ってますよね!?」


 はっきりと言い切る。


 その横で、ディーンが小声で尋ねる。


「……なぁ、このオッサン何なんだ?」


 アリアも小声で。


「彼は【スカー・フール】。この町の冒険者で、最近なにかと私をパーティーに誘ってくるの……」


「アイツは強いのか?」


「……正直強いと思う。彼はBランクの冒険者で……Bランクはこの町に三人しかいないの。B以上はいないし、ギルド長は昔Aランクだったけど引退してるし」


「ふ~ん」


 気のない返事。


「でも素行が悪くて要注意人物なの。それでも追い出せないのは、Bランクが少ないから」


 そのとき。


「何をコソコソ話してるんだアリア! それにそのちっこくて弱そうなヤツは誰だ!?」


 スカーが怒鳴る。


 アリアが説明しようとした瞬間。


 ディーンが一歩前に出た。


「俺はアリアの連れだ。オッサン」


 一瞬、空気が凍る。


「俺様という男がありながら、こんな弱っちそうな男を連れやがって!!」


 逆上。


 子分の小柄な男が短刀を抜く。


「こいつバラしてやりましょうか!」


「いや! 俺様が直々にブチのめしてやる!!」


 スカーが掴みかかる。


 だが――


 半歩。


 ディーンは後ろへ下がる。


 掴み損ねた手首を、逆に掴む。


「折れるぞ、この腕」


「何を馬鹿な――」


 その瞬間。


 ディーンの指が鋼のように硬化する。


 【家伝体術かでんたいじゅつ指鋼しこう】。


 ミシ、と骨が軋む。


「ぐあああああ!!」


 悲鳴。


 だがスカーは斧を横薙ぎに振る。


 ディーンは、もう片方の手でそれを受け止めた。


 刃が止まる。


 そのまま、指鋼で刃を握り――


 破壊。


 金属が砕け散る。


 同時に、手首も砕ける。


 スカーが膝をつく。


「て、てめぇ……!」


 小柄な男が高速で襲いかかる。


 Cランクだが、速度はB相当。


 刃が閃く。


 しかし。


 次の瞬間、男の視界からディーンが消えた。


 【家伝体術かでんたいじゅつ無歩むほ


 足音も、気配も、何も残さない。


「どこだ!?」


 肩に、軽く触れられる感触。


 瞬間。


 全身が凍りつく。


 【家伝体術かでんたいじゅつ無流むりゅう】。


 力の流れを止められ、身体は一切動かない。


 一瞬。


 静寂。


 ディーンは淡々と言う。


「……おいデカいオッサン。この小さいオッサン連れて出てけ。あと二度とアリアに近づくな」


 スカーは歯を食いしばりながら立ち上がり、子分を担いで逃げるように出て行った。


 静寂。


 そして。


 拍手。


「すげぇ……!」


「一瞬だったぞ!」


 ざわめきが熱を帯びる。


「ディーンありがとう!!」


 アリアが満面の笑みで抱きつく。


 その様子を、二階から見下ろす影。


 スカーに負けぬ体躯の女性。


 腕を組み、にやりと笑う。


「なかなか面白そうなヤツがきたね」


 ギルドの空気が、わずかに変わった。


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