第1話(8:00) ショップ裏の百合決闘(後編)

「《豹の源ルキリア》・《亀の源リステス》・《鴉の源スカウス》…召喚時効果ログイン・ボーナス!」

天使エンジェル・デッキ使い、魚津千礼うおづせれの本領発揮。

ヒョウ・亀・カラスの怪人めいた、頭上のハイロウを除き、

まったく天使らしくない見た目のスピリットが効果を発揮する。


「ルキリアの効果!他の天使が場に出る度に4点のバーストを回復!」

豹の始祖たる天使は、使い手に追加8点の寿命を加える。

「リステスの効果!バーストが初期値を上回ること1点につき、

全ての天使のパワーを2000上昇させる!」

亀の始祖たる天使は、軍勢に16000の力を加える。

「そしてスカウスの効果は、コンストラクトの追放」

「命を奪う唾棄すべき兵器を罰します!」


志賀帯夢しがたいむの戦術の核である、《魔王の槌ルシファーズハンマー》が標的になる。

「おっと、コンボを邪魔する悪魔はご遠慮願うぜ。インタラプト!」

光のエナジーを1点支払い、呪文が詠唱される。

すると、天使の翼のようなエフェクトが対象を包む。

《守護する介入》の効果で、《スカウス》の除去効果は阻止された。

「そこは同じ、光属性のデッキということね…」

「けれど、私の天使の軍勢エンジェル・カンパニーは最早止められない!」


【エンジェル・カンパニー】

"天使の中隊"を意味するデッキネーミング。

コスト軽減や防御札を用いて手堅く序盤を凌ぐ安定戦法と、

《エンジェル・アクト》による大量展開の上振れを両立したアーキタイプ。

細かい弱点があるため、大型大会での実績は振るわないが、

プレイ難度の低さもあり、一定数の使い手がいる。



-8:30



「私の天使たち、基礎パワーはいずれも4000」

「しかし、リステスの効果で全体に+16000!」

「よってパワー20000が3体!あなたのハンマーは最早蟷螂の斧ね!」


 《豹の源ルキリア》パワー4000→20000

 《亀の源リステス》パワー4000→20000

 《鴉の源スカウス》パワー4000→20000


「確かに、こっちの32200でもパワー負けだな」


《X-ドリル・センチネル》

 《魔王の槌ルシファーズハンマー》装備

 パワー:32200


亀天使リステスの効果が、だがな」

「今更バトル前に戻れるつもりかしら?」

「2枚目のインタラプト、《抵抗軍の奮闘》をX=1で詠唱!」


《抵抗軍の奮闘》

  種別:スペル

  エレメント:光・火

  コスト:2+X

  効果:

  X以下のコストであるコンストラクトを山札から探す。

 それが装備であれば場に出し、それ以外は手札に加える。


「Xの値は1。よって今から3コストを支払うぞ」


コストに記載されたXとは、プレイヤーの任意の値。

つまり《抵抗軍の奮闘》をX=1で詠唱すれば、

基礎コストの光と火1点ずつに加えて、もう1点のエナジーが必用。


「どうやら天使の威光を畏れて、計算が危ういようね!」

「あなたは既に、《守護する介入》をプレイしている」

「とっても便利な防御呪文だけど、それでもコストは1払った」

「後手第3ターン。エナジーは3点。どうあがいてもX=1以上では…」


「それはどうかな?」


詠唱に併せて装備品である《魔王の槌ルシファーズハンマー》をロールする帯夢たいむ

「まさか装備品から、エナジーの供給をするつもり!?」

「そのまさかだよ、こいつは共鳴呪文なんでね」


《抵抗軍の奮闘》

  タイプ:インタラプト・共鳴

  コストの支払いの助けとして、エナジーの代わりに

 スピリットやコンストラクトをロールしてもよい。


基本的にスピリット・キャスターズのカードは、

ロールして使用を宣言する。

エナジーならコストの支払い時、

スピリットであれば攻撃に参加した際に。

しかし例外こそがカードゲームの醍醐味。

他のカードにくっつく以外に役割がない、装備品。

これらは基本的に、使用してもロールされることがない。


「足りないコストをハンマーから賄い、詠唱完了!」

「デッキから緊急発進!《W-シャーク・カタパルト》!」


「だけど、そんな装備品を置いたところで」

「まあ最後まで効果を聞けって」

「《Y-ドラゴン・スピーダー》と同様に、

《W-シャーク・カタパルト》もリモート・ユニオン効果発動!」

デッキから同種の装備品が現れ、変形合体する。


《W-シャーク・カタパルト》

 召喚時効果ログインボーナス ※これがコンストラクトでない時

 リモート・ユニオン(1600)

 同能力かつ名前の異なる

 コンストラクトを1枚選び、デッキから場に置く。

 それはスピリットであり、上記パワーを持ち、

 コンストラクトでなく、このカードを装備する。

 バーストは0である。


「そして、装備されたことで効果を発揮!」


《W-シャーク・カタパルト》

 効果:

 これを装備したスピリットのパワーを+400する

 装備しているスピリットが場にある限り適用する。

 相手がコストを支払わずカードをプレイする度に、

 1枚につきバーストに4点のダメージを与える。


「複合したインタラプトの処理順は、覚えているな?」

「一番最後に使用されたカードから、効果を発揮する…」


つまり

《抵抗軍の奮闘》によってデッキから場に出た

《W-シャーク・カタパルト》が装備状態で効果を発揮。

その1つ前に唱えられた《守護する介入》が先回りして保護呪文に。

最初に唱えた《エンジェル・アクト》によって

3体の天使が場に呼び出される。


「さあ、ライフ計算は黒字で済んだか!」

「天使たちの真価は、初期バースト値を上回らなければ…」

《豹の源ルキリア》の効果で、

使場に出る度に、1体につき4点の回復。

一方、《W-シャーク・カタパルト》の4点ダメージを起爆するのは

コストを踏み倒した3使だ。


8の回復と12のダメージ。

初期値の20から差し引き16点に削れた千礼せれのバーストでは、

天使の追加効果を得られなくなってしまった。


「バトルだ!《Y-ドラゴン・スピーダー》の効果を忘れるなよ!」


《Y-ドラゴン・スピーダー》

装備しているスピリットが戦闘を行う際に相手は、

3体以上のスピリットでなければ防御ブロックできない。


「私の天使3体でライフを守ります…」

初期値のパワー4000に戻った天使では、

3人がかりでもパワー32200の《魔王の槌ルシファーズハンマー》の破壊力を防げない。

「よし、このままエンド・シークエンスだ」


「わ、わたしのターン」

一撃必殺のハンマーを防ぐには、3体のスピリットを盾にする必要がある。

しかし《エンジェル・アクト》のような踏み倒し効果では、

《W-シャーク・カタパルト》の餌食になってライフを詰められる。

よって時間稼ぎのためには、

手札から正規の手順で召喚するしかないが…


「やってしまったなあ。特にすることなくエンドよ」

《天使のくれた時間》のコストを賄うため、

手札に引き込んだエンジェルを使い切ってしまった。

2枚目の《エンジェル・アクト》も引き込めず。


よりによって防御ブロックに参加できない

《全の源ジアドス》が千礼せれの手札でダブついていた。


「俺のターン!…このバトルで終わらせる」

バースト20点。一撃必殺の鉄槌が乙女の頭上に降り注いだ。



志賀帯夢しがたいむは雇われ、カードの精霊を狩っている。

預けられた装置から、スピリット・キャスターズの裏面を引き抜く。

まっさらな表面のカードを手裏剣の様に、敗者のデッキケースへ飛ばす。

情けない男の悲鳴にも聞こえる音が木霊し、

投げつけたカードはひとりでに手元へ戻る。

《全の源ジアドス》、封印完了。

人除けに張られた精霊使いのゲームの場、

黒い霧のヴェールもサラサラと崩れるように消えた。



-8:40



「お姉さまと、呼ばせてください!」

「は?お前記憶が残って、ええ??」

決闘デュエルが終わり、立ち去る帯夢たいむ千礼せれがしがみつく。

「この地域じゃ常に強い人の傍にいたいんです!」

「俺は日帰りだよ!」

話が違う。精霊を封印すれば、関連の記憶は消えると聞いていた。

「おいウィズ!マローの考えなし!緊急なんだよ!」

「お爺様のデザインに間違いはありません」


世界的カードデザイナー2人を祖父に持つ、

ウィザリー・ローズウォーター・カズキングダムが応じる。

「精霊に関する記憶は消えるんじゃないのか、倒したら!」

「まあ、試験段階ですから…」

キャンキャンと犬のように吠える帯夢たいむをよそに、

負かしたと思しき千礼せれをじぃっと観察するウィズ。


「あなた、カー・ナガワーのショップ事情にお詳しい?」

「強そうなお姉さまが増えた!」

「お姉さまはコイツだけにしてくれ!」

「志賀様。私は今、想定より対応できる時間が減る状況です」

「おいおい今回ばっかりは計画通りって顔をしてくれ」


「よって、これよりは魚津様と協力して対処してください」

ふざけんなこのヤロー! 帯夢たいむの絶叫は無視された。

こうして精霊狩りの珍道中、娘一匹はお姉様と妹分になった。

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