第1話(8:00) ショップ裏の百合決闘(前編)

「逃げないでくれよ、女同士だろ?」

黒髪に黒目、衣服の色合いも灰と黒の女学生。

走り出した初速が一歩及ばず、シャッターに行方を阻まれる。

絡む不良女は地味な彼女と対照的に、赤髪と赤のライダースーツ。

焦げ跡が如き茶色い瞳で獲物を睨む、志賀帯夢しがたいむ

「ショップの開店時間まで1時間はあるよん」

建物脇の配電盤を叩き壊し、カードデッキを構える。

「ストリートでも、やっていいことと悪い事がありますよ!」

「いや、2人っきりのデートと洒落込もうじゃないの」

片手間でバイクに設置された装置へ入力。黒い霧が散布された。



-7:30



「おい!プロプレイヤーがいるじゃねえか!」

「マッチメイクについてはご心配なく。スペードの10が空席ですから」

そういうことじゃねえよ。抗弁を思い浮かべ諦める。

「それに、リーグマッチではありません」

「とっておきのプレ・リリース先行体験宣伝イベントです」


帯夢たいむの雇い主、同年代とは思えない風格を放つ金髪の少女。

スピリット・キャスターズNEXTの販売元、罪園ざいおんCPの重役だ。

「なるほど、最悪俺が負けても宣伝の観点じゃ損はしないと」

と呼ばれる怪現象。

罪園としては不良品の回収・調査のため雇われたのが精霊狩り。

ハンターにはプレ・リリースの名目で、

碌に市場に出回っていない最新弾のカードも与えられていた。


「新しいカードで対策させないって話はわかるけど」

「俺だってこのデッキに慣れとかないと、振り回されるだろうよ」

「でしたら、この半日のうちに慣れて頂きましょう」

デバイスに標的の"精霊使い"の居所と、顔写真等が表示される。

「一応聞いておくが、個人情報だよな?」

「カー・ナガワー市民の8割が、決闘者デュエリスト登録済。プレイヤー情報です」


帯夢たいむは馬鹿馬鹿しくなって会話を打ち切った。

噂には聞いていたが、企業城下町を通り越して罪園ザイオンの行政特区だ。

想像よりもずっと気を引き締めて、バイトを完遂しないとな。

19時。残り11時間半程度でプロ決闘者デュエリスト撃破。

最終目標である丸子蘇林まるこそりんのデッキと顔をイメージ。

「何はともあれ、てめーが慣れなきゃカードは使えねえや」

肩慣らしにちょうどいい実力者として、地元のショップ常連。

魚津千礼うおづせれに狙いを定めた。



-8:00


赤ライスーのヤバい女に追われたと思いきや、現実を遮る黒い霧。

千礼せれ入手以降の経験から精霊絡みと察したが、

それ以上は知識と思考が追い付かない。

「構えなよ。女同士、しかも同じゲームのプレイヤーだろ」

渋々とデッキを取り出し、さも当然のように立ったまま手札を構える。

カードゲーマーの性か、原作アニメのような展開に心躍る自分がいる。


二者の脳内に先行・後攻の文字が、通告のようによぎった。


「「決闘デュエル!」」


精霊使い同士の真剣勝負。

ゲーム外の宣言など最早不要だ。



「私のターン!光のエナジーをチャージしてエンドです!」

エナジー、スピリット・キャスターズにおける全ての源。

スピキャスにおいて全てのカードは、

毎ターン供給されるエナジーから指定コストを支払いプレイする。

「マイペースな立ち上がりで、俺の速攻デッキに間に合うかな!」

速攻デッキ…!

俗にアグロとも呼ばれる、デッキ構築の類型の一種。

「火のエナジーをチャージ。そして」

やはりエレメントは火!

スピキャスのカードは、火・水・風・地・光・闇のいずれかに属す。

各色ごとに得意分野があり、その中でも火は速攻の代名詞だ。

そして、火の速攻戦術と言えば初手は軽量スピリット…


装備エクイップ・コンストラクト!《Y-ドラゴン・スピーダー》!」


《Y-ドラゴン・スピーダー》

 種別:コンストラクト

 エレメント:火

 コスト:1

 タイプ:装備品(+3)

 効果:

 これを装備したスピリットのパワーを+400する

 装備しているスピリットが戦闘を行う際に相手は、

 3体以上のスピリットでなければ防御ブロックできない。



「装備品!?スピリットもなしにどうして!」

コンストラクト、つまりスピリットではない言わば置物。

装備の名が示す通り、武器の使い手がいなければ機能しない。

「宣言を最後まで聞いてくれよ、こいつの効果には続きがある」



《Y-ドラゴン・スピーダー》

 召喚時効果ログインボーナス ※これがコンストラクトでない時

 リモート・ユニオン(1800)

 同能力かつ名前の異なる

 コンストラクトを1枚選び、デッキから場に置く。

 それはスピリットであり、上記パワーを持ち、

 コンストラクトでなく、このカードを装備する。

 バーストは0である。


「装備を装備する…疑似的なスピリットってこと!?」

「ご明察。噂通りそこそこの腕前だ」

「来い!《X-ドリルセンチネル》!」


実在感溢れる機械音と共にグラフィック…

らしきものが霧の中に投影され、乗り物と乗り物が合体。

簡素なロボット兵器の姿を現した。


「コスト1でパワー2200だなんて…」

「代わりにバーストは0。プレイヤーにダメージが届かない」

「どのみち先行第1ターンは攻撃できない。エンドだ」


バースト0の壊れカードが最近多すぎる!

絶叫する千礼せれに、帯夢たいむは内心で同意した。




-8:10

罪園ザイオンCP評議会。

子飼いの精霊狩りの勝負を見守っていたウィズだが、

同社内の別部屋に急遽召集された。

この会議のかったるいところは、老人たちの趣味。

意味もなくモノリス状のアバターを着込まねばならない。



「どういうつもりだねローズウォーター開発主任代理」

「精霊狩りは君の独断で進めてもらっては困る」

ウィザリー・ローズウォーター・カズキンダムは末席。

ハートのジャックのシンボルが刻まれたモノリスだ。

J・Q・Kそして空席のジョーカー。

隠居したゲームの創造主。

罪園ザイオンにとっても恩義あるリチャードの空席を含め、

トランプの絵札の席順で、13人の議席が用意されている。


「おや。リチャードお爺様の孫でも、人違いでなくて?」

しかし、ウィズとて発言権が弱いわけではない。

むしろ、ハートのスートには慣習的にリチャードの親戚が多い。

罪園ザイオンは一族の専横に対して寛容にならざるを得ない。

「未成年の私の従妹を使って、何かお考えがあるようですが」


黙れ!貴様も大学を出ただけの未成年だろう!

会議はあっという間に紛糾し、踊り始めた。

"カズキンダム"のみならず"マロー"の血を引く私が、

早く組織を掌握しなければならない。


沈黙を貫く恐らくは今回の発起人。

ハートのキングの席に目をやる。

丸子威光まるこ いこう。興行部門を牛耳るトップ。

ローズウォーター家の血縁者であり、

ウィズの存在故にカズキンダムの身内になった一族。


ザイオン・スピリット・リーグ。通称ZSL。

プロ決闘者デュエリストの部門の管轄を、私が預かるべきだ。

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