第5話 レビュー星4.2、“会話がうるさい”

異世界生活、二日目。


俺はコンビニのレジに立っていた。


もう終わりだ。


転生して二日でバイト。


しかも異世界。


普通こういうのって、

剣とか魔法とかギルドとかじゃないのか?


なんで俺、

レジ横で揚げドラゴン肉まん勧めてるんだ。


「期間限定ですよ〜」


「おすすめです〜」


完全にコンビニ店員である。


だが。


問題が起きていた。


ベルク店長が震えながら空中画面を見ている。


「……増えてる」


「何がです?」


「レビューだ」


ルナも覗き込む。


《Life Support Terminal 7号店》

総合評価:4.2→4.8


《接客に人間味がある》

《なぜかまた来たくなる》

《雑談が発生する珍しい店舗》

《店員がこちらを“客”ではなく“人”として扱う》


俺は嫌な予感がした。


「……これ俺のせい?」


ベルクが満面の笑みを浮かべる。


「君のおかげだ!!!」


「嫌な方向に才能発揮してるな俺!?」


ルナがスクロールする。


「でも低評価もある」


《店員が急に話しかけてきた》

《買い物効率が低下した》

《感情的距離が近い》

《ノイズが多い》


最後ひどい。


俺、ノイズ扱い。


ベルクは真顔になった。


「実は今、問題になってるんだ」


「何が?」


「“人間離れしすぎた社会”が」


店長は空中モニターを広げた。


そこにはニュース記事。


《若年層の共感能力低下》


《孤独死増加》


《感情同期AI依存症、過去最多》


《雑談経験ゼロ世代、34%突破》


「うわ……」


ルナが静かに言う。


「この世界、昔はもっと人間っぽかったらしいよ」


「昔?」


「今みたいに全部最適化される前」


確かにこの世界。


便利だ。


便利すぎる。


でも。


“余白”がない。


雑談も。

寄り道も。

無駄話も。

遠回りも。


全部削除されている。


人間って、

そんな綺麗に最適化していい生き物だったっけ。


その時、自動ドアが開いた。


入ってきたのは、昨日の孤児の少女。


今日は少しだけ顔色がいい。


俺を見ると、小さく手を振った。


「……よう」


少女は緊張した顔でレジに来る。


手には小さな硬貨。


「パン、ください」


ルナが目を見開く。


「お金、持ってたの?」


少女はコクリと頷く。


「働いた」


「何したんだ?」


「廃材拾い」


俺は胸の奥が少し痛くなった。


すると少女は、小さな声で言った。


「昨日……嬉しかったから」


「え?」


「だから、今日は自分で買う」


その瞬間。


天井の光球が点滅。


《自立行動による幸福指数上昇を確認》


《原因分析中》


《未解析》


また未解析かよ。


俺はパンを袋に入れながら聞いた。


「名前なんて言うんだ?」


少女は少し迷ってから答えた。


「ミア」


「ミアか。俺は玲司」


「れいじ」


たどたどしい発音。


でもその時。


ミアが、ほんの少しだけ笑った。


その笑顔を見た瞬間。


ルナが固まった。


「……え?」


「どうした?」


「今の」


ルナはミアを見ている。


「自然笑顔……初めて見たかも」


「そんなレベル!?」


未来終わってる。


完全に終わってる。


その時だった。


突然、店内のモニターが赤く点灯した。


《中央感情管理局より通知》


嫌な名前来た。


《Life Support Terminal 7号店》


《感情変動値、基準超過》


《管理官を派遣します》


ベルクの顔色が変わる。


「まずい……」


「何が?」


ルナが小声で言った。


「“感情管理官”」


「……何それ」


誰も答えない。


ただ。


店内の空気だけが、一気に冷えた。


数分後。


自動ドアが開く。


入ってきたのは、一人の女だった。


黒いコート。


銀色の髪。


無機質な瞳。


まるでAIみたいな顔。


胸元には徽章。


《中央感情管理局》


女は店内を見渡す。


静かに。


冷たく。


そして俺を見た。


「あなたが、“雑談を広めている転生者”ですね」


言い方が完全にウイルス。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る