神子畑選鉱場

 コンビニの道向かいにやたらと由緒と風格があるのが生野駅か。マップによると播但線の向こう側が生野の旧市街で、どこかから線路を越えて入る必要があるのだけど、


「たぶんここぐらいに道路案内があるはず」


 もう少し先で右折か。突き当たって左折すれば、後は一本道で生野銀山に行けそうだ。走って行くと、さすがはメジャーな観光地で案内看板もバッチリだ。街中を走って行くとここみたいだ。来たことあるけどウロ覚えだな。


「クルマに乗せられて来たからだろ」


 バイクで来るとだいぶイメージが違うな。ここまでスムーズに来れたのは良いけど時間が余ったな。時間潰しに坑道見学をするかって案も出たけど、千円はちと高いな。


「三菱もケチだ」


 仕方が無いからお土産屋さんをウロウロ。銀製品も売ってたけど、


「やっぱり金が良いよ」


 これは値段だけじゃなく銀製品ってすぐにくすむのよね。そうこうしてるうちにレストランが開いてくれてメニューを見たけど、


「ここもインバウンド様料金かよ」


 そこまで高くないから観光地料金だろ。というか、どこも値上げしてるから、こんなものじゃないかな。但馬牛使用ってなってるし。


「それってハヤシライスだけじゃないの。美少女学生はカレーだ」


 美少女とカレーは関係ないだろ。ランチ代も頭が痛いよ。


「学食の有難味がよくわかる」


 ここからは但馬街道に戻って北上するのだけど、問題はあの交差点を見つけられるかなんだよね。こればっかりは行ってみないとわからない。そこが楽しみでもあるのがツーリングだ。


「そういうけど、こんなところまで来て迷子はゴメンだ」


 但馬街道に戻り、走って行くとまた下りか。生野って高地になってるみたい。けっこう下るもの。播但道の入口みたいなところがゴチャゴチャあって、橋を渡ったところで、


「次の交差点のはず。だってシニク酷道はこっちって出てるじゃない」


 小さいけど神子畑選鉱場跡の案内もあったぞ。入ったら錆びの浮いた橋を渡り、トンネルを潜り、こんなところに播但道のICか。入っても仕方ないから右折したら田舎道だ。どうも播但道のICまで道路整備をしたけど、


「シニク酷道が牙を剥いて来た」


 マジでそうかも。神子畑に行くにはシニク酷道を走らないといけないのだけど、とにもかくにも酷道だ。どんな試練がカノンたちを待ち受けてるのだろうか。


「カノン先輩、脅さないで下さいよ」


 シニク酷道を舐めるな。生きて帰れたら幸せと思いなさい。緊張しながら走ってたのだけど、そんなに悪くないな。いや、バイクなら快走路として良いんじゃないかな。


「あれ、見て行こう」


 神子畑鋳鉄橋ってなってるけど、へぇ、ちゃんと駐車場も整備されてるじゃないの。肝心の橋はあれか。これも神子畑から鉱石を運ぶために作られたみたいだけど、木製の橋では壊れると考えたからじゃないかな。


「でもどうして鋼鉄じゃなくて鋳鉄なのですか?」


 明治十六年の話だから鋼鉄が手に入りにくかったからじゃないかな。そこから進んで行くと、見えてきた、見えて来た。こりゃ、凄いわ。写真で見るよりもっと迫力がある。まさに古代文明の大神殿の跡って感じがする。


 ここもちゃんと駐車場も整備されていて公園みたいにもなってるよ。バイクを停めたら、まず駐車場に隣接された神子畑交流館に行ってみた。資料館みたいになってるけど、


「神選ってエラそうな名前だな」


 たぶん神子畑選鉱場の略称だろうけど、ここが動いていたころはそう呼ばれていたのじゃないかな。小さな資料館だけどジオラマが良く出来てるな。かつては、これぐらいの街が広がっていたのか。選鉱場跡を見上げながらムーセ旧居へ、


「異人館ですね」


 他に言いようがないけど、明治の頃は欧米技術の導入のために数多くのお雇い外国人が活躍してるのよね。それにしても、よく日本まで来たものだ。ムーセはフランス人らしいけど、今だってフランスは遠いじゃない。明治の頃なんて地球の果てみたいな感覚の気がする。


「それだけのお手当を払ったからだろ」


 そうじゃなければ、誰が日本になんて来るものか。でも知ってる範囲で言えば、お雇い外国人たちはちゃんと頼まれた仕事を果たしてる気がするんだ。そりゃ、例外を言い出せばキリがないだろうけど、少なくともハズレばっかりで苦労したって話は聞いた事ないもの。


「サムライが怖かったとか」


 それも無いとは言わないけど、プロとしてのプライドが高かったんだろうな。わざわざ日本まで来るぐらいだし、そういう人を選んだかもだ。だってさ、令和になってさえ、欧米人って黄色人種を見下してるじゃない。


「ムーミンの国までそうだったのはガッカリした」


 あれは例外じゃなくて、一皮剥けば黄色いサルだって心の底では思ってるんだろ。なのに良くやってくれたと思うもの。だってさ、明治と言ってもこの頃なら実質的には江戸時代みたいなものじゃない。


「先輩も言ってたな」


 江戸時代はまだ電気って概念すらなかったのよね。明治維新で文明開化ってなったけど、そんなものがあったのは東京とか大阪ぐらいじゃないかな。当時の日本は弱小で欧米列強の植民地になってないのが不思議なぐらい。


 明治新政府が出来ても列強の恐怖は続き、列強に植民地にされないための富国強兵政策を取ったのは教科書レベルだ。国を産業で富ませ、そのカネで列強に侵略されないように軍備を強化しようぐらいの話だよ。


「だけど不平等条約下の海外貿易だし、産業レベルが大人と子どもぐらい差があるのよね」


 だから女工哀史が生まれるぐらいに、売れるものは死に物狂いで売りまくったぐらいで良いはず。近代産業だって国が工場まで作って育てて、それを民間に譲って発展させたぐらいだもの。


「強兵政策は、戦後にボロクソ言われたけど、あれは奇跡的レベルだって先輩は言ってたよね」


 明治二十七年に日清戦争、明治三十七年に日露戦争があって、教科書では日清日露の二つの戦争に勝って軍国主義にまっしぐらみたいになってるけど、、


「日露戦争の相手って列強の一角の大国ロシアだぞ」


 海軍を例に挙げると明治が始まった頃はそれこそ咸臨丸の時代だ。時代的に木造軍艦から鋼鉄の蒸気式軍艦に移り変わる頃になっていたそうだけど、日清戦争までに六万トンまで増やして清国艦隊に勝っている。


 ここまでたった三十年足らずだぞ。そこからたったに十年で二十六万トンまで軍艦数を増やしただけじゃなく、当時でも最新式の戦艦、巡洋艦をそろえる艦隊を作り上げ運用して、二倍以上の戦艦を持つロシヤ海軍に勝ってしまってる。


 その艦隊運用も驚異的で、日本海海戦は海軍史にも残るぐらいの完勝劇なんだよ。これってさ、平成から今までの期間ぐらいで成し遂げてるんだもの。それも平成の始まりの頃はチョン髷で大名行列が歩いてたんだもの。


 軍備ばかりに目が行くけど、軍備を備えられるだけど経済力、技術力だって付けたからこそ出来た事だよ。誤解して欲しくないけど、戦争を賛美してるのじゃなく、当時のバリバリの列強であるロシアと戦えるぐらいに日本が強くなった点が奇跡的ってこと。


 そんな近代化の礎を築いたのがお雇い外国人だよ。彼らが手抜きしていたら、今の日本はだいぶ違ってたと思うもの。それにしても住居こそ立派だけど、そこから見える日本人はやっぱり、


「物覚えの良い黄色いサルだったんだろうな」


 心の底ではね。モース住居の先にあるのが来るときにも見えた、


「シックナーって言うらしいですよ」


 選鉱設備の一つらしいけど、まるで円柱が建ち並ぶギリシャ神殿みたいだ。でもさぁ、あんまり見に来る人はいないんだろうな。


「そうなるよね。資料館こそあったけど、お茶すら飲めるところもないもの」


 生野銀山とセットで回るには遠いんだろうな。


「竹田城もセットにしたらどうだろ」


 そんな事は誰でも考えるはずだよ。


「生野銀山でもあれぐらいしかいないものね」


 観光地って目玉になるものがあって見に来るはずで、生野銀山なら坑道跡だろうし、竹田城ならずばり城跡の石垣だろ。神子畑だってこの壮大な廃墟はあるけど、言ったら悪いけどこれしかない。


 観光地って来た客が落としたカネで栄えるのだけど、神子畑には落とすための仕組みがないよ。この辺はニワトリが先か、卵が先かって話にもなるけど、


「リピーターは苦しそうだね」


 見るだけの価値は余裕であるけど、また来るかって聞かれたら困るもの。そういう観光地って他にもたくさんあるだろうけど、客を呼び寄せるには、何がなんでも見に行きたくなる情報発信を全国にするしかないか。


「そんなのが簡単に出来たら、それこそ苦労しないだろ」


 御意。だってテンコモリ予算をかけてプロデュースしたとこもコケてるらしいもの。


「沖縄のテーマパークだろ。あれもどうなるんだろ」


 知るものか。これから、あれこれテコ入れするんじゃないかな。知名度だけは広めるのに成功してるもの。とりあえずモンキーでは沖縄に行けない。


「神戸からフェリーがあったんじゃないかな」


 あれって貨物船のはず。そんなんに乗るよりまずは阿蘇だろ。


「行けたら良いのにね」

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