第20話 迫る死の時間









 サンダーボルトが死体の山を築き上げる。

 しかし明らかにさっきまでと超獣の動きが違う。

 アルマジロと昆虫が混じったような外見の超獣カテゴリー3超獣がゆっくりとこちらに迫ってきている。そして他の超獣がそのカテゴリー3超獣の後ろに隠れながらユウヒに迫ってきていた。

 サンダーボルトの銃弾はそのカテゴリー3超獣に命中してもエネルギー弾が弾き飛ばされてあまり効果がないように見えた。


「なんですかあのカテゴリー3は!?」


『エネルギー弾を効率よく弾くように発達した甲殻を持っているようだ。エネルギー弾は通用しにくい。サンダーボルトは実弾も撃てる。切り替えてみろ』


 マオに言われるがままサンダーボルトのキャリングハンドルのスイッチを切り替えれば実弾に切り替わる。しかしその貫通力の高い弾丸もカテゴリー3超獣に突き刺さるだけで貫通までは至らない。


『ほう、対超獣に特化した弾丸にすら耐性か。あいつの素材は後で欲しいな』


「呑気なこと言ってる場合ですか!」


 弾丸を受け続けた超獣はやがて地面に倒れて動かなくなる。だがすぐにその後ろに隠れていた超獣が飛び出し、瞬時に超獣に囲まれてしまった。

 すぐにサンダーボルトを振り回すが、腕に脚にと超獣が噛み付いてくる。

 その隙にゴリラのようなカテゴリー3超獣が腕を振り上げてユウヒに向かって振り下ろされた。


「ああクソっ!!」


 ユウヒはなんとか噛み付いてきてる超獣ごと飛び退き、噛み付いてきてる超獣のことを引き剥がそうとするが先程の超獣が地面ごと腕を横なぎに振るい、ユウヒはそれをもろに受けて吹き飛んだ。

 何度も地面に激突しながら吹き飛び、なんとか空中で姿勢を立て直し地面に手を付きながら顔を上げる。

 サンダーボルトのことを見れば銃身が歪んで使い物にならなくなっていた。流石にカテゴリー3の攻撃は耐え切れなかったようだ。


『壊れたか。耐久性にはまだ改良の余地があるな。捨てておけ』


「十分頑丈でしたよ!」


 ユウヒはサンダーボルトを投げ捨ててメルトダウンを手に持った。

 メルトダウンを振り上げて地面を砕きながら迫るゴリラのような超獣に向かって振り下ろした。

 エネルギーで作られた斬撃が超獣のことを一刀両断し、ユウヒはそのまま跳躍して近くにあった瓦礫の山の上に飛び乗った。


「サンダーボルト結構気に入っていたんですけど!?」


『改善点は見つかった。私のテスターにはまたいいものを用意してやろう。だが今はそれで頑張ってくれ』


 ここからはサンダーボルトなしの戦いを強いられる。あの地面を埋め尽くすほどの群れの中に飲み込まれたらおしまいだ。

 マオもポンポン武器を出せる訳では無いようで今は「ユウヒ専用ASW」とやらの制作に全力を注いでいるようだ。


「私の武器はあとどれ位で出来るんですか!?」


 ユウヒは迫り来るカテゴリー1、2を薙ぎ払いながら次の高台に移動する。カテゴリー3の数が多くなってきており、サンダーボルトを失ったユウヒの処理能力を大きく上回ってきている。


『もうすぐだ。…なんとか早めている』


「わかりました!」


 ならマオを信用して待つしかない。その専用ASWとやらが現状を打開できるのなら何とか耐えるしかない。


 メルトダウンのエネルギーの斬撃で地上を攻撃しながら移動を繰り返していると、一部のカテゴリー3の超獣が口から液体を吐いたり、カッターのような鱗を対空砲のように発射してユウヒのことを攻撃してくる。

 カテゴリー3が群れるとこんなにも脅威なのかとユウヒは痛感していた。


 地面に着地し、一瞬で超獣が群がってくるのでユウヒはもう一度跳躍した。

 そしてその瞬間。狙ったかのようにユウヒの腹に何かが突き刺さった。


「っ!?」


 苦痛の声を上げる間もなく勢いよく振り回されてユウヒは地面に叩きつけられた。

 起き上がりながら腹部を見ればワイシャツには血が滲み、溢れ出ている。

 慌てて起き上がり、振り下ろされてきた何かを避けた。見ればタコなのか甲殻類なのかよく分からない巨大な超獣が穴の空いた壁の辺りで蠢いていた。どうやらその鋭い触手の先端で突き刺されたらしい。


「カテゴリー…4…!?」


 ユウヒは腹部を抑えながらマオがくれた回復促進剤を適当に太ももに打ち込み、一先ずは出血を止めておいた。

 しかし目の前に迫ってくる超獣の大群は一向に耐える気配はない。それに加えカテゴリー3の割合も増えてきていて、この中でカテゴリー4と戦うことは非常に難しい。


『被弾したのなら再生に専念しろ。……って言っても難しいか』


 あのタコのようなカテゴリー4の触手は予測不能な軌道で暴れ回っていてそれら全てを回避するのはユウヒの反射神経を持っても不可能だった。致命傷は避けてはいるが徐々に切り傷が増えてきていた。


 ユウヒはメルトダウンを振り抜き、向かってくる触腕を切断しながら体当してきた超獣を蹴り返して、しかし後ろから飛びかかってきた超獣に背中を爪で切り刻まれた。

 なんとか振り向きながらも四方八方から迫り来る超獣に対応していたが、触腕がユウヒの身体を吹き飛ばし、ユウヒは瓦礫の山に突っ込んだ。


「がフッ…」


 血を吐き出しながらも立ち上がり、よろめきながらも飛びかかり噛み付いてきた超獣のことを引き剥がす。

 手に持っていたメルトダウンは手を離れてなくなった。あるのはマオから貰った名もない刀だけだ。


 ユウヒは居合の構えを取ると脱力しながらも抜刀するその瞬間だけ力を込めて音速を軽く超えた斬撃を振るう。拡張斬撃エクステンションによって振るわれた斬撃は向かってくる超獣を両断していた。


「なんとか、しなくては……」


 額から流れてくる血液を拭いながらも自分の傷を確認する。もう何度も超獣に噛まれてその体液が身体の中に入り込んできている。

 超獣病を発症するのも時間の問題だ。ただその時は死ぬ覚悟は出来ていた。


 上手くできない呼吸。

 やり方を忘れたからか、何とか深呼吸してみる。それでも肺はもっと多くの酸素を求めていた。


 もう何体倒したのかも覚えていない。

 疲労も限界が来ていた。身体の傷は癒えても蓄積はしている。

 けれどユウヒには戦いを続けなくてはならない理由があった。


 ユウヒはマオがくれた赤い錠剤を手の中で転がしてからそれを口の中に放り込んだ。


「あと何時間ですか」


『あと一時間もしない内に魔弾の射手は到着する。……それまで持つか?』


「なんとかします」


 薬を飲んでから全身の傷が瞬時に癒えて全身が熱を帯びたような感覚があった。疲労感が消えて、先程まで感じていた痛みがどこかへと消える。


「まずはカテゴリー4を……潰す!」


 ユウヒは地面を蹴って超獣の中を駆けていく。

 無数の超獣が襲いかかってくるが刀で斬り捨てながら奥に鎮座しているカテゴリー4に一直線に目指した。


 カテゴリー4超獣が触腕を振り下ろしてくる。

 ユウヒはそれらを、跳んで、身を逸らして、屈んで、避けてから触腕の上に着地すると、器用にその上を走って超獣の本体まで向かった。


 そのままユウヒはカテゴリー4超獣の目と目の間にあたる部分、眉間に向かって刀を突き立てて、突き立てた刀を更に蹴って押し込んだ。


「タコの締め方は知ってんですよッ!」


 タコ型超獣の身体が一瞬で硬直し、その動きを止めた。ユウヒは刀を引き抜きすぐにその場を離脱する。

 カテゴリー4の単独討伐を成し遂げたという快挙を喜ぶ暇もなく、次の瞬間にはまた別の超獣が襲いかかってくる。


 ユウヒはその中を駆け抜け通り抜けていく。ユウヒが通り抜けた後の超獣は切り刻まれて血肉を空中に撒き散らしていた。

 ユウヒが地面に足を着いて向かってくる超獣から順に斬り捨てていく、明らかに自分の限界を超えた状態で身体は動き続けていた。


 二時間もの間超獣の群れと死闘を続けていたユウヒの身体には当然負荷も蓄積している。

 薬でそれらを誤魔化しても、その負の蓄積は唐突にユウヒのことを嘲笑った。


 地面に勢いよく着いた脚ががくんと竦むような感覚。ユウヒは目を見開きながらバランスを崩し、超獣を吹き飛ばしながらこちらに突進してくるサイのような超獣に勢いよく宙に吹き飛ばされた。


 何処かから伸びてきた触腕がユウヒの脚を絡め取ると勢いよくユウヒのことを地面に叩きつけ、叩きつけた直後にユウヒのことをもう一度振り上げて地面に向かって叩きつける。

 それを何度も何度も行い、ズタボロになった状態のユウヒが地面に力無く転がっていた。


『おい! 起きろ!』


「ゔ、あ…」


 身体がピクリとも動かない。

 カテゴリー5の攻撃を受け、疲労など限界に達したのに動き続け、超獣と戦い続けたユウヒの身体は限界を超えて戦い続けた反動を受けていた。


 ゆっくりと流動していく視界の中、超獣が映画のワンシーンのようにスローモーションでこちらに向かってくる様子を捉えた。

 このままだと超獣に群がられて血肉を貪られ、腸を引きずり出されて死ぬことなんて予想に容易い。


 しかし頑張っただろう。

 十分に足止めもした。

 ここで自分が死んでも誰かが何とかしてくれる。


『ユキはどうする!?』


 マオの声が届く。


『生きろ! お前がすべきことはまだ沢山ある! ユウヒ!!』


 視界に転がる黒い液体の入った錠剤。

 ユウヒはそれに手を伸ばし、握り締め、包装を強引に剥がして口の中に放り込んだ。

 口に含んで飲み込む。

 黒い液体は蝕むように瞬く間にユウヒの身体に広がり、血管は黒ずんで視界もまるで一世紀前の映像作品のように白黒になり、音も水中にいるかのように遠くなった。

 傷口は瞬時に再生し、周りの景色は遅いまま、ユウヒはゆっくりと立ち上がる。


「まだ……死ねない……」


 ユウヒは口からボタボタと血液を零しながらも刀を構えた。そして向かってくる超獣に向かって刀を振るうと黒いエネルギーが飛び出し、それは斬撃の形を作り上げながらユウヒの目前に迫っていた数多の超獣を両断していく。


 虚ろな目を浮かべ、思考能力も著しく低下している状況。ユウヒは既に刀を振るうことしか出来なくなっていた。


 死の時間は刻一刻と迫ってきている。

 しかしそれでもユウヒは立ち上がって死に刃向かっていた。





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