高校3年生の主人公「時坂彼方」は、雑誌で見つけた「神隠し」の記事に惹かれ、山奥の海辺の村「空蝉村」を一人で訪れる——。
そのようにして始まる物語は、やがて出会った老婆や女将に助けられながら、彼方が旅館に長期滞在することになるところから本格的に動き出します。
その村の丁寧な描写からは、どこか懐かしい空気がじんわりと伝わってきました。
そんな中、女将から不穏な「神の気配」が垣間見え、物語に不気味な空気が漂い始めます。
雨の描写、音、そして匂いの表現が物語を鮮やかに彩り、日常と非日常の境界線へ越えていく感覚を受けました。
実際に物語も、巫女である「天津傘 雫」の登場により、新たな局面へと進んでいきます。
彼女が語る「慈雨神様」の存在など、あらゆる箇所に神聖な空気が漂っており、作中の沈黙や光の描写が不思議と心地よく胸に響きます。
神社という非日常が背景にありながらも、駄菓子屋やスナックといった日常的なスポットも登場し、その「日常と非日常の往来」が、村の神聖さをよりいっそう浮かび上がらせている——。
そんな深い印象を受けながら読み進めました。
特に印象的だったのは、村で暮らす3人の少年たちと出会う場面です。
昭和の香りが色濃く漂う中、地方と都会の対比や、古き良きノスタルジー、そして彼らの人間関係の展開の早さに驚く様子には、おかしみを感じました。
小さな麺菓子『ウシ麺』や、「本家から怒らせそう」と表現されたお菓子など、コミカルな小道具のセンスも光っています。
まだ物語は途中ですが、「神隠し」の真相がどこへ着地するのか、これからの展開がとても気になります。
ぜひ不思議でどこか懐かしい、美しくも妖しい世界をお楽しみください。