第9話 US人民解放区①

タカハシ・ケンイチ/


 くしゅん!――大きなくしゃみが出る。

今日は特に花粉症がひどい。「鼻がムズムズする」

目に”円”をあてると空中を飛散する花粉の粒子がみえる。

ナツメは言った。「花粉は大変動まえに比べて百倍に増えてるんだって。もしかすると、地球はそのうち腐海にのまれるかも」

「植物なんて全部焼き払えばいいのに」はくしゅん!「糞スギめ」

「そんなことしたらもっと地球が温暖化するよ。ただでさえ暑いのに」

「花粉症じゃないやつに花粉症の気持ちはわかんねーよ」

 くしゅん!――くそっ。


 ナツメ・サヤカがはデッキブラシでゲロを片付けている。

地球儀の広場に、ゾンビの死体はひとつもなかった。

ユニバーサル・スタジオ人民解放区は平和になった。

海遊館の一件以来ゾンビどもはおとなしい。やつらはめったに広場まで登ってこなくなった。

 おれはデッキブラシを素振りをした。「あーあ。ゾンビどもが攻めてこないかな」

「えー。やだよ。また死体掃除なんてしたくない」

「あいつらの頭をデッキブラシで吹き飛ばしたい。そしたら花粉症もわすれられるかも」

 ナツメはいつもの表情をした――お得意の”男子ってバカだよね”ってやつ。

「SNSでそんなこといったら大炎上するよ。だってゾンビの命にだって価値はあるゾンビ・ライブズ・マタ―っていうでしょ」

「よくいうぜ。剣でバラバラに切り刻んでだくせに」


 ”ピンッ、ピンッ!”―緊急メッセージの着信音。

端末をみる。清掃班の班長から「呼び出し」の通知が届いている。「げ」

「いわゆる”担任の先生に呼び出しをくらう”――ってやつだね」

ナツメがおれの端末をのぞきこんでいた。手で口元をおさえてクスクス笑う。

「身に覚えがまったくない」

「タカハシはよく掃除をサボってるけどね。いっとくけど、わたしはチクったりしてないから」

「いきたくない…」またくしゃみが出る。鼻をこする。「っていうか体調わるいから、ナツメが代わりにいってきてくんね?」

 ナツメは「しょうがないなぁ」って顔をしてみせた。

無線機で班長に連絡する。えーと、タカハシくんは体調わるいみたいです。え。はい。はい。わかりました。

わりと長話で嫌な予感がする――ナツメが目を丸くする。笑顔に変わる。

「すごく偉い人が呼んでるから今すぐ来いって。しかも、しかもだよ、ユニバーサル・ヴィータホテルでランチも食べさせてくれるって!」

「マジ?」

「掃除当番はもういいからって。わたしがタカハシを連れてこいって言われた」

「まぁ、掃除をサボれるならいっか」



 ヴィータホテルのロビーは”ラビーとラッセン”のイラストで彩られていた。

ホテルの客はみんな小綺麗な格好をしている。おれたちは戦争孤児のようにみえる。

床はピカピカの大理石で、床を滑って移動できる。ナツメは端末で写真を撮りまくった。

 ホーム・アローン2のマコーレー・カルキン風に、フロントに両腕をのせる。

くしゃみが出る。手で鼻をこする。フロント係はうさんくさそうな目でおれをみた。

「掃除当番の班長に呼ばれたからきたんだけど」

「お名前をおうかがいしてもよろしいですか?」

「タカハシ・ケンイチ」

フロント係は予定表に目を走らせた。「タカハシ様ですね…ミスター・H氏が301号室でお待ちです」

「ミスター・Hってだれ?」

 フロント係は微笑んだ。

「ミスター・H氏はUS人民解放区の経営者です。その他にも、七つのオフィシャルホテルとカジノ施設を運営しておられます。もちろん、当ホテルもそのひとつでございます」

ナツメが言った。「つまり、わたしたちの雇い主ってこと?」

「左様でございます」――フロント係はあちらですという風にエレベーターを示した。

 おれたちはそれを無視して階段を登った。まるでお城みたいな螺旋階段だった。


 301号室をノックする。スーツの男が出てきて、奥の部屋に案内される。

「うわーお!」――思わず声が出る。

 スイートルームはゴルフの打ちっぱなし練習場に作り変えれていた。

窓と壁は全て取り除かれ、バルコニーまで人工芝が敷かれている。

太った男がゴルフクラブを握っている。スイングする。ボールが大阪湾まで飛んでいく。

――間違いなく彼がミスター・Hだ。

 スーツの男と短い会話が交わされる。ミスター・Hがこちらを振り向く。

髪はフサフサでシワも目立たない。ぱっとみは五十台のように見える。

「きみがタカハシ・ケンイチだな。そちらのお嬢さんは遠慮してもらって、男同士で話そうじゃないか」

 ミスター・Hがスーツの男に指示を出す。一階のレストランに連れて行って好きなだけ食べさせてあげなさいと。

ナツメはスーツの男につきそわれて部屋を出ていった。

 

 部屋にふたりだけになった。

ミスター・Hはゴルフクラブを肩に担いだ。皮肉っぽい笑みを顔に浮かべている。

「ゴルフに興味は?」

「デッキブラシでゾンビの頭を飛ばしたことならあります」

 ミスター・Hは笑った。「ゴルフと掃除当番には親和性がありそうじゃないか。わたしも中学校のプール掃除で似たようなことをやったし、思えば、あれが最初の一打だったかもしれない」

 ミスター・HはL字型のソファに座った。おれは作法通り立ったままでいた。彼が手でそこに座れと合図してから、その通りにした。

テーブルには日本酒のボトルと器に盛られたオードブルの食事が置かれていた。

ミスター・Hは好きなものを食べていいと言った。おれは生ハムのメロンを食べた――耳から鳩が飛び出るぐらいうまかった。

「わたしは今年で七十七歳になる。今まで八人の女に十三人の子供を産ませたが十二人は役立たずのボンクラで、優秀なのは一人だけだった。遺伝子の優位性が十三分の一と考えると、結婚はハイリスクな投資だといわざるをえない。それよりも、社内で優秀な人材を探したほうがより効率的だと思わないか?」

「よくわからないです」

「タカハシ君は今年で何歳だ?」

「十八です」

 ミスター・Hはまた皮肉っぽく笑った。それが彼のクセらしい。

「きみは小学五年生か六年生ほどにしか見えない――見えないが、運動能力は大人以上にあるそうじゃないか」彼はバルコニーを指さした。「わたしはあそこから打って二〇〇ヤードがいいところ――せいぜい川の半分まで飛んで池ポチャだ。きみならどうかな?」

 バルコニーからは宇治川を挟んで対岸まで見渡せた。指で四角を作って距離を測る=対岸まで約五〇〇メートル。

「左手で投げても反対側まで飛ばせます」

 ミスター・Hは口笛を吹いた。

「海遊館できみらがやったお手柄について感謝している。そのおかげで、タコの怪物が天保山ビッグブリッジから腰をどかせてくれたいうこともね。【ネクロマンサー】と名乗るバカは度々、US人民解放区に脅迫文を送ってきていた。その事は知っていたかな?」

 三個目の生ハムメロンを食べる。「いや。知らなかったです」

 ミスター・Hは日本酒をグラスに注いだ。クラッカーにキャビアをのせて食べながら酒を飲んだ。

「わたしはきみたちを過小評価していた。掃除当番をゾンビの害虫駆除係という程度にしか考えていなかったが、それはまったくもって人材の無駄遣いだったわけだ。例えるなら、ダービーをとれるサラブレッドを荷馬車に使っていたようなものだ」

 よくわからないが褒められている気がする。

「掃除当番以外の仕事をしろってことですか?」

 ミスター・Hはうなずいた。

「わたしには敵が多い。ユニバーサル・スタジオを買収するのにはかなり強引な手を使った。さらに、わたしは第四区を大阪から完全に独立させるという構想を持っている。これに対して【戊辰獅子会】と【新東京帝国騎士団】は強硬に反対する姿勢をみせている。ネクロマンサーはそのどちらかの組織が与している工作員だとにらんでいる」

「でも、それならアメリカ軍に頼んだほうがいいんじゃないですか? それか、ニュー・セレクト・オーダーとか――」

「米軍はワールド・エンダーの有事以外は基本的に干渉しない。ニュー・セレクト・オーダーとかいう組織は私人逮捕系のインフルエンサーと同レベルで、SNSで承認欲求を満たそうとするバカどもの集団だ」ミスター・Hは”バカ”という発音を強調した。

 おれは黙っていた――あまりに話が複雑でよくわからなかったからだ。

 ミスター・Hは微笑んだ。

「そんなに難しく考える必要はない。”掃除当番”というニュアンスはそのままだ。ようはわたしの邪魔をする者を掃除してもらいたい。倫理的な側面を心配する必要はまったくない。わたしの敵はすべて反社会的なアウトロー集団だからね。それと、給料はいまの五倍出そう。必要経費もその都度請求してもらって構わない」

「五倍!?」――思わず唾が飛ぶほど叫んでしまう。

 ミスター・Hはうなずいて腕をくんだ。

「わたしは今まで色んな事業をてがけてきた。IT、飲食、宇宙事業、テレビ局の買収なんてのもやった。金は宇宙ステーションを買えるほどある。十四歳のころ、借金してでも欲しかったものはPC-8801というパソコンだった。しかし、この歳になってどうしても欲しい物は金で買えない物なんだよ。なにかわかるか?」

 おれは肩をすくめた。「……核兵器とか?」

 ミスター・Hは手を叩いて笑った。目には成功者特有の輝きがあった。

「――わたしが欲しいのは”国”だよ」



 ナツメは一階のレストランで食事を楽しんでいた。

レストランはビュッフェ形式だった。おれもお皿に適当な料理をのせて席につく。

 ナツメはぶどうを口の中に放り込んだ。「イチゴのショートケーキを九個も食べちゃった。ほんとはもっと食べれたんだけど我慢したよ。だってそれ以上食べたら、ひとりでお皿を空にしちゃうから。それってあんまりお上品とは言えないでしょ? だからとりあえずフルーツで我慢しようって思ったの」

 おれは適当に相槌をうった。ナツメのケーキの話なんてどうでもよかった。

ミスター・H氏から聞いた話で頭がいっぱいだった。想像のスケールは拡大し続けている。

頭の中に「5」という数字が浮かぶ。金持ちになった自分を思い浮かべる。豪邸に住んでいる自分と家族を想像する。

「それで。どんなお話だったの?」

 ナツメはマスカットを頬張った。おれはローストビーフをつまんだ。

「なんていうか、すごい話だった」

「どういうこと?」

「ヤマダとモズノも呼んである。全員きたら話す。掃除当番みんなに関係あるからな」


 ヴィータホテルのレストランにヤマダとニエがやってきた。

二人とも豪華なビュッフェに歓声をあげた。

ミスター・Hは気前がいい――「もちろん、きみたち四人全員に同じ給料を払う。レストランの食事も楽しんでもらって構わない」

 食べながらミスター・Hの提案をみんなに話した。「給料五倍だって。もちろんやるだろ?」

 ヤマダとニエは即答した。「やる」

 ナツメは即答しなかった。眉をひそめている。

「なんだよナツメ。なにか不満があるのか?」

「……あのさ。わたしたちが相手をする人が悪い人かどうかわかんなくない?」

「H氏は悪いやつばっかっていってたぞ。反社会的ナントカばっかりだってさ」

「でも、それがホントのことかどうかわかんないじゃん」

 ニエは言った。「相手が悪人かどうかナツメがテレパシーで読めばいい」

 ヤマダは言った。「すくなとも火炎瓶配ってたやつと、海遊館のやつは悪人やったな」

「そんな難しく考えんなって。べつにH氏の言いなりってわけじゃないし、大変動の原則は知ってるだろ?」

「男も女も、大人も子供も関係なし?」

「そうだ。大人がなにを企もうと知ったことじゃない。おれたちには選ぶ権利がある」

 結局、ナツメは了承した。仲間はずれが嫌だったんだろう。


 レストランのウェイターが伝言を持ってきた――ホテルの外で車を待たせてるので急いで来てくれと。

おれたちはしかたなく食事を切り上げた。ポケットに料理をつめこむのを忘れない。

 ホテルの正面には軍用のジープトラックがとまっていた。米軍がよく使っているミリタリー・グリーンの屋根のないモデル。

スーツの男が車体にもたれかかっている。ミスター・Hの部屋にいた男だ。今はサングラスをかけている。

 おれたちはジープに近づいた。スーツの男が言った。「ジャック・バロウだ。ミスター・Hに防衛面でのアドバイザーとして雇われている」

「日本語じょうずだね」

 ジャックは微笑んだ。「生まれは神奈川だ。父が在日米軍でわたしも軍に十五年いた。アメリカよりこっちでの生活のほうが長い」

「それで、おれたちはどこに連れていかれるの?」

「舞洲――すぐお隣の人工島。といっても、地元の人間なら説明はいらないと思うが……」

 ヤマダは言った。「舞洲ってあの【ワールドエンダー】で吹っ飛ばされた?」

「そのとおり。七年前の災害で更地になっていたが、いまは再開発がすすんでいる」

 ニエはジープを指さした。「わたしたちはどこに乗ればいい?」

 バロウ氏はレディに手を差し出した。「申し訳ないが後ろの荷台で我慢してくれ」

おれたちはジープの後ろに乗り込んだ。助手席にはすでに誰かが座っていた――少年だ。

バロウ氏はその少年を紹介した。「こちらはワタナベ・ジュン。ミスター・Hの御子息で、今回はきみたちとチームを組むということになるだろう」

 助手席の少年は後ろを振り返った。丸メガネをかけている少年が言った。

「ワタナベは旧姓だ。父は諸事情で本名を隠してるので、僕もそれを公に名乗ることはできない。だから、僕のことはジュンと覚えてくれればいい」

「じゃあ”ナベジュン”ってよぶわ」

 ジュンはおれを睨んだ。「僕はこうみえて十九歳だ。きたちと同じ”コドモ病を患っているけど、発症したのは九歳と七ヶ月の時」

――納得。ナベジュンはおれたちよりもっと幼くみえた。

「タカハシ・ケンイチ、僕の方がきみより年上だ。だから敬意を示して、”ジュンさん”ってよぶべきなんじゃないか?」

「わかったよ、ワタナベさん」

 ジャックは車のエンジンをかけた。「そろそろ出発しようか」

車が発進する。ジープはがたがたと揺れる。手すりにつかまる。風を感じる。ヤマダは荷台の上で立ち上がった。ナツメとニエは足を外に投げ出して座った。


 ジープトラックは地球儀の広場を通り過ぎ、US人民開放区に沿って走った。

このまままっすぐ進んで、此花大橋こえれば舞洲だ。

車のエンジンと風の音の中で、ジュンは声を張って言った。「僕はスタンフォード大学で分子生物学を学んだ。いまは父の製薬会社で新薬の研究をしている。それは”子供病”の治療に関するもので――」

 ナツメは話をさえぎって言った。「それってガッコーにいったことがあるってこと?」

「実際に通ったのは大学だけだ。十三歳のときに編入試験を受けて合格して十五歳で卒業した」

「うらやましいなあ」

ジュンは話を戻した。「子供病にはある特定のDNAパターンが関係している。このDNAパターンは”C-48遺伝子”と呼ばれていて、大変動ウィルスによって変異したゲノム配列なんだ。僕はそれを修復する化合物を発見した。それはまだ臨床段階だけど――」

 おれも声をはって言った。「あんたの話は難しすぎる。日本語でオッケー?」

 ジュンはむっとした声で言った。「”バカ”のために簡単に説明するなら、僕が開発した新薬を射てば子供病でも”大人”になれるかもってこと」

 まじかよ。

全員が一斉にしゃべる。ぜったい副作用ありそう。どうやって大人になるんだ。身体が膨れ上がるとか。そんなわけないよ。熱が出て気を失って、きづいたら大人になってる。そんなんありえねー。

 バロウさんがおれたちの会話をさえぎった。「雑談はそのへんにして。さて、もうすぐ着くぞ」


 車は此花大橋を渡りきり、舞洲エリアに入った。

左手に大規模な建設中のオブジェ――奇妙なオブジェがみえる。空中に曲線を描いているあれは――。

ナツメが叫んだ。「ジェットコースター!?」

「ミスター・Hはここにユニバーサル・スタジオの拡張エリアを作ろうと計画してる。知ってのとおり、人民解放区のジェットコースター類は大変動で壊れたままだ。地盤が傾いていて修理しようがない。そこで、舞洲にそういった大型のアトラクションを移そうという計画なわけだが……ちょっとした問題が発生していてね」

 ジャックはハンドルを左にきった。コンクリートから砂利道にかわる。ジープのタイヤが障害物を踏んで跳ねる。

工事現場によくある白い壁はあちこちが破壊されている。基礎の骨組みにはすべて蔦が絡みついている。

あたり一面には赤いお花畑が広がっている。ナツメは「わぁー」と歓声をあげた。

 くしゃみがでる。「なんか花粉ひどくね?」

 モズノ・ニエは匂いをかいで言った。「これ、ケシの花。やばいほうの」

「そのとおり。これはケシのお花畑だ。まちがっても手で触ろうとしないように」

 ジャックは車をお花畑の上でとめた。「花はいくら除去してもすぐに生えてくる。この拡張エリアは二〇四九年の完成予定だったが、二ヶ月もこの状態が続いて工事の進捗は遅れ続けてる。この妨害工作は『緑のカピバラ』という非営利組織(NPO)によるものだ。彼らはネット上で犯行声明を出している。動画チャンネルで――舞洲の再開発を中止しなければ第四区のすべてをお花畑にしてやる、と」

 おれたちは思わず笑ってしまった。「お花畑だって」「おもろ」

「笑い事ではない。植物のせいでコンクリートや基礎工事がすべてダメになるし、ケシの花粉を吸い続けたらケシ中毒になってしまう」

「花を植えてるやつを捕まえればいいじゃん」

「それが不可能なんだ。なぜなら、誰もそんなことはしてないし、監視カメラには何も映っていない。植物は勝手に地面から生えてくる。生えてきた植物が工事現場を荒らしている。完全犯罪ミステリーだな」

「じゃあ犯人はどうやってお花畑を作ってるの?」

「種は鳥や虫に運ばせてるのかもしれない。それが、たった一晩で花が咲くほど成長する。もちろん、そんなことができるのは”ワールドエンダー”だけだ。こいつは【”緑化”のワールドエンダー】と呼ばれている。CIAの基準からすとDマイナス程度の危険度だが、そんな評価はあてにならない」

「世界のすべてをお花畑に変えて人類を滅ぼすって?」

「過激な環境論者は皆同じ結論にたどりつくんだ。人類は地球にとっての害悪だってな」


 ジャックは再び車を発進させた。車は道路に沿って走った。

西に向かうほど植物が生い茂っていた。車は建設予定地をぐるりと周るように走った。

運転手は海沿いの道で車をとめた。対岸には夢洲がみえる。そこには豪華なカジノと高級ホテルが建っている。

おれたちは車を降りた。手すりに腰をかけて海を眺める。カモメたちが寄ってくる。

 ジャックはカモメに餌をやった。「”緑化のワールドエンダー”さえなんとかすれば工事を再開できる。ここまで案内したのは、きみたちならやつを見つけられるんじゃないかと思ったからだ。どうかな。なにか方法を思いつくかな?」

ヤマダ。「犯人はグレタ・トゥーンベリや」

ニエ。「グレタならSNSで自慢するはず。いや、もしかしたら裏垢かも?」

ナツメ。「お花屋さんの店員とかじゃない?」

「そんなことより花粉がひどすぎる」


「バカばっかりだな」ジュンはこれみよがしにため息をついた。「父は本当にこんな連中を使うつもりなのかい?」

 ジャックは苦笑した。「”ネクロマンサー”を見つけた時はどうやったのかな。その方法が使えるんじゃないか?」

「ニエの嗅覚で犯人の匂いをたどって、ラジオ局をみつけて、それから――」

「匂いをたどるというのは例えば警察犬のように?」

 ジュンが口をはさんだ。「視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚――五感が普通の人よりも発達するのは子供病の特徴なんだ。あるいは第六感と呼ばれるものさえ。それをフル活用してワールドエンダーの正体を突き止めるんだ」

「そりゃ、言うだけなら簡単だけどな。具体的にどうしろと?」

 ジュンは手を広げた。

「犯行現場はここ。でも、痕跡はない。犯人は遠隔でこれをやってる。それから?」

 ジャックは言った。「脅迫してきたのは”緑のカピバラ”という動画チャンネル」

「なら『緑のカピバラ』の動画。そこからスタートしよう」

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