第21話 予想

 奴らは奇声を轟かせながら、僕らに追いつこうとその大きな足でもって不格好に闇雲に迫ろうとしてくる。僕らはそれに気付くと残っていた僅かな体力をすべて使って全力で扉に向かって駆けた。背中のすぐ後ろまで、無数の奴らの足音が届いてくる。

 僕らが扉に辿り着き、中へ入って扉を閉めようとしたところで奴らが追いつき、扉を閉めさせないようにと内側に手を入れてくる。奇声で鼓膜が破れそうになりながらも、僕らには扉を閉ざす努力を怠ることは許されない。例え僕か少年かどちらかが一瞬でも力を緩めたならば、扉はすぐにこじ開けられ、僕らは奴らに捕らえられ、すべてが終ってしまう。

 争いは長く続いた。どちらも諦めるわけにはいかないと、扉が悲鳴を上げる程に引っ張り合った。結末の訪れる気配がなかった。僕と少年は数限りない黒い人たちを相手に、果たして自分たちがいつまで持ちこたえられるか、何度も自問するがその答えは時間の問題だということに、おそらくはどちらも気付いていた。

 しかし、事態は思わぬ好転を見せた。突然、遠くの方から、別の黒い人たちの集団がどことなく嬉しそうな鳴き声をあげながら時計台の方へとやってきたのだ。そして、それをきっかけにして、僕らと争っていた黒い人たちが突如扉から手を離し、その集団の方へと向かって行ったのである。

 そのせいで僕と少年は矢庭に奴らが手を離したことによって、その勢いのために後ろに激しく倒れてしまった。僕らは急いで再び扉が開かれることのないように、ほとんど無意識のうちに扉の鍵を掛け、そうして安堵とひどい疲労のために再びその場に倒れて気を失ってしまった。外ははたと不気味な沈黙に包まれた。

 暫くして僕が再び目を覚ますと、少年は既に起き上がっていて扉に耳を付けて外の様子を窺っていた。僕は静かに彼の側に移動し、外はどうか、と訊ねた。

「全く何も聞こえない」

 と不愉快そうに目を細めて彼は言った。

 外で何が起きているのだろう、と僕が小声で訊ねると、

「これは僕の予想だけど」

 と、静かに彼は話はじめた。

「おそらく奴らは外で何かを始めようとしているんじゃないか。そしてそれは、今僕らを捕らえることよりも重要なことなんだ。だから奴らの仲間がここへ来たとき、その仲間が僕らを捕らえるのを手伝うのではなく、僕らと争っていた方が仲間の方に向かって行って、その何らかの作業を手伝うことになったと思うんだ」

「重要なことって、何だろう」

「分からない」

 彼は顔をしかめて言った。

「でもとりあえず、僕らは助かったと言っていいと思う。今なら奴らは襲ってこない。絶好の機会だ。君の言っていた地下の扉へ急いで行こう」

 僕は頷いた。彼の言うことは間違ってはなさそうだった。僕らは静かに立ち上がり、部屋の奥の、地階へと下る階段の方へ歩いて行った。

 しかし、心のどこかで嫌な胸騒ぎがする。外で何が起きているのだろう。僕らを捕らえることよりも重要なこととは、一体何だろう。

 階段を一段一段下っていく。微かに見える輪郭を頼りに僕らが地階へと降りると、そのすぐ先に大きな重そうな扉があった。間違いなくそれは『命の扉』だった。この扉を開き、その先の闇を越えたら――僕らが内心でそう考えた時。

 町中に響くような鐘の音と共に花火が打ち上げられた。

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