第3話 襲撃

 私──レイラは大声で笑う。


「よく分かったな、この死にたがりめ!」


 久しぶりにこんなに笑えた気がした。

 封印されていた間、暇すぎて覗きぐらいにしか使えない最弱の魔法。

 それで私のことをどう書き残されていくのか見ていたけど、本当に酷すぎる。


「いたた……」


 笑いすぎてお腹が痛くなってきたところで、私は話し始める。


「私は魔女レイラ。歴史の通り、たくさんの命を奪ってきた殺人鬼だ」


 アイツらと世界一の魔法使いを目指していた。

 もし気づかなければ違う未来があっただろう。

 私が弱いからだ。

 馬鹿だったせいで世界を敵にまわすことになった。


「死にたがり──いいや、メイナード」


「……俺の名前」


「聞かせてくれ、お前は生きたいか?」


 死を望むのなら私も共に、というだけだ。

 メイナードという新人魔法使いの彼は、本当の私に気づいた。

 そして、私のせいで殺される未来は変えられないだろう。

 コイツの憧れたアイツにも、共に学園生活を送った友人からも。

 世界中の誰からも死を望まれるなんて、私だけで十分だ。


「お前、死にたいのか?」


 そんなメイナードの質問に黙ることしか出来ない。

 この世界で生きる理由は見つけられないだろう。

 でも私の使い魔コハクと、忘却の森この地で生きる全員が私に『生きろ』と言っている。


「……分からない」


「じゃあ生きようぜ」


 私は驚く。


「世界各地を巡って人助け。ついでにお前の生きる意味も見つける」


 彼が本気なのかは、聞くまでもない。

 この森に隠れていれば安全。

 忘れられたこの場所を見つけることは誰にも出来ない。

 それでもメイナードが提案するのは、外に行くこと。


「私なんかに人助けが出来るわけ……」


「まず、その考えを捨てろよ」


 どうしても彼の提案を受け入れられない。

 過去が消えることはなく、私は弱いままだから。


「生きたいのか、それとも死にたいのか。分からないんだから挑戦するんだろ」


 アイツの姿が、重なる。

 ポロポロと溢れた涙は止まらない。


​ 私は魔女レイラ。

 多くの命を奪ってきた歴史に残るほどの殺人鬼。

 そして誰にも話せない秘密を抱え、唯一世界に牙を向いたであろう馬鹿な人間。

 弱い私は、変われるのだろうか。

 罪滅ぼしを兼ねた世界を巡る旅の中で、生きる意味は見つけられるだろうか。


 その時、地面が揺れた。

 建物が軋み、一気に辺りの温度が上がる。

 ここからでも分かるほど強大な魔力。

 メイナードと話してる暇はない。

 壁に立て掛けてあった私の箒と杖を持って魔法を発動させる。


「レイラ様、そのお姿は……!」


 白い服から真っ黒な服に着替えて帽子を被る。

 一瞬鏡で見てみたが、数十年前と変わらない姿。

 魔法使いの年齢が止まってしまうのは、強大すぎる魔力が身体に影響を及ぼすから。

 私は学園を卒業した翌年に不老になった。


「世界各地を巡る旅で、私は本当に『生きる意味』を見つけられると思うか?」


 ドアノブに手を掛けた私は問い掛ける。

 決して振り返らず、返事を待つ。


「もちろん。でも行動に移さないことには、何も始まらない」


「……そうか」


 じゃあ旅に出るためにさっさと片付けることにしよう。

 扉を開けて私は二人と目を合わせた。

 どうやら、彼らも襲撃者は分かっているらしい。

 ため息を吐いた私に対して、コハクが立ち上がる。


「私も行きます」


「封印が完全に解けていない状況ではアイツを倒すことは不可能だ。そう言いたいのか、お前」


 自分でも驚くほど低い声が出た。

 メイナードにとって憧れの存在である魔法使い──レオ。

 昔は親友と呼べる存在だった。

 でも今の私は、アイツに対して何の感情も抱けない。


「……悪かった。お前はそんな奴じゃないもんな」


「なぁ、この森は世界地図に載っていないんじゃなかったのか?」


「この森は空気中の魔力で作られた外と切り離された場所。結界の中、と考えてもらった方が分かるか」


 普段は、出入口のない完璧な隔離状態。

 この場所はどんな魔力探知でも見つからないはずだった。

 私は自身を見て舌打ちをする。

 捕らえられた時、レオは言っていた。

 私の手足にある鎖は特別製で、魔力を極限にまで封じ込めるのと同時に発信器でもある。

 例えどんな場所に潜伏していても必ず見つけられる、とは言っていたがここまでの性能とは。


「アイツは今、私たちが結界を通り抜けた場所に魔法を放っている。まぁ、外と森を区切る壁が見えているわけではないだろうが」


 でも、それも時間の問題かもしれない。

 壁が壊されたら、この森で暮らす多くの生き物が傷つく。

 それだけは絶対に避けなくてはいけないことだ。

 ずっと寄り添ってくれた皆を守ることが、せめてもの恩返し。


「コハク、荷物をまとめたらメイナードと逃げろ」


「それは命令ですか、レイラ様」


「……いいや、お願いだな」


 ここで命令と言えないのが、私の弱いところだ。

 帽子を深く被って箒に跨がる。

 そして、最高速度で壁を抜けるとソイツは魔法を止めた。

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