星を継ぐ者たち ー継承者戦争ー

たこ焼きさん

第1話 「無使命の少年」

目が覚めると、村の大人たちが松明を持って俺の家を取り囲んでいた。


「出てこい、カイ!」


「無使命者は疫病神だ! 今年の不作も全部お前のせいだ!」


俺は小さな荷物をまとめながら、奥の部屋で震えている祖母に小声で言った。「大丈夫、すぐ出てくから」


この村で十六年生きてきた。けれど、俺には生まれた時から「使命」がなかった。


この世界では、誰もが十歳になる頃に「使命」を自覚する。それは胸のあたりに浮かび上がる光の文字で、例えば【農夫】【教師】【兵士】と刻まれている。一度刻まれた使命は生涯変わらず、それに逆らうと体に激痛が走る。村の鍛冶屋は若い頃、戦士になりたくて剣を振ったが三日で倒れた。以来ずっと、使命に従って槌を振るっている。


でも俺だけは、胸に何の文字も浮かばなかった。

それがどれほど気味悪がられたかは、言うまでもない。


「行くよ、ばあちゃん」


「カイ……これを持っておいき」


祖母が差し出したのは、ぼろ布に包まれた小さなペンダントだった。透明な石が埋め込まれているけど、中心にほんの僅かだけ青白い光が揺れている。


「なにこれ」


「お前のお母さんの形見だよ。あの人も……無使命者だった」

初めて聞く話だった。母は俺が幼い頃に死んだと聞かされていた。何かを探す旅に出て、そのまま帰らなかった、と。


「お前はきっと、自分の道を見つけられる人間だ。使命なんかに縛られずに、自分の足で歩いて行ける。そう信じてる」


祖母はそれだけ言うと、俺の背中を強く押した。家の裏口から、夜の闇に飛び出す。大人たちの怒号が背後で響き、俺は振り返らずに走った。走り続けて、気がつけば村の境界を越えていた。


見渡す限りの荒野。星空だけが頼りの旅路が始まる。


三日目の朝、俺は渓谷の岩陰で一人の少女がうずくまっているのを見つけた。


年の頃は俺と同じくらいか。やけに上等な服を着ているけど、あちこちが破れて泥に汚れている。そして何より異様だったのは、彼女の胸元で光っている文字──

【王】


少女は泣き腫らした目を上げて、俺を見た。


「近づかないで……私は、あなたに命令したくない……」


声を振り絞るように言い、少女は自分の胸を掻きむしった。【王】の文字が強く輝くと同時に、彼女は苦痛に顔を歪める。


「大丈夫か!?」

「違うの……私、人に命令したりしたくないの。でも使命が、人を従わせろって……逆らうと、体が焼けるように痛くて……ずっと一人で逃げてきたの……」


胸が痛んだ。彼女は【王】という使命のせいで、人を支配しなければ生きられない体にされたのだ。孤独を愛する心優しい少女が、最も過酷な使命を背負っている。


「私の名前はセレナ。リグレット王国の第一王女……でも、もう王位なんていらない。ただ、友達が欲しかっただけなのに……」


俺は迷わず彼女の手を取った。


「俺はカイ。無使命者だ。忌み子で、疫病神で、村を追われたばかりだ」


「無使命……?」

「ああ。何の使命も持ってない。でもな、だからこそ──」


俺がそう言った瞬間、胸元のペンダントが強く輝き始めた。


【継承可能な使命を検出しました:『王』】

【継承しますか?】


頭の中に響く不思議な声。俺は直感的に「継承する」と念じていた。


するとどうだ。セレナの胸の【王】の文字がふっと消え、彼女が驚愕の声をあげる。同時に俺の胸に、見たこともない文字が浮かび上がった。それは【王】ではなく──


【継承者(サクセサー)】


「え……? 痛くない……消えてる……使命が……!」

セレナが信じられないという顔で自分の胸を何度も触る。そして、涙があふれた。今度は苦しみの涙じゃない。解放の涙だ。


「カイ……あなたが……?」


「どうやら俺は、人の使命を“継承”できるらしい。そして──」


俺は手をかざし、念じる。今俺が持っている使命【継承者】から、先ほど吸い取った【王】の力を一時的に取り出すイメージ。


すると、俺の右手に光の剣が出現した。いや、剣だけじゃない。周囲の地面が光の紋様で満たされ、風が渦を巻く。それはまさに、“王の号令”そのものだった。


「継承した使命を、自分の力として使えるんだ」

「そんな……そんな力、伝説にも聞いたことがない……」


セレナが立ち上がる。その顔には、絶望ではなく、かすかな希望が宿り始めていた。


俺は彼女に手を差し出した。


「セレナ。お前、友達が欲しかったんだろ。俺で良ければ、友達にならないか」


「……いいの? 忌み子のあなたと、元王女の私が?」


「使命なんか関係ない。俺はお前の使命を引き受けた。だから今、お前は自由だ。好きに生きていいんだ」


セレナはしばらく黙っていた。それから、ぎこちなく笑った。生まれて初めて誰かに命令せず、自分の意思だけで。

「ありがとう、カイ。……ねえ、あなたはどこへ行くの?」


「俺は、“星の図書館”を探す」


「星の図書館……? あの、七つの星の欠片が鍵の?」


「ああ。俺の母も無使命者だったらしい。そして、図書館を探していた。このペンダントが、多分その手がかりだ」


俺はペンダントを掲げる。すると石の中の光が、まるで方角を示すように北東の方角を強く照らした。


「図書館に行けば、使命の正体がわかるかもしれない。この世界がどうしてこんな仕組みになってるのか。俺たちはどうして生まれてきたのか。そして母は何を見つけたのか」


「なら、私も行く」

セレナが断言した。


「使命がなくなった今、私の人生はまっさらよ。どこへ行ってもいい。でも、あなたとなら──友達と一緒なら、きっとどんな場所でも楽しいと思う」


こうして俺たちは、最初の旅の仲間を得た。


荒野の先に広がる山脈の向こう、最初の星の欠片があるとされる「哭哭(なきなき)峡谷」を目指して。


旅は始まったばかりだ。無使命の俺と、元王女のセレナ。これから様々な使命に苦しむ仲間が加わり、使命を“継承”するたび、俺は何者にでもなれる。


【継承可能な使命のストック:王(1/3使用可能)】

【次なる欠片の反応を検出中……距離:不明】


誰もが使命に縛られる世界で、ただ一人、“すべての使命”を継ぐことができる少年。


その旅の先に、星の図書館で待つ真実とは。


──世界のルールごと書き換える、完全自由の冒険譚が今、幕を開ける。


【第1話 了】

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