サミュエルベケット、という作家の代表作に「禿の女歌手」というものがある。
最初こそ、とある一家の日常を写し出した物語なのだが、次第にそれは口の中で溶けて形を失う飴玉よろしく、変化し、原型が崩れ、そして消滅していく。
登場人物は、役名を失い、関係のない『ナレーター』という役まで現れ始め、終いにはセリフの意味がなくなり、言葉がなくなり、最後の最後には、登場人物自体がいなくなり、人間の「口」だけが舞台上に残る。
つまりは不条理演劇だ。
……ええとね、これです。
この物語は。
長いマクラになったが、ここからが本編のレビューだ。
物語は、かの有名な童話、ウサギとカメ、をベースに二匹によるレースが始まるという物語なのだが、ここから不条理演劇が始まる。
まず……アメリカという設定はどっかに消えた。ほんとどっかに消えた!
そして、レースモノを見ていたはずなのに、気がつけば乗り物という概念が消え、終いには登場人物がどっかに消えるという、まさにベケットだ!!
故、別役実先生がこの物語を読んだら、同じことを言うだろう(知らないが……)
物語において、ルールや不文律など存在せずに、むしろそれを清々しく破っていくものが輝きを放つのだ。そして、物語においては、練り込まれたシナリオも、エモいセリフも、全て意味を持たないのだ!!
この作家先生には、いつもそれを「分からせられる」
凝り固まった脳みそに、中指をぶっ刺される。
そして読み終えて空を見つめながら思うのだ。
物語って……深いなあ。
ご一読を。