第7話 商業ギルドに門前払いされたので、訳あり廃倉庫を買い叩きましたわ

 お茶会での大バズりを経て、私の手元にはずっしりとした金貨の袋が残された。


 そして脳内には、嬉しいファンファーレが鳴り響く。


『【いい子ポイント】+300獲得! ショップのレベルが2に上がりました。積載可能重量が5キログラムに拡張されます』


(5キログラム! 素晴らしいわ、これでようやくまとまった量の仕入れができますわね!)


 私はさっそく、ホログラム画面から『プチプラの超優秀オールインワンジェル』を限界までポチりと発注した。化粧水、美容液、乳液、クリームが一つになった現代日本の知恵の結晶。これをルミナス商会よりほんの銅貨一枚だけ安い『慈愛価格』で売り出せば、ルミナス商会の市場を根こそぎ奪い取れる。


「となれば、次はお店が必要ですわね。いつまでも馬車で行商するわけにはいきませんもの」


『お、いよいよ店舗経営ですか。でもエレナさん、この街の商業ギルドはルミナス商会の息がかかってますよ?』


 頭の中でグリムが懸念を口にする。


 その予感は的中した。


 私が商業ギルドへ出向くと、ギルド長はニヤニヤと下卑た笑みを浮かべて「追放されたエレナ様にお貸しできるまともな物件などありませんな」と、あからさまな門前払いをしてきたのだ。


(ふん、ルミナス商会の犬め。その脂ぎった顔、現代の強力あぶらとり紙でカサカサに干からびさせてやりたいところですわね)


 私が扇の裏で冷徹な視線を送っていると、ギルドの片隅で、ボロをまとった若い男が職員に突き飛ばされているのが目に入った。


「頼む、この店さえあれば……父の遺したこの廃倉庫の権利さえ買ってもらえれば、妹の病気の薬代が……!」


「うるさい! ルミナス商会に逆らって潰れた『シルト商会』の没落息子が! そんなスラム街の近くにある呪われた廃倉庫なんて、一文の価値もないわ!」


 職員の冷たい言葉に、青年は絶望して床にへたり込んだ。


(あら? ルミナス商会に潰された元商人の息子……? それに、スラム街の近くの廃倉庫?)


 私の天才的な商人脳が、カチリと音を立てた。


 スラム街に近いなら土地代も税も安い。しかも、仕事に困っている孤児や住人たちに食事付きで日当を出せば、この世界では十分すぎる好条件になる。梱包や箱詰めを任せる作業所としては、むしろ最高の立地ではないの!


「もし、そこの殿方。その物件、わたくしが買い取らせていただいてよろしいかしら?」


 私は青年――シルトの前に歩み寄り、女神のような微笑みを差し伸べた。


「え……? あ、あなたは……」


「お可哀想に。ルミナス商会に全てを奪われ、妹様まで苦しんでいるなんて。わたくしがあなたの力になりましょう」


 私はギルド長や職員が呆然とする前で、金貨の袋をシルトの手に握らせた。


「その廃倉庫の権利を金貨三枚で買い取ります。そして、こちらは妹様の薬代です。返済は不要。代わりに、あなたには我が『聖女エレナ美容商会』の初代店長として働いていただきますわ」


「な、なんてお優しい……! あなたは本物の聖女様だ……!」


 シルトはボロボロと涙を流し、私を拝むようにして床に額を擦り付けた。


『エレナさん……ルミナスに潰された元商会の跡取りを拾って、商売の知識ごと囲い込む気ですよね。やってることが完全に極悪企業の買収手口ですって!』


(人聞きが悪いわねグリム。これは弱者救済。元商人の雇用と、スラムの地域活性化よ。Win-Winじゃないの)


 脳内で『【いい子ポイント】+100獲得!』の音が響く。


 私はシルトから手渡された、錆びついた廃倉庫の大きな鍵を指先で弄んだ。


「さあ、シルト店長。その幽霊が出るという呪われた廃倉庫とやらへ案内してくださる? わたくしがその呪い、現代科学の『除菌・消臭スプレー』で完膚なきまでに滅ぼして差し上げますわ」


 私は美しい外面の笑顔の裏で、ルミナス商会の逃げ道をまた一つ塞ぐ冷たい笑みを浮かべた。

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