心身に不調を抱えた人の声が、届かない世情である。
本作は、自身の不調のありようを高らかに世に言挙げする、そんな作品である。
『やあやあ我こそは』で始まる冒頭の名乗りからして振るっている。
軽やかで、陽気で、理性を信じ、勇敢ささえ感じさせる。
そこから分け入ってゆく作者が直面する『診断されない病』の経過は、とても苦難に満ちてはいるけれど、この冒頭の名乗りのおかげで、作者の「軽やかさと陽気さと理性と勇敢さ」とともに読みすすめられる。
心身に不調を抱えた人の声が、届かない世情……それはいまに始まったことではなく、昔からそうだった。
我々はとかく『知らないものに気づけない』そんな特質を持っている。
新聞・テレビ・雑誌……報道やインターネットといった知識を収集するツールは、現代になってたくさん生まれたけれど、それで人間が全知になれたりはしない。
むしろ、ややもすると自分にとって都合のよい知りたいことだけを知って、それですべてを分かった気持ちになっている、なんてことすらある。
こんなことがあると説明をうけて、はじめて、そんなことが世の中にはあって、さまざまな人々が、さまざまな困難を抱えてその『事情』の渦中にあるという事実を知る。
そして、知れば我々の知覚は広がるのだ。
「それがある」と知ることで、その存在を認識できる。
本作は、作者が世界に向けて発した「言挙げ」である。
そしてその言葉は、鏑矢のように、ひょう、と弧を描いて曇天の空を切り裂いてゆくだろう。
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