自主企画へのご参加ありがとうございます。
「失敗を排除した社会」という設定は強いですが、それを大きな事件や派手な反抗ではなく、ひとりの少年が“わからない感情”に触れていく流れで描いているところが良かったです。
構成としては、端末やスコア、推奨という無機質なものに対して、山、川、絵、スケッチブックといったものが少しずつ対になるように置かれていて、物語全体の軸が分かりやすかったです。特に、最初は理解できなかったものが、時間を経て別の意味を持って戻ってくる作りは綺麗でした。
文章も読みやすく、感情を大きく叫ばせないぶん、湊の中で起きている変化が静かに伝わってきます。
「楽しい」「会いたい」「好き」といった、本来なら当たり前の感情を、初めて手に取るもののように描いているのが印象的でした。
物語としても、AIや最適化社会を扱いながら、最後に残るのはシステム批判そのものではなく、人間がどうしても繰り返してしまうものへの眼差しだったと思います。
失敗や迷いを、ただ悪いものとして処理しないところに、この作品の優しさがありました。
静かなSFであり、恋愛であり、人生の話でもある作品でした。
読み終えたあと、タイトルの意味が少し違って見えるのも良かったです。