作者様の作品の中で、一番せつなく感じながら読んでいます。ドアマットヒロインがいるわけでもなく、わかりやすい外道がいるわけでもなく、ざまぁがスカッと展開されるわけでもないけど、なぜか感じるせつなさは、誠実に向き合っても不条理で返されたときに感じる、あのなんとも言えない気持ちです。
でも賢いアデレイドは、ロジャーやマルグリットでは得ることのできない価値観を持ってハッピーエンドを迎えるのでしょうね。
自分のように不条理を簡単に消化できない人間や、一つの思い・価値観に囚われるロジャーやマルグリットは、何かよくわからないせつなさを抱えながら生きていくのでしょう。
他所にはない、作者様独自の世界観が味わえるいい作品です。天の邪鬼な私は、商業化されず、手直しされないまま残るといいなぁと思ってしまいました。
僭越ながら、作者様が思いのまま執筆するのを願って応援しております。
大人たちの思惑や身分制度という理不尽な波に呑まれ、積み重ねてきた日々や誠意さえ、あっさりと覆されてしまうアデレイド。読んでいて胸に残るのは、明確な悪人に怒りをぶつけることもできない、やり場のない不条理と喪失感です。
誰もがそれぞれの立場や事情に従って動いている。だからこそ、余計に苦しい。けれど、周囲がアデレイドを都合のいい存在として扱えば扱うほど、彼女が見せる静かな佇まいと、胸の内に秘めたものが強く印象に残ります。
タイトルにある「胸三寸」という言葉も、この物語を象徴しているように感じました。
アデレイドは何を思い、何を諦め、そして何を選んだのか。感情をすべてさらけ出して誰かを責めることもせず、本心を簡単には明かさない彼女だからこそ、その一つひとつの言葉や行動が気になります。
そして本作の魅力は、劇的な逆転や派手な「ざまあ」ではありません。
淡々と続いていく日常の中で、人との関わりや何気ない出来事が少しずつ積み重なり、気がつけばアデレイド自身も、彼女を取り巻く環境も、最初とは違う場所へと変化している。その過程がとても丁寧に描かれています。
大きな事件によって突然幸せを手に入れるのではなく、自分自身の人生を歩いていく中で、少しずつ見えてくる「本当に大切なもの」。その先にあるのは、誰もが羨むような派手な幸福ではなく、小さくても確かな幸せです。
読み終えたときに残るのも、誰かが完膚なきまでに打ちのめされる爽快感ではありません。
「ああ、アデレイドはこれでよかったんだ」
そんな静かで穏やかな満足感でした。
誰かを見返すためでも、誰かに幸せにしてもらうためでもなく、自分の人生を自分の足で歩いた先で、自分自身の幸せを見つける。そんなアデレイドの姿が、静かに心に残ります。
派手な展開よりも、登場人物の心の機微や、何気ない日常の中にある小さな変化と幸せをじっくり味わいたい方に、ぜひ読んでほしい作品です。