第5話 腹が減っては戦は出来ぬ

「本人確認書類ないのはキツイなー…」


「仕方ないだろう、あの変な声は何も言っていなかったんだから。」


 互いに大きな溜息が出た。あの変な声は本当に何もしてくれていないのか…?文明の発展を見るとこの世界で生きるのは元の世界で生きるより難しいのかもしれない。その、本人確認書類とやらがないと契約できないだとか仕事が得られないだとかかなり厳しく見られるようだ。


 肝心の本人確認書類は市役所や区役所…町役場に行くと確認ができるらしい。(アオイが確認してくれた。)


「今日は…火曜日か、明日は水曜日だから役所がやってる。明日行こう。」


 気付けばカーテンの隙間から見える空は真っ暗になっていた。もう夜なのか、と思いここに来てから数時間立っていることに気付くと急に腹が空いてきた。


 ぐうぅぅ、大きく腹がなるとアオイに笑われた。


「確かには腹減る時間だよな。腹が減っては戦はできぬとか言うし飯は大事だよな。戦じゃねぇけど。 」


「腹が減っては戦はできぬ?ってどういう意味だ?」


「あー、この国のことわざ?的なやつで腹が減ったら戦えないよ~、お腹を満たしてから戦に望みましょう的な意味?」


「なるほど…それは確かにその通りだ。賢いな、この国の人達は。」


「何か飯作ってやるよ、大したもんは作れないけど。」


「良いのか!?アオイの作るご飯はぜひ食べてみたい!というかアオイ、料理できるんだな!」


「舐めんな。俺は一人暮らし独身三十路だからな、飯くらい作れねぇと生きていけないだろ。」


 この世界の食文化は元の世界と似ているだろうか。いや、ここまで文明に差があるんだ。きっと何もかも違うだろう。


「それじゃあ一旦この部屋出るか、キッチン行くぞ。」


 そう行ってアオイの後に続いて俺も立ち上がった。この世界に来てとんとん拍子で物事が進んでいるがまだ俺はこの部屋以外を知らない。というか街の安めの宿屋と同じくらいの大きさの部屋がただの寝室だったのか、アオイはそこそこの富豪なのかもしれない。


 ドアを抜けると廊下に出た。向かって左は玄関?で目の前には別のドア。右側にはドアの真ん中部分が透明な引戸があり、明るい光が漏れている。


「ここ、入って。左側にキッチンあるから。」


 アオイが引戸を開けるとかなり広い空間があった。入って右側には先程アオイが誰かと会話していた板と同じ黒さの大きな板、その目の前には大きな椅子…?ソファが置いてある。良かった、見た事があるものもあるようだ。ソファはほぼ全ての貴族の客間にあったからな。正面より少し左くらいには机と椅子。その机の左にカウンターがあった。そのカウンターの裏にあるのがキッチン。俺のいた世界では大抵の人がが弱い火魔法を扱えて魔法で炎を出していた。けれどこの世界には魔法がないらしい、それならどうやって物を調理するんだ?まさか生か?


「さて、お前の食えるもんがあるといいけど。」


 アオイはそう言いながら大きな直方体の箱を開けた。中には沢山の食料?が入っていて近づくと中の冷気が流れてきた。なるほど、これは食料保管庫ということか。それも温度を調節できる。すごいな、氷が中にあるようにも見えないし…どういう仕組みなんだろうか。


「あ、卵は食えるか?鳥の卵。」


「卵?俺の知っているような卵であれば食べれるはずだ。」


「ニワトリって鳥の卵、分かるか?ニワトリ…これだよ。」


 アオイはあの黒い板を少し触ると俺の方に向けてきた。そこに映し出されていたのは雌鳥の姿だった。どういうことだろうか、そこには居ないのにとても鮮明に鮮やかな色でその雌鳥の姿が映し出されている。


「これがニワトリ、俺の世界ではコタと呼ばれていた。見た目的にはあまり変わらなそうだ。この鳥の卵も食べたことはあるけれど…俺の世界では肉が主流でね。数える程しか食べたことがないしあまり味のない、ただ茹でただけのものだったよ。」


「ただ茹でただけ?塩とかケチャップ、醤油…はないか、味付けしないのか?」


「俺たちの世界での庶民の料理っていうのは食べ物を火で加熱して食べても問題ないようにする為の過程であって美味しくするためのものじゃない。スパイス?とかハーブ?とかを使った味のある食べ物は貴族や王族くらいしか食べなかったよ。」


「ふーん…じゃあ今度美味い店連れてってやるよ。この国の料理は絶品だからな!光にはちょっと味が濃いかもしれないけど。」


「絶品か…食べてみたいな。けれどまずはアオイの料理だな!」


「あはは、そんなに俺の料理が食べたいのか。」

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