第36話 私は食べられます!!



 野菜を抱えて帰ってきた俺だが、逸る気持ちを抑えて、夕方から使うものの仕込みや麺の仕込みなどをこなしていく。


 その間は申し訳ないけど、買ってきたものは奥へと保存しておく。

 一緒に買い出しに行った2人はチラチラとそれに視線を送っているけど、午後の部の営業を控えている状況ではさすがに手を出すわけにはいかない。


「よし!! こんなもんでいいだろう」

「「「はい!!」」」

 材料を切っていた三兄弟が元気に返事をしてくれた。


 時計を確認するとすでに4時30分を少し回っていた。

 今日は俺が買い物という余計なことをしてしまったが故に遅れてしまったが、基本的にうちの店は朝10時開店で昼休憩をはさみ、夕方は4時30に分に再開。


 そして夜は7時30分がラストオーダーとして周知しているので、それに合わせてみんなが動く。


 因みに、外で出店をしている孤児院の子供たちに関しては、その日に蒸し上げる分が無くなったら営業は終了としているから、夜遅くまでいるという事は無い。


 子供たちが帰るときは、必ず護衛が5人のうちの誰かが付くことになっているので、その辺もしっかりとしている。


「さぁ!! 夕方からの営業も張り切っていこうぜ!!」

「「「おう!!」」」

「「はい!!」」


 三兄弟とともに、フユとナルミがぐっとこぶしを突き上げた。



♢♢♢♢♢



「さてさて……」


 盛況だった営業終わり。

 もう暖簾も店内にしまい込んでいるし、働いてくれていたみんなもそれぞれに店内や、居住区でくつろぎだしている。


 俺は一人厨房に戻り、保存庫から本日仕入れてきた野菜たちをもってきて、作業台の上に置き目を通す。


ぴこん

ぴこん

ぴこん


【ニジン 赤くて三角形が特徴的な野菜。 煮るもよし焼くもよし!! 私は好きな野菜の一つですね】

【ピーマ 緑色をした丸い野菜。少し苦みがあるのでシンキュアは苦手としている。私は食べられます!!】

【ニラー 独特のにおいがする緑のお野菜。 ニラーと言えば哲太さん世界にあったニラレバが食べてみたいです!!】


 なんとなくだが、この字面の前には鼻息荒そうなあの方の姿が見えるような気がする。そしてシンキュア様はピーマが苦手なんすね。意外な好みを知る。


『仕方ないでしょう? 食べれないものは食べれないのです!!』


――あれ? いつもの声じゃない声が……。あ、このお声の持ち主がシンキュア様かな? 

 いつか会えたらちゃんと挨拶しないとな……。


 脳内に響くいろいろな音と言葉に、俺のこの先にやりたいことがまた増えていくような気もしないでもないが、それが俺も嫌いじゃないことは感じている。


「さて……と」

 手を洗い、一通り野菜を洗ってから、手に包丁を持つ。


「あ、またぁ……」

「ほら、やっぱりです」

「ん?」

 俺の背中越しに聞こえてくる声に、俺が振り向く。


「言った通りでしたね」

「フユはさすがに主の事をよ(・)く(・)見(・)て(・)い(・)る(・)な」

「え? そ、そそそ、そんなことはないでちゅよ?」

 顔を赤くしながら、言葉を噛んじゃううフユと、マイヤ、ナルミがこちらを覗き込んでいるのが見えた。


「お前ら……」

「今日買ってきたもので何か作られるのですよね?」

 フユが先ほどの事を無かったことにするように、早口でまくし立てる。


「ん? いや、まぁそうなんだが……。もしかして?」

「はい!! われら三人お手伝いに来ました!!」

 ナルミが素直に返答する。


「そうか? 休んでていいんだぞ?」

「こちらの事の方が休むよりも大事です!!」

「あまえたち……まさか試食が目当てじゃないよな?」

「……主、それは無いとは言い切れないのが切ないところ……」

 しっかり働いてくれている三人には、しっかりと休んでほしいという思いから声をかけるが、フユが気合入れているし、マイヤに関しては俺の突っこみにポリポリと頬をかいて困っている。


「……。じゃぁせっかくだし手伝ってもらうか」

「「「はい!!」」」

 元気よく返事を返す三人。


 するとすぐに行動に入り、フユとナルミは自前のエプロンを身に着け、マイヤは前掛けを取りに行き、戻ってきたときにはしっかりと装着されていて、それから手をしっかりと洗い、おれからの指示を待つように、俺の後ろへと立ち並ぶ。


「ちなみに聞くが……」

「何でしょう?」

「君らは料理は得意なのか?」

「……できないことはありません」

 スッと三人ともに視線をそらし、その中から代表してフユが返事を返した。


「あははは。素直でよろしい!! じゃぁ、この際だから覚えてみるか?」

「いいのですか?」

「ん? 別にいいだろ? マイヤとナルミに関していえば、これから冒険者として戻った際に、自分たちで料理できれば食事に困ることが無くなるし、フユはまぁ……うん」

 フユに関しては結論というか、今後どうするか保留中なので、言葉を濁しておく。


「じゃぁまずは千切りだ」

「「「はい!!」」」

 こうして簡易的ではあるが、今用意している野菜に関して、カットの仕方をレクチャーしていく。


 その際にマイアが包丁でまな板を三枚切り放して――ようは真っ二つにね――しまったことは、黙っていることにしよう。さすがファイターとフォローはしておいた。


 出来上がった千切りの4種の野菜を一つ一つ味見していく。


「うん……。いいね。使えそうだ」

 元の世界で使っていた野菜と若干は味が違う。たぶん良くはわからないが成分自体が違うんだろう。舌に感じる味が記憶のそれらとは異なる。


 一番の違いがピーマだ。俺の感覚で言うと、ニガウリつまりはゴーヤに近い味と食感に感じた。

 確かにこれなら、苦手な方がいらっしゃるのもわかる気がする。

 いや、誰の事を言っているとは言わないが――。


「さてっと……」

 千切りになった野菜を移動して、少し深めになっている鉄鍋を手に取り、火にかけるのではなく魔石式のコンロにかける。


 温まる間に、マイヤに取ってきてもらったオーク肉をできる限り薄くカットしていくのだけど、手間を考えると毎回この薄切り作業をするわけにはいかないので、今後ラウルさんとバルさんの二人に相談しようと心に決めた。


 新しい事なら喜んで手を貸してくれると思う。


 その薄く切ったオーク肉を、これまたオーク肉から採ったラードで少し炒め、色が変わったらそこに固いものから先に野菜を投入していき、火が通るくらいまで炒める。


 店内にはジュー!! という炒め物をする音と、野菜に火が入り甘くなっていくような匂いが立つ。

 初めてこの世界で使う野菜たちもあるので、どの程度まで火を通すか見定めるのは難しいが、そういう時に役に立つものを俺は身に着けている。


ぴこん♬


【オーク肉と野菜の炒めもの しっかりと火が通ってオーク肉の脂身の甘さがなんとも言えない一品。これだけでも商品にはできますよ?】


 目の前に浮かぶ文字。そう俺のスキルである『目利き』である。まぁパリピ様のご意見付きではあるが。


「うん。いいね」

 ひとり納得して頷き、次にその野菜炒めにトリガラスープを合わせて煮込み始める。胡椒はまだ見つけられていないから、味の基本ベースに塩を入れ、さらに代用としてジャペッパなどの辛みのあるものを加えて、何種類か試して作る。


 火がしっかりと通り、野菜がしなっとなる寸前を見極めて、フユとナルミに言って用意してもらっていたどんぶりの中へ、てぼを使い茹でていた麺を入れてその上に野菜をかけていく。


「こんなもんかな?」

「こ、これは……?」

 誰かの喉がごくりとなるのを聞きつつ、フユが俺に質問してくる。


「よし。コレが新メニューだ。名前をタンメンという」

「タンメン……」

「えっと……いろいろと種類がありますが……」

「ごくり」

 フユが名前を何度か復唱し、マイアが複数の種類あるのに困惑し、ナルミは喉を鳴らす。


 先ほどから聞いている喉の鳴りの正体はナルミの喉らしい。


「そうだな。いろいろと味を試したいから数種類用意した。この中からメニューにするのは一つだな。とりあえず食べてみようか」


 四人で数種類の試作に箸を伸ばし、順に食べていく。


「ん!?」

「うまぁ!!」

「ほれがおいひぃですね」

「ずるずるずる」

 その中の一つに三人の反応が高いものがあった。


「なるほどこれか……」

 それはジャペッパを加えたもの。


「うん。確かに味がこの中では一番整っている気がするな……」

 俺が思っている、タンメンとは少し違うけど、限りなく近い味にはなっている。


「良し!! これを正式にメニューに加えることにしようか」


 三人が静かにラーメンをすすりながらうなずいた。少しばかり行儀が悪いなと苦笑いしつつ、俺も一つ大きくうなずき、店内にかけられているメニュー表の空板を一つ外して持ってくると、そこに新たなメニューとして『タンメン』を加えたのだった。





※あとがき※

お読みいただいた皆様に感謝を!!

久しぶりのあとがきですね。


 作中にて出てきた新たなメニュー。

 現在いろいろな店にて食べられているタンメン。でも最近は『味噌味』の『タンメン』なるものも目に入るようになりましたね。


 タンメンとは基本的に野菜を塩味をベースにして炒め、さらにスープなどで煮込んだものとして出されたものを呼称していたものですね。


 喜多方ではなぜ『味噌味』のなどと加えられているかといいますと、古くから喜多方式味噌ラーメンは、炒めた野菜がたっぷり乗っているもの自体が、『味噌ラーメン』として出されていたんですよ。そう味噌タンメンなるものは無かったのですね。


 基本形である、メンマやチャーシュー、ネギ、なるとが乗っただけの味噌ラーメンというものが無かったのです。

 

しかし、時代が変わり、シンプルなラーメンの一つとして、味噌味の基本形(上記トッピングだけの)なものが出始め、もともとの野菜たっぷりな味噌ラーメンは『タンメン』の味噌味バージョンとして『味噌タンメン』という呼称で呼ばれるようになってきたんです。


 現在では、別途明記(味噌タンメン・味噌ラーメンとか)するお店が多くありますが、以前と同じで味噌タンメンなるものそのモノが無いお店もありますので、喜多方で食べられるときはご注意くださいね。(*^-^*)


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