世界中を停滞と閉塞感が覆ったコロナ禍の日本という舞台設定がまず秀悦です。というのは、その社会はかつて栄華を誇った日本企業の衰退と低迷を暗示しているからです。
この澱んだ空気を打破できるのはいったいどういう考え方か、どういう人かというのを、主人公は対話を通して浮かび上がらせます。それは堅苦しい対話ではなく、美味しいワインや世界の料理に舌鼓を打ちながらの豊かな時間。ですので読者も主人公とおなじテーブルについて話を聞いているかのような和んだ感覚で読み進めることができます。
右へ倣えで出る杭を打ち、目先の利益にとらわれているうちに、いつしか斜陽化した産業。そこに新しい日の出をもたらすのは、この物語に登場するような人々なのでしょう。ひとすじの光が差すような最後には希望を感じました。