発車を告げるベル、学校のチャイム、開いては閉じるホームドア。
この作品には、何かが始まることを知らせる音と、その合図を前にして、まだ動き出せずにいる人の姿が描かれています。
窓から差し込む光、畳まれるタオル、冷めていく紅茶、読みかけの本、空になったマグカップ。
ごく身近な風景の中に、離れたいのに離れたくない思い、終わらせたいのに終われない時間、誰かへ届いてほしい言葉が、静かに沈んでいます。
けれど、立ち止まっているように見える時間の中でも、光は動き、季節は移り、列車はどこかへ向かっていく。
傷を消すのではなく、それを抱えたまま生きようとする、小さな決意が感じられました。
乗ることも、見送ることも、すぐには選べなくていい。
ベルが鳴るまでの境界に立つ心へ、そっと寄り添ってくれる、美しく静謐な詩集です。