第15話 ライバル出現!? 伏魔殿の夜が始まる!!
夜会の会場となるウィングパレスは、アルカディウス家が所有するタウンハウスの一つである。
地方の別荘はともかく、大貴族でもタウンハウス複数所有というのは余程のことで、代々騎士伯であるヴァンレイド家ですら、タウンハウスの所有は2つまで。
しかし、アルカディウス家は、タウンハウスを4つも所有している。これは王家の外戚に匹敵しうる多さだ。
この強大な権力は、前王ネウロスと結びついた結果である。
だが、今の国王グレインとは折り合いが悪く、緊張状態にあった。
そんな中で、現国王派であるヴァンレイドが聖卿家の夜会に行くのは戦場に向かうも同然である。
と言う予備知識を、ニールから聞かされてい。たデルクは、不思議に思った。
「若様。」
「何だ?」
会場の馬車止めで、デルクはバルサムに道すがら尋ねた。
「今夜はお見合いだって言ってませんでした? 敵対勢力だって、執事長から聞いてましたけど……?」
「あぁ。そりゃな。
でも、貴族の世界ってのは狭いんでな。嫁探しも索敵になるし、嫁同士でパイプ繋いでたら交渉に持ち込んだり、便利なんだよ。」
「……人間ってややこしいですね。」
デルクは思った通りに言った。
「そうなんだよなぁ……コレだから嫁探しって萎えるんだよ。」
「はぁ。」
デルクは思った。
確かに、ドラゴンの世界は弱い者にとっては肩身の狭い世界なのだが、仲が悪いのに握手をしたり、仲が良いのに殴り合いをするような事はなかった。
敵は打ちのめす。敵は仕留める。敵には勝つ!!
それだけある。
馬車止めから階段を上りきり、邸の玄関に立つと、雷魔法を込めた魔石で照らし出されたディエス・ブルー(水色)の屋根と真っ白な壁の美しい幻想的な城が目前に。
「綺麗な邸ですね。」
「あぁ。見た目が天国の、中身が伏魔殿な邸だけどな……。」
「伏魔殿……。」
伏魔殿とはまた、不穏な響きである。
「さぁ! もう中に入るからおしゃべりはここまでだ。
デルク、設定忘れてないよな?」
「はいっ!」
デルクはハキっと返事した。
今回、デルクは偽の身分で夜会に出席している。
今夜のデルクは、ドレイク国出身のサーバントで、カラハス家で働いてる。
首長息女の婿探しのため、ルースラインにやって来ていると言うことになってる。
幸い、マナミがデルクを勝手に連れてきたことは陛下が大事にしなかったし、デルクも社交なんて全然していなかったから、そもそもデルクを知る人間が限られていた。
だからこそ、こんな大嘘がまかり通るのである。
控えの間まで来ると一旦バルサムとは別れる。
「さてデルク、後でな。」
「行ってらっしゃいませ。若様。」
デルクはバルサムを見送ると、待合室で他の侍従達としばらく待たされることに。
辺りを見渡す。
ルースラインは人間の国だから人間が多いが、それでも獣人族、レプティリアン、小人族なんかがいる。
「おや、見ない顔だな。どこの家に使えてるんだい?」
猫の獣人に声を掛けられた。
優雅に振る尻尾を見ながらデルクは答える。
「ヴァンレイドで……働、いえ、カラハス家に仕えています。」
「カラハス家? 今日はドレイクの貴人はいないと思うけど?」
猫獣人は首を傾げる。
「あ、ちょっとお嬢様の婿探しに来ていて、ヴァンレイド家の邸でお世話になってるんです。」
「あぁ。なるほどねー。じゃぁその内国へ帰っちゃうんだ?」
「えぇ。まぁ……。」
デルクは愛想笑いを浮かべながら、ちょっと緊張している。
元がドラゴンのデルク……。
思えば、今まで嘘をつく機会がなかった!
人生初の嘘!! ちょっとドキドキである。
「しかし、まぁ……キミ、なんて言うか、出身はのどかな田舎だろう?」
田舎? ドラゴンの巣はのどかな田舎と言うべきだろうか?
「えーと、山奥でした。」
「だと思ったよ! だって見るからにって感じだもん!」
と、猫獣人にニヤッと笑われ言われた。
それから、スッと耳元に顔を寄せこう囁いた。
「ここの屋敷の人間に呼ばれたら気を付けな。でなきゃ尻を割られちゃうから。」
「割っ……!?」
デルクはビックリして声を高くした。
シーッ! と猫獣人に注意される。
「あの……拷問されるってことですか?」
デルクがこそっと聞けば、猫獣人は
「ある意味そうかも? 趣味が合えば楽しくやってけるんじゃない?」
「拷問と趣味ってよく分からないんですが?」
「ま、分かんないってことは幸せだってことさ! 良いなぁ……オレもドレイクで仕事探そうかなぁ。」
「はぁ……。」
そんな無駄話をしているその地下深くで……。
レプティリアンの青年が、深いため息をついていた。
「失敗したぁー……。」
衣服を殆ど奪われ、腰巻き一枚の状態でベッドに鎖で繋がれていた。
名前はセド・アミン・チルトラン・ルバラ。
ドレイクの15部族が首長の一人、ケンドルの末息子だ。
セドは母親がエルフと言えど、5番目の妻で、ほぼお飾の妻、そんな妻から不意に生まれた息子だったものだから、束縛されずに自由に生きていた。
手元金は十分あるし、キャラバン率いて商売でもと思ったのが……甘かった!
いくらほったらかしとは言え、お坊っちゃんであることには変わりなく、世間知らずだったのだ。
金は取られ、あっという間に売り飛ばされてこの有様。とんだ大失敗である。
「さて、どうしたものか……。」
身分は明かしていないが、それなりの身分であることは多分相手にはバレている。
が、
みすみす明かしたら、命ごと証拠隠滅計られるかも……。
かと言って、ヘンタイに媚びうる人生もゴメンである。
それにしても……。
「僕って、メンタル鋼か?」
と呟いてみる。
男にアレされて、普通は人生の終わりだーと叫ぶところ……呆れるほど冷静な自分にビックリである。
(まぁ、本来生物的に出来ないことを無理にしているのだから、痛いわ臭いわで最悪なのだが……。)
そんなことを考えながら、これから自分の身の振り方をどうするかなぁ……と、考えていると、部屋の床がボコッとタイルが浮いた。
すると……。
「何よ。下はがら空きじゃない。不用心ね?」
黒髪の可愛らしい少女が現れた。
「ねぇ。ここってアルカディウスの邸で合ってる?」
あどけなく尋ねる少女……。
「あ、そうだけど……。」
「じゃぁ良かった!」
地獄に天使が現れた!
セドは本気で思った。そして……。
「あら? 鎖? アイツの愛人じゃないんだ?」
「そんなわけないだろ!!!!」
思わず大声で反論してしまった……。
ガキみたいで恥ずい……。
「ゴメンゴメン! 鎖外すから許して?」
あ。彼女の手が首をに触れる。
彼女は土くれを崩すように鎖を壊し、自由にしてくれた。
そしたら。
「じゃぁね! 彼氏のところに行くから!」
え。
彼氏!?
この瞬間、彼女はセドに取って白馬の王子……いや姫か、だったのに……。
「彼氏って……なんだよ。」
ズルッと地面に尻餅ついた後、セドは思った。
彼氏って事は__、まだ結婚はしてない。
「彼女は絶対、僕のだ。」
セドに目標ができた。
ついさっきまで、どうしようかと悩んでいたが、まずはここから出ないとな……。
セドは歩き出した。
目に光を宿して____。
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