第二部 第三話 家族写真

3月下旬になり、結子は春休みに突入した。

そんなある日。

「新凪さん」

マサトが新凪に話しかけた。

「はい?」

「家族写真を撮りませんか?」

「家族写真ですか?」

「ええ」

「それはいいですけど、唐突ですね」

「はい、思いついたので聞いてみました」

「ふふ……いいですよ」

「じゃあ、写真館を予約しておきますね」


翌日。

この時期は新入学の前撮りで混み合う時期だが、たまたま運よく予約が取れた。

家の近くの写真館。

「いらっしゃいませ、お待ちしてました」

スタッフが明るく出迎えてくれた。

「今日はよろしくお願いします」

真人はスタッフに目配せする。

「では奥様とお嬢様はこちらへ」

案内されたのは衣装部屋。

そこにはウエディングドレスと子供用のパーティードレスが何着か用意されていた。

「わっ、お姫様みたい」

結子は目を輝かせている。

「……これは?」

「旦那様が、奥様がウエディングドレスをお召しになった家族写真を撮りたいと申し込まれましたので」

新凪の瞳が潤んでいる。

「優しそうな旦那様ですね」

「……はい」

新凪の瞳から涙が溢れた。


新凪と真人は結婚式を挙げなかった。

新凪が2回目だからと遠慮したからだ。

結婚は婚姻届を役所に提出して済ませた。

だけど。


「奥様、涙を拭いてください」

ハンカチを渡された。

「メイクができませんので」

新凪が涙を拭こうとすると。

「擦らないで、押さえるだけにしてくださいね」

新凪はハンカチで目頭を押さえた。

「ふんふん〜ふん♪」

結子はドレスを胸に当てて、鏡の前でくるくる回っている。


新凪と結子が着付けを終えてスタジオに入ると、着替えを終えた真人が待っていた。

シルバーグレーとホワイトのタキシード姿。

「……」

新凪が固まっている。

真人も固まっている。

「お客様」

「ご準備をお願いします」

スタッフが声をかけた。

「綺麗だ……」

真人がようやくそれだけ言った。

新凪はまだ固まっている。

「こういうの慣れてなくて、似合わないよね」

真人は居心地悪そうに笑った。

「いいえ、素敵です」

新凪が即答した。

真人がフラフラと新凪に近づいて、頬に触れた。

「旦那様、キスは禁止です」

真人はビクッとした。

「口紅が落ちますので」

結子はニヤニヤしながら二人の様子を見ていた。


撮影は滞りなく進んだ。

結子を真ん中に左右から夫婦が寄り添う。

背景とポーズを変えて何枚か撮影して。

真人は全種類額装仕上げをお願いした。


帰り道。

「これから毎年、家族写真を撮るのもいいかもしれませんね」

真人は静かに言った。

「そうね、家族の記念に」

新凪は頷いた。

「そういえば、どうして急に家族写真撮ろうと思ったの?」

結子が不思議そうに尋ねた。

「新凪にウエディングドレスを着てほしかったから」

真人は結子の手を取りながら答えた。

「お腹が目立って、着れなくなる前にと思って」

真人が答えると。

「今はお腹おっきくても着れるのもあるよ」

結子がニヤニヤしながら言った。

「それは恥ずかしいからやめて」

新凪が抗議する。

3人の笑い声が3月の暖かな空に消えていった。

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