身体の疾患も厄介ですが、精神疾患も相当しんどいものです。
こちらはジャンルホラーですが、精神病患者の逃げ場のない気持ちが重厚感ある文章で綴られております。
きっかけはあのアトリエかもしれないですが、本人はいたって真面目に考えているのに周りが不可解な雰囲気を出す。でもその真面目さは元の素質に精神疾患が加わったもので、医療者からはせん妄や副作用としてしか思われない。
そんなリアルな怖さが伝わってきました。
事故も事件も霊の存在も偶然なのか必然なのかわからない、でも手記を書いた本人の言うことは間違いなく本物。
どこをどう怖いか定義付けずに、恐ろしさだけ残る文章。すっかり引き込まれました。
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ホラーはレビューを書くことが難しい。怖さがどこにあるかを紹介してしまうと怖くなくなってしまうし、仕掛けを褒めるのも読者の体験を削ぐ。だから内容には触れず紹介を試みる。本作の作者はH.P.ラヴクラフト好きを公言されているので、その線に沿った紹介なら許されるだろう。本作はいわゆるクトゥルー神話ではない。だが、ラヴクラフトのホラーのプロット様式を忠実に再現している。すなわち知的な主人公が禁忌に触れて日常を侵食され、最後には破滅するというものだ。これは誰でもできる模倣ではない。まず知的な主人公を描こうとすると、その思考と文体が一致しないと途端に嘘くさくなる。本作はその点は三重丸だ。文体のやや古風で理知的な語り口が、主人公の教養と精神的な脆さを適切に表現している。展開が進んでもこの文体が最後まで崩れないことが、逆にじわじわと壊れている日常と精神を読者に嫌でも感じさせる。人間がどうやっても抗えないものの恐怖を存分に体験できるホラーである。