高飛車な幽霊

Seven-wolf

高飛車な幽霊

放課後のしんとした保健室。忘れ物を取りに戻った女子高生のユイは、ベッドのカーテンが不自然に揺れているのを見つけた。

「……誰かいるの?」

おずおずとカーテンを開けた瞬間、ユイは息を呑んだ。そこには、江戸時代のような豪華な打ち掛けを纏い、髪を逆立てた、顔面蒼白の女が浮いていた。その指先からは、毒々しい紫のオーラが立ち上っている。

女はギロリとユイを睨みつけ、扇子をバシッと音を立てて広げた。

「貴様誰に向かって物を申すか、頭が高いぞ! この我を誰と心得る。この地を統べし高貴なる怨霊、お菊様と知らぬのか!」

ユイは一瞬、心臓が止まるほど驚いた。しかし、女のあまりに芝居がかった口調と、肩からずり落ちそうになっている霊的な着物の着こなし、そして何より「平成初期のV系バンドのようなメイク」をまじまじと見つめるうちに、恐怖よりも先に深い「痛々しさ」が込み上げてきた。

ユイは冷めた目で女を見下ろし、持っていたスマホを弄りながら溜息をついた。

「……うっわ〜、終わったわ〜」

女の勢いがピタリと止まる。

「な、なんだその態度は! 恐れおののけ! 震え上がれ!」

「いや、マジで。こんなところで何やってんの? 今時そのセリフ、ニコニコ動画の古いタグでも見かけないよ? てか、髪の毛ボサボサだし、そこ、生霊の跳ね返りとかじゃなくてただの寝癖じゃないの?」

ユイが容赦なく指摘すると、高飛車だった幽霊の目元がみるみる潤み、先ほどまでの威厳はどこへやら、急に肩を窄めて小さくなった。

「……そんなこと言ったって、ここに出るしか能がなかったのよ……」

幽霊は宙に浮いたまま、恥ずかしそうに自分の長い爪をいじり始めた。

「さっきから練習してたのに。……今の時代、威張ってないと舐められると思って……」

「いや、威張る方向性間違ってるよ」

保健室の冷たい空気が、気まずい空気に変わっていく。ユイは呆れ果てながらも、この「高飛車な幽霊」の哀れな姿を見て、少しだけ溜息をついた。

「……まあいいや。あんた、とりあえずその扇子しまって。あと、せめて言葉遣いだけでも現代語に直さないと、誰も怖がらないから」

保健室の真夜中は、思いがけない「幽霊の社会復帰指導」の場へと変貌を遂げたのだった。

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