第6話

「……ったくこっちのテンションが下がっちゃったよ」


「仕方ないでしょ! わざとじゃないんだからグチグチ言わないでよ」


「いや形だけでも申し訳なさそうにしろよ! 俺も謝ったんだから」


「こっちはあんたのためにやってるんだから、あんたも謝るのは当然でしょ?」


 もっともらしい理屈をふりかざしてくるが絶対に違うと思う。野球部で培った礼儀正しさで何とか許してもらったが、俺じゃなかったらもっと大事になっていたはずだ。


「あ! 出てきた。行こ!」


 早めのランチを終えた二人がレストランを出て歩き出す。ごまかされたような気もするが、走り出すハルカの後をついていく。


「観覧車だ。私たちも乗るよ」


「え! 俺はいいよ」


「何言ってんの? すぐ次のやつ乗らないと監視できないでしょ? 密室でキスでもされたら終わりだよ」と怖いことを言いながら俺の腕を強引に引っ張り、二人の後ろのゴンドラに乗りこむ。


 徐々に高度が上がっていく。それに比例して俺の顔もこわばっていく。


「ほら、あ、肩当たった……手はまだつないでないか……てあんたどうしたの? まさか高所恐怖症?」


「そうだよ! 高所恐怖症だよ! なんか文句あるか!」


「だっさ」と下等な生物を見るような視線を向けてくる。


 頂点に近づくにつれ、揺れも強くなっていっているような気がする。怖い。怖すぎる。


 ほとんど記憶がないまま地上に到着する。なんとかゴンドラから降りるが、膝から崩れるように前に倒れ込んでしまう。「こわ……怖かった……」と地上の安心感を噛み締めていると、強めに肩をはたかれる。


「休んでる暇ないでしょ! すぐあとつけないと見失っちゃうじゃん」


「確かにそうだけど、こっちのことも考えてくれよ……」


 膝に手を突きながらなんとか立ち上がる。ハルカはこっちに一瞥もくれず、周囲を見回している。


「あ、いた! ……行くよ!」


 また強引に腕を掴まれ俺たちは走り出した。




 次に二人が並んでいたのはお化け屋敷だ。この遊園地はお化け屋敷が名物で、距離が長いことで有名だ。「これはチャンスね……!」とハルカはほくそ笑んでいる。


「今度は何?」


「お化け屋敷で男子が自分より怖がってるとね、大体の女子は冷めるの。二人の直後の組で入って走って追いついて男子の方を驚かせれば、確実に雰囲気台無しになるはず」


「そんなにうまくいくかなあ」


「うまくいかないと思ったらうまくいかないし、うまくいくと思ったらうまくいくの!」


 ハルカは一喝すると列に向かって走り出した。バレないようにハルカが一人で二人の真後ろに並び、入る直前に俺が合流する形でお化け屋敷に足を踏み入れた。


 暗い通路の中、緑色に気味悪く光る案内灯が順路を示す。一歩一歩確認しながら慎重に進んでいくと、がしっと強い力で両肩を何かにつかまれた。「ひ!」とつい声が出て身をすくめてしまう。おそるおそる後ろを振り返ると、体を震わせて下を向くハルカの姿があった。


「……どうしたの?」


「ちょっと怖すぎるんだけど……!」


「まだ何も出てきてないし。……お化け屋敷苦手なの?」


「子供のころ苦手で、もう大丈夫だと思ったんだけど……ここは怖すぎる」


 弱音を聞きながらも、少しずつ進んでいく。ライトが点滅しただけで声を上げて頭を抱えるハルカは、いつもの強気な姿からは想像できず、正直かわいい。


「わあ!」


 物陰からお化け姿の女性が飛び出してくると、素っ頓狂な声をあげてハルカは走り出した。「おいちょっと待てって!」と声をかけ追いかけるが止まる気配はない。そういえば元陸上部だったっけ。めちゃめちゃ足が速い。なんとか視界から消えないようについていくと、先を行っていた二人の脇を全速力で駆け抜けた。しかたなく俺も顔を二人とは逆方向に向けながら走り抜け、そのまま出口までたどり着いた。日差しが降り注ぐコンクリートの上で、ハルカはへたり込み、「……もう無理!」と半べそをかいている。腰が抜けて立ち上がれないようだ。


「全然ダメじゃん」とついこぼしてしまう。聞こえないようにしたつもりだったが、ハルカの顔つきが変わったのがわかった。


「……何あんたマウント取ってきてんの? さっきは観覧車で震えて役立たずだったくせに。そもそも誰のためにやってると思ってんの? なんで私がこんな怖い思いしなきゃいけないわけ?」


「いやマウントなんて取ってないだろ。大体お化け屋敷入ろうっていってきたのはそっちじゃん。それに――」と言いかけたところで後ろから声をかけられた。


「ショウ君……?」


 リナだった。すこし遅れてタクミさんも来る。


「おーショウ! お前も来てたんだ。 めっちゃ偶然! ……そちらもしかして彼女さん?」ハルカの方に手を向けながら言う。全力で首と手を振りながら「いやいやいやいや違います!」と全力で否定した。

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