子供の頃に秘密基地で遊んだり段ボール箱で小さな砦を作った少年も少なからず居ると思っている。
それは大人になっても持っているものだ。隠れ家めいたバーであったりちょいといかがわしい倶楽部であるかも知れない。
しかしながら、今作の大人の隠れ家はそのような夜の街ではない。ほんの少し戦後の焼け野原のにおいと高度経済成長の波が押し寄せる前の下町の香りがするものだ。
主人公の少年は夕食を呼びに父を探す。
硝子工房を営む父の姿が車庫へ入っていく――覗くとそこは〝蒸留実験〟が行われていた。
大人だけの秘密の実験、少年にはまだ早い秘密の実験。
小津安二郎の味がするような固定された低い視線が子供から見たものと気付いた時、読んでいるひとびとは、経験はしていないのにそこに〝郷愁〟を刻まれる事であろう。
ああ、私も苦い味を口に含みたいものだ。