chapter6-1

 ぽつぽつと家が建つ平野を流れる川を通り、王都中心部に近づく。整備された道や小綺麗な建物が現れる頃に川が途切れたため、ボートを降りて徒歩で進む。俺達が入ってきた壁が遠くなり、周りの景色が街になるにつれて人も増え、俺達に宛てた歓声も大きくなる。


「ようこそおいでくださいました星の光ステラ・ルクス様ー!」

「どうか『革命』を起こして我々をお救いください!」


 カーミラさんを先頭に、両隣に壱とキトさんがいる中、俺は何となく居心地が悪かった。


「……なんか、なんというか……くすぐったいというか……」

「……あ、あああっ……或真はこういうの、ななっ慣れていないんですねっ……?」

「いっ、壱こそ落ち着いてっ……!」


 気を紛らわすために壱の手を握ろうとしたけれど、壱が耐えられなくなりそうなのと、隣のキトさんからの静かな殺意を感じたのでやめた。

 ちなみにキトさんはその殺意を群衆にまで向けていた。


 途中があまりにも長いからか、人がおらず周りに何もないエリアでは瞬間移動魔法を使って。小さな町で腹ごしらえをするなど、途中何度か寄り道もして。


「着きました、こちらが王都の中心部になりますわ」

「うお〜〜〜〜! すっげ〜〜〜!」


 石畳の歩道、密集した木造の建物、街を歩く人間ではない人々……そして何より向こうに見える巨大なお城。歴史の教科書で見た中世ヨーロッパをモチーフにしたファンタジー漫画に飛び込んだみたいだ。


星の光ステラ・ルクス様ー! ようこそ魔界へー!」

太陽の天使ソル・アンゲルス様! 月の悪魔ルナ・ディアボロス様! おかえりなさいませー!」

「うおっ、シスターは近づかないでくれー! 俺はそんなに聖なる力には強くないんだー!」

「なーんか失礼な奴もいますわね……着替えてくればよかった……」

「着替え……?」

「或真様は人間なので分かり得ない感覚かもしれませんが、我々魔族は教会とかシスターとか、苦手な方も多いので」

「ああ、そっか……」


 俺にはあまり宗教観なんかは分からないが、よく考えたら十字架とかニンニクとか、そしてシスターとかといったものは、悪魔祓いとかそんな感じのためのものだったっけ、と思い出す。


「……しっかしこれどうすんだ? まさか魔王城直行する気じゃねえだろうな」

「え? 直行する気満々でしたが何か?」


 キトさんの呟きにあっけらかんと答えるカーミラさん。次に瞬きをして目を開けたときには、その真正面に火が出かけたロッドが向けられていた。


「き、キトストップ……! どうしたんですか急に、殺すつもりですか……!」

「うるっせえよ……こっちは散々船乗らされて歩かされて疲れてるってのによォ……やっぱコイツクソだわ」

「だったら尚更やめてくださいっ……!」

「壱香様のおっしゃる通りですわよ。それに周りの方々が巻き添え食らったら、どう責任取るおつもりですか」


 キレるキトさんを止めようとする壱や冷静なカーミラさんには気づかぬフリなのか、さっきまで声を上げていた周りの人達も、特に何をするでもなく俺達を眺めている。それどころかまた始まったよ、でもいつものことだしな、めんどくさ、などといったことを口々に言う。

 俺が入り込む隙もない、火花が飛ぶようなピリピリした空気に――本物の電流が走った。


「……え? あれ?」

「あ?」

「何でしょう……或真様何かいたしましたか……?」

「いや俺じゃないって……! ……どっから……?」


 かなり弱い電流とはいえ、それこそ本物の雷のように空から降ってきた。そして続けてボンボン、と大砲のような音がこだまする。

 音がした方を見ると、屋根に穴が空き煙が上る家。電流もあの穴から飛び出したらしく、穴の周りが電流でピリピリしている。


 周りの人達はまた『アイツ』か、とぼやいて一目散に逃げていった。キトさんが「チッ、命拾いしたな」といなくなった群衆に吐き捨てて、掲げたロッドをしまう。


「……えっと……なんとかなった、のかな……?」

「また失敗したのだー!」


 俺達が気まずい空気を共有していると、例の家の屋根の穴から叫びとともに子供が一人、顔を出した。そのまま子供は他の家の屋根の上を走ってこちらに来る。一番近くの家の屋根まで来ると、5m強の高さから地面に飛び降りた。バランスを崩すことなく、しゅたっと着地。


 黒髪の丸っこい頭に、着ている和服と同じ山吹色のハチマキを巻いたその少年は、壱に気が付くとぱあぁっと顔を輝かせた。


「師匠!? 師匠が魔界に帰ってきたのだ!」

「し、師匠……!?」


 壱は心当たりが無いようで、ぽかんとしていた。

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