魔法はやがて現実へ ——魔法はこの世界のものじゃない。

TUNAKAN

プロローグ

第零話 ガラクタと家計簿


 ——ザザッ。


 壊れているはずのラジオが、鳴った。


 この世界に、電波は存在しない。


 魔法に淘汰されたそれは、とうに消えたはずだった。


「……エリック、正直に白状してください。私の財布から消えた銀貨30枚はどこに行ったんですか?」


 千葉の荒野に、ぴしりと空気が張り詰める。


 家計簿を握りしめているのは、エルフの少女リサ。

 その尖った耳は、怒りで微かに震えている。


「あ、いや、リサ。これには深い……それはもう、海よりも深い理由があるんだ」


 エリックは泳ぐ視線を無理やり前に固定した。


 かつて命を刈り取っていた魔法使いの面影は、どこにもない。


「聞きましょうか?」


「……昨日寄った村の廃品回収業者にね、いたんだよ。幻の“真空管ラジオ”が。放っておけばスクラップにされる運命だったんだ! 僕が救わなければ、あの芸術品は永遠に失われていた!」


「それで私たちの今月の食費を全額突っ込んだんですね!? このダメエリック——!!」


 サボテンがびくんと揺れた。


 エリックは慌ててカバンから黒い鉄の塊を取り出し、愛おしそうに撫でる。


「見てくれリサ、この無骨な配線。魔法で一瞬で音を飛ばす現代のデバイスにはない、この“温かみ”が……」


「温かみでお腹は膨れません! むしろ借金だけ膨らんでます! それにエリック、魔法の扱いも雑なんです! さっきも“お湯を沸かす魔法”に失敗して、私のお気に入りの鍋を真っ黒に焦がしたじゃないですか!」


「それは理論的には成功していたんだ。ただ、魔力配分が少しだけ……」


 エリックは、“殺しの魔法”に関しては超一流だ。

 だが日常魔法となると、驚くほど不器用だった。


 そんな彼が今日まで生き延びているのは、リサが手を焼いているからだ。


「いい、エリック。今日から楽園エデンに着くまで、晩ご飯は野草スープだけです。文句は受け付けません」


「そんな殺生な……せめて魔力回復用の干し肉くらいは……」


「却下です!」


 ——この世界は、かつて科学で回っていた。

 だが今は違う。魔法が、すべてを動かしている。


 便利で、完璧で、誰も疑わない世界。


 エリックは、もう一度だけラジオに目を落とした。


(……この音、“地上のものじゃない”)


「行きますよ、エリック。日が落ちます」


「ああ、今行く」


 二人は再び歩き出す。


 目指すは、すべての魔法が集う伝説の地——楽園エデン


「はぁ……早く楽園エデンに着かないかな。そこに行けば、エリックの浪費癖も治るのかな?」


 リサが溜息をつく。


 その横で、エリックは小さく呟いた。


(……楽園エデンに行けば、仇も、僕の過去も、すべて終わる)


 ——その瞬間。


 壊れたはずのラジオが、はっきりと声を発した。


『——こちら、観測対象を確認』


 エリックの指が、ぴたりと止まる。


 夕焼けの空には、何もない。


 ザザッ、とノイズが走る。


『——魔力反応、想定以上。記録を開始する』


「……リサ」


「なんですか、今度は」


「今、これ……聞こえたか?」


「は? 何がですか。いい加減にしてくださいよ、エリック。これ以上変なこと言うなら——」


 その言葉は、途中で止まった。


 ラジオから、微かな光が漏れる。


 魔法でも、既存の技術でもない。


“何か別のもの”が、そこにあった。


 リサの耳が、ぴくりと震える。


「……なに、それ」


 エリックは答えない。


 何もないはずの空に

“いる” 。


 ——世界は、魔法で満ちている。


 だがその魔法が、どこから来たのかを知る者は、まだいない。


 少なくとも——今までは。


 ——そのとき。


 エリックは、ふと足を止めた。


「……どうしました?」


 リサが振り返る。


 エリックは答えない。


 ただ、空を見上げる。


 何もない。


 雲も鳥もない。


 それなのに。


(……見られている)


 背筋を冷たいものがなぞった。


 一瞬。


 ——確かに。


“何か”と目が合った。


 その瞬間。


 空に、ノイズが走る。


 まるで“何か”が、世界をなぞったように。


 ラジオが、ひとりでに鳴った。


『——視線、確認』


 エリックの呼吸が止まる。


 空には何もない。


 なのに。


“そいつ”は、こちらを認識している。


(……見ているんじゃない)


 一拍。


(……“見つけた”のか)


 気のせいだと——


 もう、言えなかった。



—————————




ここまで読んでくれてありがとう!

もしこの先が少しでも気になったら、☆を★にしてもらえると嬉しいです!


【なろうのリンク】https://ncode.syosetu.com/n7727lr/


なろう版も読んでみてくれると嬉しいです


(カクヨム版にはない次回予告があります)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る