第7話 鳥取地震と私たち

朝の紅電香枚井駅、上りプラットホームに到着した、おなじみの敷女生4人組。ただ、この日はいつもと違って、電車が来ない。改札口にもホームに霜田拓也がいない。沙織、美月、梨音、桃花は、ジリジリしながら、上りの急行を待っていた。が、来ない。このままでは高校に遅刻する。そこで、電光掲示板を確認すると、沙織が指を差しながら「あーっ!」と声を上げた。


◆お客様へお知らせ◆ 今朝発生した鳥取県を中心とした地震に伴い、楠葉市の楠葉車両基地から車両が出せません。急遽、室山市の咲花台車両基地から車両を融通しておりますが、通常の30%の運転間隔になっています。なお、紅電吾野~紅電麦野原間は、線路の安全点検のため、運転を見合わせており、全線にわたって徐行運転をしており、ダイヤが乱れていますことをお詫び申し上げます。


「ねえはっとり、今日は休校かなあ……」

「さああ……おい、梨音、スマホで調べろ!」

「合点承知の助! ええと、紅電のURLは、momijino.co.jp……」

「お前は人間グーグルか!」

「確かに、梨音ちゃんがいると、グーグルいらないかもね」

「でも、地震、おっきかったからね、震度4は来たね」

「うん、そうだな、びっくりしたけど、それより鳥取の人たちが心配だなあ」

「よし! 紅電運行情報きた!」

「ええっ!」

「ああ、こりゃダメだね、全線で各駅停車がまばらにしか来ないね、あっちの香枚井駅の運行状況も調べてみようかな」

「お願い、梨音ちゃん!」

「こういう、非常事態に役立つんだなあ、梨音は……」

「どう、沙織ちゃん、学校に電話つながる?」

「うーん、話し中か、たぶん、発着信規制かなにかだと思うよ」

「こりゃあ参ったね……川渡って、あっちの香枚井駅に行くしかなさそうだね」

「あの変態おっぱい野郎のいる駅? あいつもいま忙しいんだろうなあ!」

「まあ、そうするしかなさそうだねえ……」


そうして、プラットホームから降りる四人組。すると、霜田拓也が、柱の陰で、こっそり手招きをしている。なんだなんだ、と群がる四人組の女生徒たち。


「おはよう、みんな、家のほうは無事かい?」

「ええ、まあ」

「弟の話では、あちらの香枚井駅も、ほとんど電車が来ない。で、親父の話によれば、葱州縦貫自動車道ならどうやら無事らしいから。親父が運転するタクシーが、いまこっちに向かっているから!」

「え、どういうことですか?」

「君たちを無料で敷島市の学校まで送り迎えするらしい。4人なら乗せられなくはないからね!」

「う、嬉しいですけど、霜田さん、お父様平気なんですか?」

「ああ、親父なら、こんな非常時に、困っている学生を放っておけないって張り切ってたから。さあ、改札を出て、東口の前だ、急げ!」

「はいっ! みんな、行こう!」

「よっしゃー!」

「ありがとう、霜田さん!」


香枚井駅東口駅前のロータリーには「予約車」と書かれた黒塗りのタクシーというか、ハイヤーが待機しており、中年のおじさん、霜田駅員の親父さんが、新聞を広げて待っていた。コンコン、とノックする沙織。


「おじさん、霜田のおじさん! わたしです! わたしたちです!」

「うん、事情は拓也から聞いた。高速道路は六〇キロ規制だが、まあ、止まっている電車よりマシだろう。君たちを敷島市まで連れていく。安全は保障するので、安心して乗ってくれよ」

「でも、霜田のおじさん、帰りはどうするんですか?」

「ああ、神崎市の知り合いの紅電無線タクシーがいるから大丈夫だし、何なら、オレが待っていてやってもいいぞ!」

「じゃあ、乗せてくださいね」

「ああ、今日ばっかりは、無賃乗車だが、おじさんが許す!」

「助かります!」

「いいか、みんな、今から飛ばすぞ、つかまれっ!」

「うおおーい、おじさん、運転が豪快!」

「すごおおおい!」

紅電無線・霜田タクシーは、葱州道の室山南インターチェンジ(塩瀬)に入って、しばらく南へ向かった。ところが、途中からなにか、黒と白の警戒色の、赤い回転灯がついた馬力がありそうなセダンが、こちらに向かってくるのだった。


「むむっ? 背後から室山県警!?」

「おじさん、どうしたの? って、ええっ?」


prrrr... prrrr...


「はい、もしもし、高槻です。げっ、紫織! え? なんて? 室山県警の彼氏のクルマで送迎中? お前のタクシーの後ろをつけている? うそ!」

「沙織ちゃん、マジで!?」

「おかしいな、おじさんのスピードメーターは、確か60キロで、速度違反はしてないよ……オレが一体何をした……」

「ねえ、霜田のおじさん、ハンドルを握る手が、緊張して、10時10分になってますよー」

「うん、うん、紫織、事情はわかったよ。はい、じゃあね!……あのー、おじさん、霜田のおじさん?」

「こ、こんな時に何だい?」

「あのパトカー、高速道路を警邏中で、おじさんを追いかけているわけではないらしいので、安心してください。ついでに、わたしの姉の紫織と、チア部の長瀬さんを敷女の学校まで乗せているらしいのです」

「なんだよ……驚かせるなよ、まったく。そうだ、いいことに気が付いた! むしろ、緊急走行で先導してもらうというのはどうだろう! 沙織ちゃん、姉貴に電話しなよ!」

「えー、紫織とあまりコミュニケートしたくないんですけど……。そうだ、長瀬センパイならば。もしもし、センパイ?……えー? お巡りさんが緊急走行するには、室山県警高速道路交通警邏隊の許可が必要ですって? サイレンは、あまりやりたくはないですって? そこを何とかお願いします! サイレン鳴らして先導してもらってください! 遅刻するんですよ、私たち! だからどうかお願い、早く!」

「お! なんか、後ろのパトカー、サイレン鳴らし始めたぞ! 先導してくれんのか? 追い抜きにかかってるぞ!」


prrrr... prrrr...


「はい、高槻です……って紫織!? なになに、偉大な、あんたの姉貴に感謝しなさい? 後でわたしにひざまずきなさい? わたしの脚をお舐め? わたしの犬? ふざけんじゃないわよ! わけがわからないよ! え? 今から、特別に、紅電無線・霜田タクシーを先導するので、ここから一般道に降りる敷島インターチェンジまで、時速八〇キロまでは特別に出してよろしいと許可が出た!? 本当!? うっそ、マジ!?」

「うーん、嬉しいんだけど、ガソリン車の馬力には、正直勝てないなあ、おじさんのタクシーのエンジンは、プロパン車だからなあ……しかも、お客さんを四人乗せてるしなあ……」

「おじさん、いまだ、レッツゴー!」

「ゴーって、お前ら……室山県警、融通が利くなあ……」

「沙織に梨音! いま、薬火野・大牧・麦野原では、地震で大変なんだからな! ちょっとは自重しろ! ニュースを観ていないのか?」

「ううん、観てない」

「はああ、これだっ! まともなのは、霜田のおじさんと、わたしと、桃花だけだぞ……って、桃花!? 桃花大丈夫?」

「服部さん、おじさんが思うに、桃花ちゃんは、あまりの出来事に、どうやら気を失っているようだ」

「はああ……やれやれ……」


鍵堀川を渡る鍵堀大橋あたりから、紅電無線・霜田タクシーは、しかるべき筋にきちんと先導されて、高速道路上において、本来あるべきスピードを回復した。


     ◇ ◇ ◇


ここは、県内屈指の進学校、室山県立敷島女子高等学校。規律正しく、折り目正しき女学生が集う、他校の女子もうらやむ、お嬢様学校な、はず、だが……。今日の昇降口は、いささか事情が違っていた。


「早く着いたー! 一番乗りだー! いやっふー!」

手放しで喜ぶ、高槻姉妹と梨音ちゃん。


「すみません、ごめんなさい、本当にありがとうございました!」

ちょっとだけムッとしている隊員さんにひたすら謝る、霜田父と、服部さん。


「沙織ちゃーん、気絶しているこの子、保健室まで連れてくけど、いいー? ねえ、本当に聞いてるの?」

チア部の長瀬さんに、おんぶされている桃花ちゃん。


そこへ、駆け付ける相川杏子英語科教諭と、藤井奈緒子保健教諭。突然のパトカーとハイヤー襲来に、相川教諭は血相を変え、藤井教諭は青ざめていた。


「高槻さんたち、それに、立花さん! ちょっとこっちへ来なさい!」

「あなたがた! 一体どうしたの、なんの騒ぎ? この子、気絶してるじゃない!」

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