第2話 神隠し
サークルの部室。
狭苦しいその部屋で、僕はSNSを開いていた。
「おい、湊」
「あぁ。悠。どうした?」
「お前、変なことやってた?」
「え?どうして?」
ぞくりとした。
もしかしてこいつ、協会のこと……。
「鼻の下伸びてんだよ。なんだ? エロいのでも見てたか?」
「……なんだよ。見てないよ。不審者情報見てたんだよ。防犯意識高いんで」
「きも! お前、そんなんみて笑ってたの?」
「笑ってないわ。んで、他のメンツは?」
こいつは悠。大学に入学してから、最初にできた友達だ。
同じサークル・心理学研究会に所属している。
このサークルは、少人数で勉強をするサークル。と言われて入ったのだが……実際は雑談したり、ゲームしたりすることが多い。
「詩織はさっき会った。香澄は分かんねぇ。休みかもな」
「あー、あの子調子悪そうだもんね」
「入学早々、留年確定とかなってたら笑えねーよな」
「おつでーす。あれ、香澄は?」
そんなことを言っていると、詩織がドアを開けると同時に同じ話をしようとする。
「香澄は休み〜」
「韻踏んでね?」
「はいはい」
僕たちはそんなくだらない話をしていた。
そんな時、詩織は急に何かを思い出したかのように黙る。
「ねぇ。知ってる? ××区の怪談」
耳がピクピクと痙攣する。
それって、もしかして――
「知ってるー。××区不審者……情報……なんだっけ?」
悠……知ってるんだ。
冷や汗が出る。別に悪いことはしていないのに。
「えー、それじゃないよ。湊、確か××区出身だよね? 知ってる?」
「……知らない。教えて?」
それじゃない怪談?手がかりがあるかもしれない。
特に、黒い人に関連する何かなら……絶対に知りたい。
「……神隠しの話。××区には昔から神隠しの噂が多いらしいんだって。隠してしまうのは、地域で信仰されていたのに忘れ去られてしまった神様。隠されるのは、決まって小さい女の子なんだって」
「……それ、詳しく聞かせて」
僕の強く低い声に、2人は目を丸くした。
「え、大丈夫?」
「いいから聞かせて。ごめん、気になって」
「う、うん……小さい女の子は魅入られて、神様に連れ去られる決まって5年後に返されるんだって。でも、その子への神様の執着は止まない。だから、その子の周りの人達を殺していくんだって……」
協会の話とは繋がらない。
だけど、少女が神隠しにあう……というのは柚子の状況と一致する。
柚子は神隠しにあっている……?
5年後に帰ってくる……それを信じるならあと3年で……柚子が?
「へぇ。面白いね。聞いたことなかったや」
「でしょ? 香澄が話してたんだよね」
「あー、あいつも××区だもんな。てかさ、その神様ってロリコン?」
「そんな言い方罰当たりだよ……でも身体的な特徴として言われてるのは、裸の人間に似てるとか、光が反射しないほど真っ黒な肌をしてるとか……」
黒い肌……絵の……?
絵の黒い人が、××区の神様ってこと……か?
「待って……それ、香澄から聞いたの?」
「そう。香澄、すごい詳しかったよ」
「分かった。ありがとう」
僕は香澄にメッセージを送った。
××区の怪談について聞きたい、と。
香澄からはすぐに返信があった。
地元が一緒ということもあり、学校帰りに××区の喫茶店で話すことになった。
「湊! こっちこっち!」
「え、元気そうじゃん。なんで学校来なかったの?サボり?」
半笑いで、元気そうな様子の香澄に声をかける。
カバンを隣の椅子に置き、メニューを開く。
「違うよー。家庭の事情で! で、××区の怪談についてだっけ? 私アイスコーヒーで!」
「僕はアイスティーで……ミルクお願いします。……そうそう、神隠し?とかいうやつ。香澄、詳しいんだろ?」
「そりゃそうだ! だって私……神隠しにあったことあるの。子どもの頃に」
「……はぁ!?」
「ちょ、ちょっと! 声大きいって」
あまりにもあっけらかんと話す香澄に、思わず声が漏れる。
僕を制止する香澄に、お前の方がどうかしてるとツッコミたい衝動を抑える。
「いや、急にそんなこと言うから……」
「信じる? 湊は私の言うこと」
「……え? ああ、一応」
香澄はその時、目を輝かせ笑顔になる。
「やっぱり! あんな必死なメッセージ、絶対なんか“アレ”関連であったんだろうなーって思ってさ。思い切って言ったの」
「まぁ……そうだよ」
「黒い人……? 見えたの?」
黒い人の話……。ひんやりとした空気が漂う。
面白半分ではない。その本気で心配した表情は、彼女が嘘を言っていないことを示している……ような気がした。
僕は、息を整える。
「……いや。妹が行方不明なんだ」
一瞬、言っていいものか迷った。
大学の友達に、この事を話すのは初めてだった。
可哀想なやつと思われるのは、嫌だったから。
「……ごめんね。辛いこと聞いたね」
「ううん。今日、詩織からその神隠しの話を聞いて、思ったんだ。柚子……妹も神隠しにあったんじゃないかって」
「なんで……そう思ったか聞いてもいい?」
「うん。これ見て」
スマホの画面を、香澄に差し出す。
そこには、柚子が行方不明になる前に描いていた黒い人の絵の写真が映っていた。
「なるほど……ね」
「これって、神隠しの話に出てくる黒い人に似てるだろ? それで、手がかりになるかと思って話聞きに来たんだ」
「そうだね……もしかしたらそうかもしれない。でもね……いや……」
香澄は何かを躊躇うようにぶつぶつと言っている。
「言いたくないことは……聞かない。だから、少し教えてくれないかな?」
「全然……それはいいの。でもね。妹ちゃんがアレに連れ去られたんだとしたら……湊、もしかしたら危ないかも」
「それも、承知の上なんだ。……××区不審者情報協会って、香澄は知ってる?」
思い切って、協会のことを聞いてみる。
すると、香澄の顔は一気に曇る。
やはり、知っているんだ。あのこと。
「知ってるよ。××区の不審者に突撃するアカウントでしょ。……バカだよね」
「そう。あの人の最期……のことも……」
「見たよ。ブログも配信も……黒い人のこと言ってた」
「××区、黒い人、神隠し……不審者。これらには、共通点があると思うんだ。それが分かれば、妹は帰ってくる……そんな気がするんだ」
香澄は真顔で、右に顔を逸らす。
目線は自分の携帯に向けられている。
「放っておけば帰ってくるよ。私みたいに。……でも……協力したい。私は5年間もあいつに奪われた。家族もめちゃくちゃになってた……。周りの人達も……。そんな思い、他の誰にもさせたくないの。だから……湊、一緒に調べてみよう」
「え?」
「私は、5年後に返された。でも、その間の記憶はない。もしかしたら……妹ちゃんを救い出せるかも。それに、賭けてみようよ」
香澄の目線は僕に真っ直ぐ向けられる。
その目力と、言葉の力強さに気圧される。
「……ありがとう。よろしく」
僕と香澄は握手した。
そのぎこちない動きに、思わず笑いが込み上げる。
「……湊は、どこまで調べた? その……」
「ああ。××区不審者情報協会。僕は、SNSの投稿とブログを見た」
「配信は? 見た?」
「見てない。なんかあれだけは、段違いに怖くてさ」
香澄は真剣な顔で僕を見つめる。
「じゃあ、一緒に見よう」
その目線に、僕は頷くことしか出来なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます