謎の男

 火は、すでに起こされていた。


 簡単なキャンプだった。

 木の枝を組み、最低限の荷を置いただけのもの。

 慣れた手つきから見て、幸人がよく使っている場所らしかった。


「ここで休む」


 それだけ言って、幸人は弓を外す。


 龍は黙って腰を下ろした。

 身体のあちこちが痛むが、動けないほどではない。


 森は静かだった。

 闇のドラゴンを倒してから、時間はそれほど経っていない。


 火がぱち、と鳴った。


 そのときだった。


 森の奥で、枝が踏まれる音がした。


 幸人が即座に立ち上がる。

 弓を取り、音のした方向へ向けた。


「出てこい」


 返事はない。


 音が、近づく。


 影が一つ、木の間から現れた。


 何かだった。

 人型に近いが、はっきりとは分からない。


 幸人は迷わなかった。

 弓を引き絞る。


 矢先が向けられた瞬間。


 そいつは、びくりと身体を反らした。

 後ずさり、足をもつらせ、そのまま倒れる。


 ――動かない。


 気絶しているようだった。


 しばらく、誰も動かなかった。


「……撃ってないぞ」


 幸人が言う。


「ああ」


 龍は立ち上がり、倒れたそれに近づいた。

 息はある。


 敵かどうかは分からない。

 ただ、襲ってくる様子はなかった。


「どうする」


「起きたら聞く」


 それだけ決めて、二人は火のそばに戻った。


 森は、再び静かになる。


 夜は、まだ長い。

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