本作は、ある作家が人生の一時期を過ごした地を訪い、その作家の生涯と生き様を振り返るエッセイである。大家などではなくむしろ同人作家に近いこの作家になぜ惹かれるのか。延々と論理を並べるのでなく、彼が起居した住まいや村、妻との生活、おそらく作家の人生が仮託された芒(すすき)の穂波によって巧みに語って聞かせる。ばか者と蔑まれ不器用で妻子を養う甲斐性もない、しかしその「ばか者じゃもの」故に彼を愛した妻の唯一の理解に支えられて、己が薄い生をさらに研ぎ澄まし、芒(のぎ)の細い切先で刻んだ文章を残して死んでいく。そんな生き様が見事に浮かび上がる。この作家が誰なのか浅学にしてよくわからない。それでも作者がいかにこの作家に惹かれているか、鋭く研ぎ澄ました人生がいかに強く人を揺さぶるか、作者がしないと言った「共感」をしてしまった。