第7話 ガラス越しの視線と、譲れない一線

【莉太視点】


『万能感知』が告げる敵意は、確実にこちらをロックしている。

ガラス窓の向こう、街灯の死角に佇む人影。普通の通行人じゃない。じっとこの席を、正確にはミオを見つめている。


「莉太……? どうしたの?」


俺の急な沈黙と視線に気づいたのか、ミオが不安そうに首を傾げた。


「いや、なんでもない。ちょっと外の景色が気になっただけだ」


なるべく自然な笑顔を作って、ココアを一口すする。

ここでミオをパニックにさせるわけにはいかない。だが、このままファミレスに長居しても根本的な解決にはならないし、店を出た瞬間を狙われる可能性が高い。


『相手は何人だ? ……感知できるのは一人。いや、少し離れた路地裏にもう一人いるな』


計二人。これなら、さっきみたいに走って撒くか、あるいは……。

俺はチラリとミオを見た。怯えながらも、俺を信頼してすべてを話してくれた彼女を、これ以上走らせて疲れさせるわけにはいかない。


「ミオ、ココア飲み終わったら出よう。ちょっと寄り道したいところがあるんだ」


「うん、わかった」


会計を済ませ、ファミレスの自動ドアを出る。

夜の冷たい空気が肌を刺した。大通りはまだ明るく、人もそれなりに歩いている。やつらも、さすがにこんな場所で大っぴらに手は出してこないはずだ。


「莉太、寄り道って?」


「ん? ああ、ちょっとそこの路地裏にな」


俺はあえて、人通りの少ない、そして『万能感知』が敵を捉えている方向へと足を進めた。

ミオの腕を軽く引き、俺の背中に隠すようにしながら歩く。


「え、ちょっと莉太、こっち暗いよ……?」


「大丈夫。すぐ終わるから」


曲がり角を曲がり、街灯の光が届かない薄暗い路地に入った瞬間――前方の闇から、一人の男が音もなく姿を現した。

黒いスーツに身を包み、隙のない体つきをしている。ミオが「あ……」と小さく息を呑み、俺の服を強く引っ張った。やっぱり、ミオの知っている奴だ。


「お嬢様、夜遊びが過ぎます。連れ戻しに参りました」


男の声は低く、感情がこもっていなかった。その視線が、ミオから俺へと移る。


「……そこの少年。お嬢様に不審な噂を立て、付きまとっているのは君か。これ以上関わるなら、相応の手段を取らせてもらうが?」


ハッ、と鼻で笑いそうになった。

噂を流したのがどっちの陣営かは知らないが、盗人猛々しいとはこのことだ。


「おいおい、人聞きが悪いな。付きまとってるのはどっちだよ」


俺は一歩前に出て、男の威圧感を遮るように立つ。


「ミオは『帰りたくない』って言ってるんだ。本人の意思を無視して連れて行こうなんて、それこそ青少年保護条例とか、誘拐の類に変形しちまうぞ?」


「口の減らないガキだ。力ずくでも――」


男が足を踏み出そうとした瞬間、俺は『万能感知』の情報をフルに活用し、男の重心の移動、次に狙ってくるであろう動線を完全に先読みした。


「動くな」


俺が低く、鋭い声を出すと、男の動きがピタリと止まった。

ただの声じゃない。相手の動きの『隙』を完璧に見切った上での制止だ。プロの格闘家か何かしらないが、自分の動きが完全に読まれていることに気づいたんだろう。男の額に、一筋の汗が流れる。


「今日はもう遅い。ミオは俺が責任を持って安全な場所に送り届ける。これ以上 shitsukoku(しつこく) 追ってくるなら、こっちも容赦なく『万能感知』でハメるぞ」


男はしばらく俺を睨みつけていたが、やがて小さく舌打ちをし、一歩下がった。


「……今日は引き込みましょう。ですが、長くは持ちませんよ」


男は闇に溶けるようにして、路地裏の奥へと消えていった。もう一人の気配も、遠ざかっていくのが分かる。


「はぁ……。一応、退いてくれたな」


緊張の糸が切れ、俺は大きく息を吐き出した。振り返ると、ミオが信じられないものを見るような目で俺を見つめていた。


「莉太……すご、い……。あの人たち、家の凄腕のSPなのに……」


「まぁ、ちょっとしたハッタリさ。それよりミオ」


俺はミオの目をまっすぐに見つめた。


「さっきの様子じゃ、お前の家、マジで危なそうだな。一人で帰すわけにはいかない。……だから、今日は俺の家に来い」


「えっ……? 莉太の、お家……?」


ミオの顔が、今度は別の意味で真っ赤になる。

学校の噂が脳裏をよぎったのか、オロオロと視線を彷徨わせるミオを見て、俺は慌てて付け足した。


「あ、いや! 変な意味じゃなくて! ほら、俺の家なら『万能感知』の結界的なものも張れるし、一番安全だからさ!」


「う、うん……。ありが、とう……」


小さく頷くミオの横顔を見ながら、俺は心に決めていた。

どんな事情があるかは知らないが、俺の手を掴んだこの女の子だけは、絶対に守り抜いてみせる。学校の噂の出処も含めて、きっちりケリをつけてやる、と。






どうもdaityansukonbu430です。投稿した時に気づいたんですけど作者のコメント忘れてましたね(笑)。気づいていたのに後回しにしてしまったので編集して改めて投稿になってしましました。まぁ…近況ノートに書いた通り、精神が完全に崩壊していたので忘れてました。詳細は近況ノートに投稿した物を参照してもらえるとありがたいです。とまぁ、もしかしたら投稿ペースが遅くなるかもしれないです。でもまだこの作品を続ける気はあるので、次のお話が投稿されるまでしばしお待ちください。というわけでdaityansukonbu430でした。また次回お会いしましょう。

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