2090年、リニアシティの老いたフレイヤが一枚の写真をなぞるこの冒頭の構図だけで、結末がわかっていながらも読ませる引力がある。
閉ざされた月面基地という舞台が、二人の距離を縮めると同時に逃げ場をなくす装置として機能していて、SF的設定とロマンスがきれいに噛み合っている。「相容れない」はずのケンジとフレイヤのすれ違いが、静かな筆致でじわじわと積み上げられていく感触が心地よい。
本編『コズミック・ヘリテージ』への入口となる外伝だが、これ単体でも十分に読み応えがある。宇宙と人の温度が同居する、落ち着いたSFロマンスをお探しの方にぜひ。