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  • 第五章 十四夜─梟への応援コメント

    またコメントを書かせてください。

    第7話「第五章 十四夜─梟」まで、拝読しました。

    この作品の奥で静かに支えているものについて、私なりに考えました。

    少し長文になりますがお許しください。



    最初から引っかかっていたのは、「骨」という語です。

    第一章に、骨代謝の授業の場面があります。

    「古い骨を壊す作業と、新しい骨を作る作業を繰り返して、骨を常に新しく作り替える仕組み」

    普通の人間の身体の説明として読んでいました。

    でも朔は、そこから離れられない。

    「俺の骨はどうなのだろう。壊れているのか。それとも、作り替えられているのか」

    この問いは、第7話まで来ても答えを持っていません。

    後に久世先生が言います。

    「骨が月に引っ張られる奴がな」

    そして、タイトルにも置かれています。

    「骨の満ち欠け」

    人間の身体を保つための言葉と、月によって変異していく身体の言葉が、同じ「骨」に入っています。

    壊れているのか。
    作り替えられているのか。

    その問いは、人間の通常の維持と、朔の変異とをまだ分けられないまま、タイトルのところに残っている気がしました。



    白い錠剤の場面が、読んでいて苦しかったです。

    「飲めば、自分が“満ち人”だと認めることになる」

    朔はそれを分かっていて、飲みます。

    「体は拒絶している」
    「飲みたくない」
    「認めたくない」

    そこまで拒んでいるのに、最後に「でも、人を殺したくない」が来ます。

    ここは、前向きに自分を受け入れる場面ではないと思いました。

    人間でいたいから飲む。
    でも飲むためには、自分が「人間だけ」ではいられないことを認めなければならない。
    そのねじれが、苦しかったです。

    加害の可能性を避けるために、そこへ追い込まれている感じです。

    しかも飲み込んだ直後に「冷たいものが骨に染み込んでいく気がした」とあります。

    薬が喉を通るだけでなく、骨へ届く。
    人間でいようとする手続きが、「骨」という語に触れながら身体の奥へ入っていきます。

    第一章の問い――壊れているのか、作り替えられているのか――が、ここでまた戻ってくる感じがしました。



    十三夜の保健室の場面

    夢の中では、朔は噛まれる側にいます。
    目が覚めると、久世先生の手首に歯形のような傷があり、血が流れている。
    朔の口に鉄の味があって、手に血が付いていた。

    薬を飲んだ後の場面なのに、身体は止まりきっていない感じです。

    でも、朔がどう動いたのかは書かれていない。

    「俺、何をしたんですか」

    久世先生は言葉で答えない。
    鏡を向ける。

    映っているのは、犬歯を剥き出しにした朔自身。

    問いへの応答として返ってきたのは、言語ではなく、自分の外側からの視点でした。
    何をしたかではなく、それをした後の自分の顔です。

    行為の途中は見えないまま、血と傷と鉄の味だけが到達しています。

    「怪物なら。お前は今、そんな顔をしない」

    この久世先生の言葉は、怪物ではないことの証明ではなく、「今この瞬間の朔の顔を見ている」言葉として読みました。

    鏡と同じ形をしている。

    定義ではなく、観察として返ってきます。

    だから「俺は怪物なんですか」という問いは、消えないまま次へ持ち越されます。



    第五章、久世先生の過去の話

    父は「化け物」と呼んだ。
    母は受け入れてくれた。
    でも、誰も「苦しかったか」とは聞かなかった。

    だから鹿の男の「苦しかったか」で、久世先生の胸の奥が崩れたのだと分かります。

    拒絶でも受容でもなく、苦しさを問われること。
    それが転換点だったと思います。

    そして久世先生が朔へ向けたのは、

    「だから今度は、俺がお前の居場所になる」

    という宣言でした。

    問いの形式ではなく、宣言の形式です。

    久世先生が鹿の男から受け取ったもの、つまり問われることと、朔へ差し出したもの、宣言されることは、同じ形ではないと感じました。

    この差が、第7話の終わりにまだ埋まっていないと思いました。

    「居場所」という語は、山奥の集落、つまり場所から始まり、久世先生が初めて知った経験を経て、「俺がお前の居場所になる」という関係へと変わっていきます。

    その変化は分かる。

    でも朔は、

    「ただ、小さく息を呑む音だけが聞こえた」

    として止まっています。

    受け取ったとも、拒んだとも書かれていない。

    ここで言葉にならないまま止まっていることが、読後に残りました。



    「俺は人間だ。そして狼でもある」

    プロローグの冒頭の二文が、第7話まで来てもほどけていない。

    人間でいるための手続きが、満ち人であることを認めるところを経由し、認めたあとも、意識の外で傷だけが残る。
    問いへの応答は言語ではなく鏡として返ってくる。
    居場所は宣言されたけれど、朔の返事はまだ言葉になっていない。


    「居待月─嗅覚」

    第六章のタイトルです。

    ここまでの嗅覚は、石鹸の匂い、鉄の匂い、血の匂い、獣の匂いとして反復されてきました。

    石鹸・鉄・血・獣と積み重なった匂いが、第六章で朔の何を開くのか、何を覆うのか。

    静かに待ちながら読んでいます。

    作者からの返信

    ここまで丁寧に読み込んでくださり、本当にありがとうございます。

    一つひとつの場面や言葉を拾い上げながら考察していただけて、作者としてとても嬉しく拝読しました。

    「骨」という言葉や、朔の葛藤、薬を飲む場面、鏡の場面、そして久世先生の言葉まで、それぞれを繋げて読み解いてくださっていて、「こんなふうに受け取ってくださったんだ」と何度も頷きながら読ませていただきました。

    特に「壊れているのか。作り替えられているのか。」という問いが作品全体に残り続けている、というお話が印象的でした。

    まだ物語の途中なので詳しくはお話しできませんが、この先も朔が「人間であること」と向き合い続ける物語になります。

    最後の「静かに待ちながら読んでいます。」という言葉も、とても嬉しかったです。

    素敵なコメントを、本当にありがとうございました。
    続きを楽しんでいただけるよう、一話一話大切に書いていきます。