良くある、元勇者と新米勇者のバディ物だと思って読み始めたら、気がつけば“明日の飯”を護る物語に心を掴まれていた。
この作品の何が面白いかというと、戦いのスケールは確かに英雄譚なのに、視線が徹底して「生活」に向いているところです。
魔物を倒して終わりじゃない。
その魔物が生態系の中でどういう役割を持っているのか。
湿地が死ねば地下水脈が枯れ、農村が干上がり、小麦が消え、街のパン屋や屋台の飯まで不味くなる。
普通のファンタジーなら背景設定で流される部分を、この作品は真正面から描いてくる。
しかも説教臭くない。
なぜなら全部が「美味い飯」の話に収束しているから。
「金貨なんぞ鍋で煮込んでも、明日のスープは一滴も美味くならねえよ」
この作品の価値観を象徴する台詞ですが、読めば読むほど、この言葉が物語全体を貫いているのが分かります。
特に好きなのは、主人公ルミナが“勇者らしくない”ところ。
聖剣扱いは雑。
鍋を叩いて魔物を追い払う。
剣を抜かず、匂いと地形で魔物を倒さずクエストをクリアする。
でも、その泥臭さこそが本物の英雄に見える。
「世界を救う」と言いながら、実際には誰かの生活を壊している作品は多いけれど、この物語は逆に「生活を護ることこそ世界を護ることだ」と描いている。
そこがすごく好きです。
あと、ジンというキャラが本当に良い。
ルミナが“物理”で世界を見るのに対して、ジンは“経済”で世界を見ている。
この対比がめちゃくちゃ上手い。
湿地と水脈、小麦相場、先物取引、買い占め――そういう経済戦を、ちゃんとファンタジーの熱量に変換できているのがかなり強いです。
しかも最終的に護られるのが、
「裏路地の串焼き」や「農村のパン」なのが最高。
英雄譚なのに、最後に残る読後感が“腹が減る”なんですよね。
派手な魔法バトルではなく、
泥まみれの現場仕事
屋台飯
生態系
匂い
算盤
生活インフラ
こういう要素で世界を描ける作品はかなり珍しいと思います。
「強さ」とは何か。
「英雄」とは何か。
その答えを、聖剣ではなく片手鍋で描いた、一風変わった、とても優しい物語でした。