第9話 一ノ瀬真由美は脳を焼かれる ※真由美視点

 私の部屋は、今この世界で最も卑猥な聖域性域と化していた。

 ほぼ全裸(肌着とズボン)の男子と部屋で二人きり、これ以上エロいシチュが他にあるでしょうか!?

 あるわけない、断じて!


 ……と、愚かにもこの下半身に支配された女はそう思っていました。

 でも、違った。


 弘樹がペットボトルを落とした瞬間——世界は私の曇ったまなこに本物の姿を見せてくれたのです。


 あの弘樹が……誰よりも清楚な弘樹が……ペットボトルを立てている。

 

(はぁぁぁん、目、目がぁぁぁぁ!)


 ありえない、ありえない。

 男子がペットボトルを女子の前で立てるなんて!?

 

 男子が棒状のものを立てたら、それもうまごうことなきチ〇コだ。

 し、しかも……突然弘樹はそれを撫でまわし始めた。


 ゆっくりと右にまわし、左にまわし。

 パンパンに膨らみ屹立するペットボトルを、じっくり愛撫するように……。

 やがて、ふっと嘲笑うように息をこぼした彼は……先端キャップを激しくこねくり回した。ラストスパートをかけるように、激しく情熱的に!


 プシューと白い液が天井に届かんばかりの勢いで飛び出す。

 弘樹は慌てて自らのモノに口づけして、喉に滑り落とすように嚥下した。


(……はぁぁ、はぁっ……自らの口で迎え撃つなんて……これが伝説のセルフフェ〇チオ!?)


 私の密林がアマゾン川の氾濫で大洪水を起こした瞬間だった。

 もはや性域せいいき通り越して人生最高の神イキかみいき


(もう無理、もう限界。それってもう、これから私に同じことやれって合図でしょ!?)


 イマジナリー弘樹が優しく微笑み、膝を折った私の後頭部をわしづかみにして語りかけてくる。こうやって、男を喜ばせるんだよって。


 私は震える腰を叱咤して、彼の隣に座った。


「濡れてるから拭いてあげるね」


 体を拭くていで、全身を撫でまわす。

 くすぐったそうに声を漏らす彼の喘ぎ声に、私の体は熱く蒸れて。

 マッサージをすると、彼の瞳は求めるようにとろんとした。


 既にお互いに一発イッた。

 じゃあ……次は本番だ。


 私はポケットにある0.0001ミリの箱を握りしめる。

 けれど……つい先ほど彼が語った言葉がフラッシュバックする。

 女性を信じているという純真な想い。


 本当にそれを裏切って良いのか……。

 小さな頃から私を姉と慕う彼を、ここで同意なく襲うのは化け物の所業だ。

 そんなことをしたら人間じゃいられなくなる。


「……真由美ちゃん、ごめん。なんか……気持ちよくて、眠くなって……」


 腕の中で彼が眠った。

 そして、思いだした。

 私は人間じゃなかった。


(ふー、ふーー、む、無防備な弘樹が私の腕の中で寝ている~!?)


 ここでやめる!?

 そんなの無理に決まってるでしょ!?

 私は人間であるまえに、女なんよ!


「じゅるり……」


 罪悪感は死ぬほどあるが、性欲が勝つ。

 

(それに……私が何もしなくても、無防備な弘樹は絶対にいつか襲われる。だったら、私が初めてを貰うほうが……いいよね♡)


 眠っている彼をゆっくりとベッドに横たえて、私は彼に跨った。

 緊張で震える手で、幸せそうに眠る彼の肌着をめくると、割れた腹筋がヌラヌラと色気を放っている。指先でなぞると「うっ」と色っぽい彼の声があがった。


「はあ、はあ、はあ」


 ドキンドキンと跳ねる心臓で胸が痛い。

 これが……恋?


 やばい、意識を保つので限界なんですけど!?

 性欲で視界がぐちゃりと歪んだ。

 苦悶に耐えながら……私はそっと、唇を腹筋に落とす。


 チュ。


 一度じゃない。何度も唇を、じわり、じわりと下へ。


「う~ん、真由美ちゃん……」


 ハッと顔を上げる。

 弘樹の寝言だった。それも、私の罪悪感を刺激するような、切ない声で。


 じんわりと汗が滲む。

 激しく頭を横に振った私は、彼のズボンへ指をかけた。

 

(ごめんね弘樹、私はもう止まれないの)


 あと十五センチ。この布切れを下げれば、そこには人類の希望が眠っている。

 真由美の人生を変える十五センチ。

 そして、弘樹の立派な十五センチでもある。


 いざ、未踏の領域へ……テイクオフ! 

 

「くすぐったいよぉ……

「……ひ、弘樹……今なんて?」

「むにゅむちゃ、真由美お姉ちゃん……」

「お、お姉ちゃん……はぁぁん!」


 ズドドドドーーーーンッ!


 荒々しい正義の雷光が、私の穢れたせいへきを打ち砕く。

 お姉ちゃん……まだ輝幸君が女のおぞましさを知らない頃に、私をそう呼んでいた。


『真由美お姉ちゃんともっと遊びたいー!』

『真由美お姉ちゃんと一緒じゃなきゃ嫌だぁ』

『えへへ、僕ね将来真由美お姉ちゃんと結婚したいな』


 古い記憶が疼く。

 いつかまたそう呼んでくれると何度願っただろう。

 もう叶わない夢だと諦めていた。

 それなのに……なんで……なんで……


「いまその呼び方をするのよぉぉ、うぅぇぇぇん!」


 気が付けば、私は泣いていた。

 拭いても拭いても涙は止まらなかった。

 弘樹の清楚さが胸に突き刺さる。

 弘樹の飲みかけのペットボトルを握りしめて、私はトイレへ駆け込んだ。


(今回だけ、今回だけだから……もし次の機会があったらその時は……絶対に童貞を貰うんだからねぇぇぇぇ)


 人生で初めて、泣きながらシた。 


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