異世界転生(仮)なおじさんはVIP待遇を断り隻腕の少女や引き籠りの御曹司と共に街の便利屋を営む!

丹波林

第1話「いきなり大ピンチ」

家族団らんの夕食時。


「そういえば、栄治」


「お前が小学の頃通っていた小此木さんとこの学習塾」


「生徒が集まらなくなって今年限りで廃業しちゃうって話よ」


シジミ汁をすする親父の横で、思い出したかのように世間話を始めるオフクロ。


過疎化はともかくとして、少子高齢化の波は、東京から電車で小1時間ほど離れた距離にある俺の故郷。


S県K市にも迫ってきており、空き家こそまだ少ないが…


子供世代もあらかた独立した結果、ご近所さんは年金暮らしの老夫婦ばかり。


俺が長年指導を受け持っているM町剣道スポーツ少年団も小学の部の団員はわずか数名。


隣町のスポーツ少年団との合併話も浮上している中。


「お前だって結婚してないし、これもご時世よね」


デリカシーのない余計な一言を加えつつ、それでもオフクロがどこか他人事な理由。


それは、我が家の稼業・有本整体院が、未曾有の高齢化社会の恩恵を受け、足腰が痛い老人客で連日大賑わいなおかげだったりもするが…


(この不景気にありがたい話ではあるけど…)


(老人向けの商売ばかり流行って、これから先の日本は一体どうなっちまうんだろうかね?)


思えば俺がガキの頃は良かった。


まだ駄菓子屋だってあちこちで営業していたし…


テレビやゲーム、漫画だって黄金期。


学校の掃除の時間。


友達と一緒に、ホウキを片手にア〇ンストラッシュごっことかやって


「ちょっと男子たち」


「真面目に掃除やりなさいよ」


とかクラスの女子に良く呆れられたものだ。


ヤンキーと呼ばれる人種も存在したし…


教師はすぐ怒鳴り体罰も当たり前。


エンコーや親父狩りに某カルト宗教のテロ。


物騒な話題も多かったけど


(街には活気があったし…希望に満ち溢れた時代だったよなぁ…)


昔を懐かしみながら夕食を食べ終え、自室に戻りベットの上。


スマホで動画を眺めながらウトウトしていたら


「へ、へっくしょん…」


そろそろ初夏に向かう季節のはずなのに、急に辺りが肌寒くなり思わずくしゃみが。


異変を感じて目を覚ますと、そこは豊かな紅葉に囲まれた森の泉のほとり。


俗に言う異世界転生の瞬間だった。


「う、嘘だろ…」


「ちょっと昔を懐かしんだだけで異世界転生だなんて…」


まるで誤BANで有名なYouTubeのAIのようないい加減さ。


おまけに、泉の水面に映る俺の姿はまったく若返っておらず、前世と同じ45歳のおじさんのまま。


服も夕飯前。


風呂に入った際に着替えたばかりのジャージ姿。


前世との違いなんて、スマホ代わりに枕元に転がっていた日本刀くらい。


「いくらなんでも雑すぎるだろ!」


と言葉にならないツッコミの声をあげたのと同時。


「きゃぁああああああああああ!」


森の茂みの左奥より甲高い少女の悲鳴が。


異世界の森で人の悲鳴が聞こえる理由なんてただ1つ。


日本刀を掴み、慌てて悲鳴の聞こえた方向に走り出してみると…


青龍刀を振りかざした人型豚頭の大柄なモンスターの足元でうずくまる少女の姿が飛び込んできた。


年の頃は10代前半。


ブロンズのセミショートにはっきりとした目鼻立ち。


革の鎧を着ているところをみると、おそらくは冒険者なのだろうが…


苦悶の表情を浮かべて抑え込む左腕の先がばっさりと切り落とされていた。


(ひぇぇぇ…)


(こういうのあんまり耐性がないんだよなぁ)


あまりに衝撃的な光景を前に一瞬たじろいてしまった俺ではあるが


「こ、こいつはオークじゃない…オークキングだ!」


「に、逃げてぇっ!」


最後の力を振り絞り、俺に警告の言葉を発してきた少女。


俺も前世では剣術師範として子供たちを指導していた身の上。


娘でもおかしくない年齢の子供にそんな漢気を見せつけられたら、かえって逃げるわけにもいかず


「おい、化け物」


「俺が相手だ!」


鞘から日本刀を抜き放ち、かっこよくオークキングを挑発してみたら…


キングなんて名前がついているせいか煽り耐性0。


「ビュンッ」とひとっ飛びで10メートル近い距離を詰めて来て、俺の目の前まで降り立ったオークキングは


「ブォォォンッ」


凄まじい風切り音をあげて袈裟斬りを繰り出して来た…


と思ったら


(ん?)


(なんか遅くねえか?)


本来は一撃で人間をミンチにする程度の破壊力は持ち合わせているであろうオークキングの斬撃が、俺の目には再生速度0.25倍。


超スローモーションで再現されてしまい…


青龍刀の軌道も丸わかり。


ひょいっと半身をひねるだけで簡単に交わせてしまう状況に。


剣道歴36年。


高校時代は全国大会に出場した実績も持つ一廉の剣道家な俺ではあるが、こんな神秘体験は当然ながら初めて。


(俺、こんなニュー〇イプみたいな能力あったっけ?)


と疑問に思ってはみたが、そこですかさず説明を入れてくれる異世界の頼もしいお供。


親切でおしゃべりなナビゲーター機能は、現状の俺に付与されていないようなので


(やっぱり、俺)


(誤転生か何かなんじゃ…)


あまりにサポート不足な現状をちょっぴり不安に思いながら、ステータスウィンドウをオープンしてみると


【 名 前 】 エイジ・アリモト


【 ジョブ 】 サムライマスター


【 レベル 】 45


【 H P 】 722


【 S P 】 477


【 攻撃力 】 562(+116)


【 防御力 】 386(+1)


【 素早さ 】 442


【 知 力 】 251


【 幸 運 】 308


異世界に転生したばかりなので、この能力値がどれほどの価値を有するのかは把握出来ないが…


ヒグマの何倍も強そうなオークキングを手玉にとっている以上は、前世の俺の身体能力よりも大幅に増強されている事は確かだ。


おまけに、スキル欄には「見切り」のパッシブスキルの存在も確認。


(オークキングの攻撃が止まって見えるのはこのおかげか)


(まるで強〇人間だな)


大学を卒業後は、指導者としての活動がメインになっていたため、真面目に剣道に打ち込んでいたのは、5段を取得した30歳くらいまで。


高段者扱いをされる7段まで到達していない俺が、仮に前世の経験が引き継がれているにしても、「サムライマスター」の称号をゲットしている状況は、少しばかり不思議な感じもするが…


このチートスキル自体は本物。


どんな攻撃を繰り出そうとも涼しい顔で俺に交わされてしまい、驚愕と焦りが入り混じった表情を浮かべるオークキングを相手に、もうしばらくの間、達人ごっこを楽しみたい気分もあった一方。


左腕からの出血が止まらず、意識を失い、地面に崩れ落ちた少女の姿が視界に入って来たものだから


(やべやべ…)


(このままじゃあの子が死んでしまう)


(すぐに手当てをしてあげなきゃ…)


オークキングの縦一文字斬りを交わし懐に潜り込んだ後は、日本刀を横一文字に一閃。


オークキングの上半身がだるま落としの如く、そのまま地面に滑り落ちる形となった。

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