第23話

監禁2日目。

いつの間にか眠ってしまったアイリスは周りの空間が変わりないことに落胆し昨日のあれが悪夢じゃないことを実感する。

枕代わりにしていた本の表紙は涙で濡れてしまったものの、表紙は厚紙で出来ていたため拭き取るだけで済んだ。

この部屋から一刻も早く脱出する気ではいるが数日程度で出られると考えるほどアイリスは楽観的ではない。

アイリスは山積みになった魔道書をパラパラとめくりお目当ての魔法が書いてあるページを見つけた。

木の創造魔法。布の創造魔法。

ひとまず生活の水準をあげる必要がある。

リッチーの体質上、食事を取らなくても死ぬことは無い。

なので優先すべきはベッドである。

閉じ込められて第1にやることがこれかと思わなくもないが出られなければ助けが来るとも思えないため仕方ないと言える。床でも寝れない事はないのだが体のあちこちが痛む。

大体の魔法は本に書かれているようなのでその都度覚えるとしよう。

アイリスは木の創造魔法と布の創造魔法を難なく覚えることができた。

創造魔法は学び舎でも初歩を学んでいたので呆気なかった。

ひとまず木を創造し攻撃魔法で角材にする。

あとはそれらを家にあったベッドの作りを見よう見まねで組み立てる。

元々覚えていた金の創造魔法で金具を作り出しベッドの要所要所に打ち付ける。そして布をその上に被せて余った布で枕を作り完成。

創造魔法を習得するよりも組み立てる方が時間がかかってしまった。

家にあったベッドと比べれば粗末な作りではあるが子供が作ったにしては上出来と言えるだろう。

アイリスは勢いよくベッドに飛び込むと軋むことなくアイリスを受け止めてくれる。

せっかくベッドが出来たのだ。1度試しに眠ってみないと。

シーツや枕がふかふかとは言い難く少し寝心地の悪さを感じるがそんな事気にならないくらい疲れていたし布団を被って眠るというのは思っていたよりも安心感があった。

ー監禁3日目。

今日はもう少しリッチーについて調べるつもりだ。

そもそもアイリスはリッチーのことを一昨日読んだ本のあの一部分以外はよくわかっていない。

いや、読んだ部分でも理解してないことはある。

今は試しようが無いが太陽光に当たり続けると灰になって消えるとあるが消えるまでにおそらく個体差がある。

そしてその個体差とはアイリスのようにリッチーになる前の体が子供だと早いとか、リッチーになる期間が短いと早いとか色々あるだろう。

「それはここから出てからか…」

ひとまず今わかりそうなことは一通り試してみる必要がある。

まず人間の時と比べて魔力量がどれほど上がったのか。

アイリスが学び舎にいた頃は体が小さいため魔力の器のようなものも小さく、攻撃魔法を10回程度放つと立ちくらみが起きた。

あと数発は打てるだろうがおそらくあと2、3発が限界だろう。

魔力が完全に枯渇した状態で魔法を使おうとすると生命力で補おうとするため、そんなことをすれば命に関わるので限界まで試したことはない。

しかし魔法を打ち続け数時間ほど経っただろうか。

魔法の打ち先にされている扉は当たり前のように傷一つ付いていない。

それはともかくとしてアイリスの方は特に何の異変もなかった。

強いていえばずっと魔法を打っているのでその反動をこらえるのが辛くなってきたくらいだろうか。

数としては100はくだらない。

途中までは数えていたのだが底が全く見えないので意味がないと感じやめてしまった。

少なくとも元のアイリスの魔力の器から10倍以上になっているのがわかる。

途中でやめてしまおうかと考えたがせめて魔力が減ってきたという実感が湧くまでは続けてみることにした。

そしてそれからさらに数時間後。

かなり魔力を使ったはずだが未だに底が見えない。

気が遠くなるほど魔法を連発する。

しかし魔力が尽きるよりも先に体力の方が尽きかけている。

ここでひとつアイリスが気づいたことがある。

子供のアイリスですら10発は使える攻撃魔法、魔力の消費が大したことない可能性だ。

アイリスは確かに他の子供たちよりも最も魔力適性が高かったが攻撃魔法を数発多く打てる程度。

リッチーの魔力量がどれほどなのか調べるのならもっと魔力消費が激しい魔法を覚えるべきだ。

魔力消費が激しいということは威力もかなりのものになる。

ついでという訳では無いがこの忌々しい扉を壊すとまではいかなくても少し耐久値を削ってくれれば僥倖だ。

しかし魔力面が何ともなくてもやはり体力面にはかなり響いてしまったようだ。

アイリスは意識が飛ぶ直前でなんとかベッドの上に潜り込んだ。

ー監禁4日目。

『リッチーが使えるスキルは多岐にわたる。

アンデッド上位種のみが使用できるアンデッドの召喚魔法、触れた相手の体力を奪うドレインタッチ、度合いによっては緊張のあまりそのまま絶命してしまうほどの恐怖のオーラ。我々の研究で判明したスキルはこの3つのみだがまだ判明していないスキルが多数あると考えている。』

『では続いて現在判明しているスキルの説明だが、まずアンデッドの召喚魔法。これはスケルトンやゾンビのような弱いアンデッドなら魔力が続く限り無限に召喚し続けることができる。しかし強いアンデッドとなれば1日に召喚できる数は限られてくる。

1日に10体までというものがいれば1体しか召喚できないものもいる。これは魔力の多さに関係ない。』

『そして触れた相手の生命力を奪うドレインタッチ。これは相手が生きている状態で触れさえすればどの生物にも通用する強力なスキル。リッチーは奪った生命力を魔力に変換することが出来る。個体によっては直接魔力を奪うこともできるようだ。

リッチーの常時発動しているスキルとして触れた相手を状態異常にできると言うものがあるがこちらも併用可能だ。ドレインタッチで触れられた相手は生命力か魔力を奪われ、さらに麻痺などの状態異常が発生しまともに立ち上がることすらできなくなる。

リッチーは人外魔術師、魔法での戦闘が得意と考えられているので剣に長けた者ならば距離を詰めるはずだがこのスキルのせいで帰らぬものになった名のある剣士は数多い。』

『続いて恐怖のオーラ。オーラの強さは段階があり、その段階がいくつあるか細かくは不明ではあるが大まかなデータを取ることに成功した。

1段階目は相手に恐怖を植え付ける。力無き者はこの時点で首を差し出す。

2段階目は混乱。あまりの恐怖に正気でいられなくなりそのオーラを向けられた者はその場で立ち尽くして死を待つのみ。万が一その場から逃れられたとしても後遺症として脳が麻痺し手や足を自由に動かすことができなくなる。

3段階目は自死。目の前の存在、つまりオーラを放つ者の存在そのものを受け入れられなくなり発狂した後に救いを求めるために手段を問わずなんとしてでも自死を選ぶ。

この3つの段階の間にさらに細かくあると思われるが先程も述べた通り現状は不明。』

アイリスはそこまで読むと木でできたしおりを挟み本を閉じる。

どうやらリッチー特有の強い魔法はこの本には書かれていないらしい。

しかし色々と勉強になった。

アイリスは本に書かれていた魔法を唱える。

しかし特に何も起きない。

不思議に思いもう一度試すが何も起きない。

使えない魔法なのかと考えるが微量ではあるが確かに魔力が減っている気はする。

もちろん大きな湖からコップ一杯分の水をすくっても湖になにか異変が起きる訳じゃない。

しかし魔力の消費特有の体から何かが抜けていく感じを確かに感じるのだ。

発動はしている。しかし結果は出ない。

アイリスが発動しようとしているのは下位アンデッド召喚の魔法。

召喚されたアンデッドがどの程度の強さなのか、どこまで意思疎通ができるのか、本当に裏切ったりしないのか色々試したかったのだが難しいようだ。

そうなると残りの2つであるドレインタッチと恐怖のオーラは対象がいないため発動してもどうなってるのかわからないだろう。

考えても結局発動しないのだから他の魔法の習得に専念することにした。

ー監禁7日目。

あれからそれなりの時間が経過した。

しかしやはり1人は寂しいので使い魔でも契約してみようかと考えてみたがどうやらどんな使い魔であれ元はそこら辺にいる動物と契約することでその動物を使い魔として使役できるらしい。

ここは動物どころか虫一匹湧かない完全な密室。

『使役する生物は術者である主の目となり耳となる。小さな穴から侵入できるネズミや夜闇を見通すフクロウなどその生物によってできる内容が変わってくるため使い魔は慎重に選ぶべきだ。

複数使役することはもちろん可能だがまず魔力を常に共有し続けるため契約し過ぎには注意だ。』

「目となり耳となりか…」

では例えば自分の視覚や聴覚が特定の場所に飛ばすことができる魔法が存在したりしないだろうか。

そう考え本をめくる。

そんな夢のような魔法が存在するとは思えない。

しかしもしかするとと思うと。

アイリスはまだ目を通していなかった本を数日かけて読み漁っていた。

ー監禁15日目。

「あった!!」

思わず本を持ち上げ立ち上がってしまう。

体感ではかなりの時間が経った気がするがアイリスは既に時間の概念が無くなっていた。

リッチーになったばかりの頃は1日の終わりは眠ってしまい朝(かどうかは不明だが)起きたタイミングで1日のスタートとして数えていた。

しかしここ数日眠らなくても体に不調がないことに気づく。

おそらく人間の頃の習性が残っていて眠ってしまうのだろう。

読んだ本にはリッチーはアンデッドなので人類の持つ3大欲求を持たないと書いてあった。

こうなってくると本当に人間を辞めたんだと実感してしまうがもう諦めている。

アイリスはようやく見つけた魔法のページを穴が開きそうなほど見つめる。

『透明の目、耳、鼻を特定の位置に顕現させて情報収集する魔法。一定の範囲内に顕現させることが可能で、その範囲内から出てしまうと自動的に解除される。また同時に顕現できるのは目と耳は2つまで。鼻は1つのみ。

発動中は常に魔力が消費されるので注意。』

魔法とはイメージ。

例えば創造魔法は頭の中で作りたいものを思い浮かべる。攻撃魔法はどういう動きをするか、防御魔法はどれ程の硬度を誇るか。など自分の思い描いた通りに実現させる。

(目を…飛ばすイメージ…)

目を瞑り扉の奥、つまり部屋の外に魔力を込める。

あの忌々しい豪勢な扉は魔法を無効化する。しかしそれはおそらくあの扉そのものに向けられた魔法のみ。

この部屋全体に魔法を無効化する結界が貼られているのでこの部屋をどうこうすることはできないが外側になら…という淡い期待がこもっている。

ー監禁16日目。

「あれ…?」

アイリスは体を起こすとベッドの上だった。

いつの間にか眠っていた。

おかしい。リッチーには3大欲求がないはずだ。

どの本にもそう書いてあったし、食欲と性欲とは違い睡眠欲はリッチーになった直後の数日襲われるらしい。しかしそれは数日まえに言った通り人間の習慣が抜け切っていないから。

しかし意識を失った訳ではなく確かに眠気を感じていた。

どういうことなのか。

本は頼りにできない。自分で考えるしかない。

「いや、それは今考えたところでわからないか…」

ベッドから降りまた扉の奥に向けて目を瞑りながら手をかざす。

アイリスは昨日眠ってしまった直前に視覚、聴覚、嗅覚を飛ばすその感覚を掴んでいた。

目を瞑っているため何も見えないが微かに土の香りがした。

これまで石造りの部屋からそんな匂いは1度もなかった。

ゆっくりと目を開ける。

「!!」

石造りの部屋なんかじゃない。

まるで地下を掘り進めたかのような洞窟が広がっていた。

横脇には松明で火が灯っている。

しかし本物の火では無い。おそらく魔法だろう。

視線を動かし辺り一帯見てみるが特に何も…。

いやなにかある。

松明がそこそこの高さから光を照らしているので見えづらかったが洞窟の隅の方に白い物体。

いくつか細い棒状のものと人の頭位の大きさの塊。

その塊は上半分に大きな穴が左右2つにあり、その下の塊の中央部分には小さな穴がふたつ。

下半分は棒状のもので埋もれてよく見えないが、見える部分だけでもその白い塊はそれこそ本当に人の頭のような…。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

アイリスは慌てて目を飛ばす魔法を停止した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る