第18話 大事件っつ! Re: 張り紙かと思ったら人生の教訓
昼の配達の合間に、ふらっと立ち寄ったドラッグストア。喉も乾いたし、トイレも借りておくかと奥へ進むと、ドアに一枚の張り紙が貼られていた。
「小便器に大便をしないでください」
……。俺は数秒、その場で固まった。
張り紙ってのは注意喚起の最後の砦だ。つまり、ここにこう書かれるまでに、実際に「やったやつ」がいる。いや、やったやつが複数いる。だからこそ、こうして誰もが目にするドアの真ん中に、極太マジックで殴り書かれているわけだ。
「小便器に大便」――人間の尊厳を逆撫でするパワーワードである。俺の脳裏には、勝手に再現映像が浮かんでしまった。誰が、どんな状況でそんな蛮行に及んだのか。切羽詰まっていたのか、ただの愉快犯か。
それにしても、この張り紙を用意した店員さんの心境を思うと泣けてくる。きっと最初は「まさか…」と思ったに違いない。だが現実は非情で、掃除道具を片手に現場と対峙し、ついには筆を執ったのだ。
俺はしばらくドアの前で考え込んだ。人の人生、何が大事件になるかわからない。俺の場合は、25年連れ添った妻に「もう無理」と言われたことだった。離婚届にハンコを押したあの日は、まさに俺の「大便器」だったのかもしれない。
だが、あの大事件を経て俺は今こうして自由だ。ウーバーで街を駆け、くだらない張り紙に立ち止まって笑っていられる。そう思うと、あの張り紙すら人生のスパイスに見えてくる。
トイレを済ませて外に出ると、やけに風が気持ちよかった。俺は小声でつぶやいた。
「大事件は、紙一重っつ!」
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