第42話 知らない場所

 休日。


 珍しく予定のない朝だった。


 窓の外。


 春の空。


 白い月。


 そして机の上。


 小さな銀色の月のキーホルダー。


 小夜はぼんやりそれを見つめていた。


 返した方がいい。


 落とし物なんだから。


 そう思う。


 ……思うのに。


「……返す相手、知らないし」


 小さく呟く。


 知らない人。


 歩道橋の人。


 名前も知らない。


 顔も知らない。


 何も知らない。


 なのに。


 最近は考えることが増えていた。


 その時。


 ざ。


 耳の奥。


 小さなノイズ。


 そして。


 視界が揺れた。


「……え」


 知らない景色。


 夜。


 青い光。


 静かな風。


 遠く。


 闇の中に浮かぶ、小さな青い星。


 何故か。


 どうしてか。


 そこから目が離せなかった。


 そして。


 誰かの声。


『……大丈夫』


 静かな声。


『待ってるから』


 優しい声。


『だから――』


 ざ。


 ノイズ。


 届かない。


 聞こえない。


「……っ!」


 小夜は反射的に目を閉じた。


 次の瞬間。


 元の部屋。


 机。


 春の朝。


 静かな空気。


「……何、今の」


 分からない。


 分からないけど。


 胸の奥が、少しだけ苦しかった。


 泣きそうなほど優しい声だった。


 そして何故か。


 あの青い星を、


 ずっと見ていたかった気がした。


 窓の外。


 白い月が、


 静かにそこに浮かんでいた

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