潮の匂いがする港町。長いようで、振り返れば一瞬で過ぎてしまう夏休み。
本作には、「ひと夏の思い出」という言葉から想像するあの独特のきらめきが、物語のあちこちに散りばめられています。
魅力的なのは、恋愛だけを一直線に描くのではなく、家族との賑やかな時間や、気心の知れた者同士の軽妙なやり取り、土地そのものが持つ空気まで含めて「夏」を描いているところ。
登場人物たちの会話には愛嬌があり、思わず笑ってしまう場面も多い。それでいて、ふとした瞬間に胸をよぎる感情には、夏の夕暮れのような淡い切なさがあります。
そして、穏やかな日常の向こうには、どこか現実だけでは説明しきれない気配も漂っています。
海、恋、家族、そして少しだけ不思議なもの。
それぞれが自然に溶け合うことで、ただ甘いだけではない、この作品ならではの夏の色が生まれています。
人はきっと、夏そのものを覚えているのではなく、その夏に笑った人や、胸が高鳴った瞬間や、忘れたくない景色を覚えているのでしょう。
読み終えたあと、自分にもかつてあった「ひと夏」を少し思い出したくなる。
眩しく、賑やかで、どこか儚い。
夏の海のような青春恋愛物語です。
私もこんな恋がしたい。