第18話「集める者」

異能を持つ男がにやりと笑った。


「ギルドマスター?こんなスラムに?はっ,笑わせる。」


男が,仲間に,顎で合図した。


「やれ。邪魔者は消せ。」


二人の男が,こちらへ突進してくる。


手には錆びたナイフ。


「ガズ。」


「おう。」


ガズが,前に出た。


一人目の男が,ナイフを,振りかざす。


「死ねやっ!」


ガズは,避けない。


その腕を,無造作に,掴んだ。


「がっ……!?」


男が,目を見開く。


万力のような握力に,腕が,みしみしと鳴る。


「軽いな。」


ガズが,男を,片手で持ち上げた。


そのまま,地面に,叩きつける。


ドゴォッ。


「ぎゃあっ!」


男が,悲鳴を上げて,動かなくなった。


二人目が,怯んで,足を止める。


その隙に,リィナが,動いた。


地を蹴る。


ヒュンッ。


小さな体が,風のように,懐へ滑り込む。


「ひっ……!」


短剣の柄で,男の鳩尾を,突いた。


ドンッ。


「がはっ……!」


男が,膝から,崩れ落ちた。


ばたっ。


——あっという間だった。


異能の男の,手下二人が,地に伏した。


---


「……ほう。」


異能の男が,少女から,手を離した。


少女が,地面に,尻もちをつく。


「リィナ。」


「うん。」


リィナが素早く,少女を俺たちの後ろへ連れていった。


これで,少女は,安全だ。


残るは,異能の男,一人。


「やるじゃねえか。雑魚どもとは格が違う。」


男が,両手を,広げた。


その瞬間。


俺の左腕がすうっと冷えた。


テンの,感覚。


——来る。


「散れ!」


俺の声と同時に,男の足元から無数の石の槍が突き出した。


ズダダダッ。


地面そのものが凶器に変わる。


俺たちは飛び退いた。


一瞬でも遅れれば串刺しだった。


「土の,操作か。」


エルが,眉を,ひそめる。


「面白いだろ?俺の異能はな,触れた地面を,自在に操れる。」


男が,にたりと笑った。


「このスラムの地面は,全部,俺の武器だ。逃げ場はねえぞ。」


地面が,波打つ。


足場が崩れる。


立っているだけで精一杯だった。


ガズが舌打ちする。


「ちっ……足場が,定まらん。」


その瞬間,ガズの足元から,石の槍が突き出した。


ズダッ。


「ぐっ……!」


ガズは咄嗟に,腕を硬化させて槍を受けた。


ガキィンッ。


石の槍が砕け散る。


「硬い皮膚だな。だが,いつまでもつかな?」


男が,嗤った。


地面のあちこちから,次々と石の槍が突き出す。


ズダダダダッ。


俺たちは必死に躱し続けた。


一本がリィナの頬をかすめる。


「きゃっ……!」


「リィナ!」


「だいじょうぶ……かすっただけ。」


だが,このままではいずれ捕らえられる。


「シン,これは厄介ね。」


「ああ。地面にいる限り,奴が有利だ。」


ならば——地面から離れればいい。


「エル。」


「言われなくても。」


エルが,俺の意図を察した。


右手を自分の足元に向ける。


「重力よ——軽く!」


エルの体が,ふわりと宙に浮いた。


——自分を軽くして,跳躍する。


エルの新しい使い方だった。


宙に舞ったエルが,上空から男を見下ろす。


「下にいるあなたが,不利よ。」


エルが今度は,男の足元に重力をかけた。


ズンッ。


「ぐっ……!?」


男の足が,地面に,めり込む。


動きが止まった。


「シン!今よ!」


「ああ!」


俺は,地を蹴った。


左腕に,意識を,集中する。


ラン。そして,コット。


二つの力を重ねる。


「——はあっ!」


一歩で,男の懐に,飛び込んだ。


無限の膂力を乗せた拳を,叩き込む。


ドガッ。


「があっ……!」


男が,吹き飛んだ。


崩れた壁に激突する。


ズドンッ。


土埃が舞い上がった。


---


だが——男は,まだ,立ち上がった。


口から血を流しながら,それでも笑っている。


「……効くじゃねえか。だが,まだだ。」


男が,両手を,地面につけた。


「これで,終わりだ。」


地面全体が,震え始めた。


ゴゴゴゴ……。


スラムの,瓦礫が,浮き上がる。


無数の石の塊。


それが一斉に,俺たちめがけて飛んできた。


「させない。」


俺は左腕に,三つ目の力を込めた。


ミズ。完全隠匿。


いや——違う。


とっさに,閃いたのは,別の使い方だった。


完全隠匿は,気配を消す,スキル。


ならば——一瞬だけ,自分の姿そのものを,消せないか。


「——っ!」


俺の体が,かき消えた。


飛来する石が,何もない空間を,通り抜ける。


その,刹那。


俺は男の背後に回り込んでいた。


「なっ……どこに——」


「ここだ。」


剣を,振り下ろす。


峰打ち。


ガッ。


「ぐはっ……!」


男が,白目を剥いて,崩れ落ちた。


どさり。


——気を,失った。


殺してはいない。


聞きたいことが,山ほど,あるからだ。


「……今のは。」エルが,目を見開く。「姿が,消えた。」


「完全隠匿の,応用だ。気配だけじゃなく,姿も一瞬なら消せるらしい。」


自分でも,驚いていた。


追い詰められた,その時に。


新しい力の,使い方が,生まれる。


——ミズ。お前の力は,まだ,奥が深いな。


俺は,心の中で,そう呟いた。


---


静寂が,戻った。


倒れた男たちを見回す。


リィナが守っていた少女が,おずおずと前に出てきた。


歳は十二くらい。


痩せているが,その目には,強い光があった。


「……あの。」


少女が,俺を,見上げる。


「助けて,くれたんですか。あたしを。」


「ああ。」


「どうして。あたしなんか助けても,何の得にも……」


「得とか損とか,関係ない。」


俺はしゃがんで,少女と目線を合わせた。


「お前には,才能がある。Aランクのな。それを,こんな奴らに奪わせるわけにはいかない。」


少女の目が,大きく,見開かれた。


「……Aランク?あたしが?」


「ああ。識別師でも分かる。お前は特別だ。」


少女の,唇が,震えた。


「あたし……ずっと,役立たずって,言われてて。だから,攫われても,しょうがないって……」


「しょうがなくない。」


俺は,はっきりと,言った。


「お前の人生は,お前のものだ。誰にも奪わせない。」


少女の目から,涙が,こぼれた。


ぽろぽろと頬を伝う。


ずっと,我慢していたものが,あふれ出すように。


「名前は。」


俺が聞くと,少女は涙を拭って答えた。


「……ミィナ。」


「ミィナ。いい名前だ。」


俺は,立ち上がった。


「行くところは,あるか。」


少女——ミィナが,首を,横に振った。


「親は……いません。一人です。」


「なら,来い。」


俺は,手を,差し出した。


「うちのギルドに来い。お前の力を,正しく,使える場所だ。」


ミィナが,俺の手を,見つめた。


そして,おそるおそるその手を握った。


小さくて冷たい手だった。


だが,その奥に確かな温もりがあった。


---


その時だった。


倒れていたはずの異能の男が,かすかに呻いた。


「……無駄だ。」


俺は,振り返った。


男が,血だらけの顔で,笑っていた。


「お前がその娘を助けても……『集める者』は諦めねえ。俺たちの,後ろには——」


男の言葉が,途切れた。


その,首筋に。


いつの間にか,一本の細い針が刺さっていた。


「……え。」


男の体が,びくりと,痙攣する。


そして,動かなくなった。


完全に事切れていた。


「——っ!?」


俺は咄嗟に,周囲を見回した。


どこから,攻撃が。


テンの感覚にすら,引っかからなかった。


その時,路地の屋根の上に影が見えた。


フードを,深く被った,人物。


——あの時の,追跡者。


「口を,封じたのか。」


俺は,剣を,構えた。


だが,フードの人物は何もせず,ただこちらを見下ろしていた。


そして,かすかに口を開いた。


「……同じ,匂いがする。」


低い,囁き。


「お前も,捨てられた側の,人間だな。」


その言葉に,俺の心臓が跳ねた。


何を言っている。


問い返す間もなかった。


フードの人物は,ふっと,姿を消した。


まるで,最初から,いなかったかのように。


——口を,封じられた。


俺は,事切れた男を見下ろした。


あの男から,『集める者』の正体を聞き出すつもりだった。


組織のこと。アジトの場所。攫われた子供たちの行方。


聞きたいことは,山ほどあった。


だから,殺さずに気絶させたのだ。


だが——それすら,読まれていた。


あのフードの人物は,男が何かを語る前に,口を封じるために現れた。


俺は,奥歯を噛んだ。


みすみす,唯一の情報源を奪われた。


後に残されたのは,物言わぬ骸と——


俺の胸に刻まれた,あの言葉だけだった。


——捨てられた側の,人間。


そいつらは,一体,何者なんだ。


---


**第18話「集める者」 了**


---


【後書き】


お読みいただきありがとうございます。


ロウムでの最初の戦い。土を操る異能の男を退け,Aランクの少女ミィナを救いました。

しかし,口を封じに現れた謎のフードの人物。「お前も捨てられた側の人間だ」——その言葉の意味とは。


次話,ミィナをギルドに迎え,『集める者』の正体に,さらに迫ります。


ブックマーク・評価,励みになります。

明日も更新します。


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【ギルドメンバー ステータス】

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◆ シン(ギルドマスター)

スキル:ギルドマスター(ランク外・世界唯一)※未識別

武器:片手剣

実力レベル:Lv.51

継承スキル:

 ・完全隠匿(Sランク)Lv.10 / ミズ

  ※新応用:一瞬だけ自分の姿を消す

 ・無限膂力(Sランク)Lv.10 / コット

 ・絶対加速(Sランク)Lv.10 / ラン

 ・死期感知(Sランク)Lv.8 / テン

 ・不死再生(Sランク)Lv.8 / ドウ


◆ ガズ(前衛・元傭兵)

スキル:鋼の肉体(Bランク)※識別済み

武器:素手(メイン)+両手斧(強敵用)

実力レベル:Lv.43 / 上限:Lv.75


◆ エル(魔法士・元貴族)

スキル:重力魔法(Aランク)※識別済み

武器:レイピア(サブ)

実力レベル:Lv.38 / 上限:Lv.90

 ※新技:自分を軽くして跳躍


◆ リィナ(斥候見習い)

スキル:時間停止(Sランク)※未覚醒

武器:短剣(両手持ち)

実力レベル:Lv.18 / 上限:Lv.100


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【新たな出会い】

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◆ ミィナ(新加入予定)

スキル:Aランク ※スキル名非公開

武器:未定

実力レベル:Lv.1 / 上限:Lv.90

※『集める者』に攫われかけていたところを救出


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【支部メンバー(灰の区画)】

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マル:絆(S)/ ケン:不倒(A)/ ユア:慈愛(S)

タク:剣才(A)/ リン:看破(C)/ ヒナ:鼓舞(B)

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