第32話 心を持たないラジコン

 ケンジの部屋は、相変わらず静かだった。

 高層タワーマンションの一室。夜景を見下ろす大きな窓。生活感の薄い家具。整然と置かれた本と資料。高価な空間であるはずなのに、そこにはどこか冷たい印象があった。

 その部屋で、マキバダイスケはミヤタ・アーノルド・ケンジと向かい合っていた。傍らにはシミズミサキがいる。

 ミサキは緊張した面持ちでケンジを睨んでいた。ケンジはソファに腰かけ、いつものように穏やかな微笑を浮かべている。美しい顔。整った姿勢。落ち着いた声。

 だが、その奥に何があるのか、マキバには相変わらず聞こえなかった。心の声が、聞こえない。それは不気味だった。

「結果はどうでしたか?」

 ケンジが尋ねた。

「期限は今日までです。トンダさんとマチヤさんの不倫疑惑。そしてマチヤさんが『怪物』であるかどうか」

 彼は少し楽しそうに目を細めた。

「悪魔の証明は、できましたか?」

 マキバは静かに息を吸った。

「できたよ」

 ケンジの表情が、ほんのわずかに動いた。

 ミサキも横でマキバを見る。彼女は、マキバが何を言うのか聞いていない。トンダの家に侵入し、写真を見つけ、トンダとキョウコから事情を聞いた。それでも、ミサキ自身はまだ納得しきっていなかった。

 トンダとマチヤの不倫疑惑も、マチヤの怪物疑惑も、完全に消えたわけではない。だが、マキバは「悪魔の証明ができた」と言った。

 ケンジは、ゆっくりと背もたれに身を預けた。

「聞かせてください」

「その前に」

 マキバは言った。

「ケンジくんがキョウコさんに、トンダさんとマチヤさんの不倫疑惑を持ちかけたんだよね」

 ケンジは瞬きした。ミサキが身構える。

「それを、キョウコさん自身から聞いた。トンダさんも把握している」

 部屋に沈黙が落ちた。

 ケンジは、しばらくマキバを見ていた。そして、あっさり頷いた。

「はい。その通りです」

 ミサキは目を見開いた。

「認めるの?」

「隠しても仕方ありませんから」

「じゃあ、やっぱりアンタが全部仕組んだのね」

「全部ではありません」

 ケンジは穏やかに答えた。

「僕がきっかけを作ったのは事実です。でも、キョウコさんが乗ったのも、ミサキさんが暴走したのも、マキバさんが動いたのも、それぞれの意志です」

「責任逃れみたいな言い方ね」

「責任は取りますよ」

「どうやって?」

「必要なら、死んで」

 ミサキは眉をひそめた。

「そういうところが気持ち悪いのよ」

 ケンジは微笑んだままだった。マキバは彼を見つめた。

「本当は、トンダさんもマチヤさんもキョウコさんも、目的じゃないんだよね」

 ケンジの目が、少しだけ細くなる。マキバは続けた。

「目的は僕だ」

 ミサキが驚いてマキバを見た。

「ダイちゃん?」

 ケンジは、今度はすぐには答えなかった。その沈黙が、肯定だった。

「……驚かないんですね」

「何となく」

 マキバは静かに言った。

「ケンジくんの意識が、やたら僕に向いている気がしたから」

「なるほど……」

 ケンジはしばらくマキバを見た後、唐突に言った。

「僕の銀髪は地毛です」

 ミサキが眉を寄せる。

「急に何?」

「説明の前置きです」

 ケンジは自分の髪を一房つまんだ。

「特殊能力者の一部には、特異体質が現れることがあります。髪の色、目の形、皮膚の性質、体温、代謝、感覚器官。通常の人間とは異なる特徴です」

「それがどうしたの?」

「マチヤさんの目をよく見たことがありますか?」

 ケンジはマキバに聞いた。

「人と違うところがあるのに、気づきませんでしたか?」

 マキバは少し考えた。マチヤの顔。無邪気な笑顔。子どものような表情。そして、彼女の瞳。

「……星?」

 ケンジは満足そうに頷いた。

「その通りです」

 彼は立ち上がり、棚から一冊のファイルを取り出した。

「マチヤさんの瞳には星があります。生前のキョウコさんも、瞳に星がありました」

 ミサキが息を呑む。

「その星のように輝く目は『スターアイズ』と言います。一部の特殊能力者に現れる特異体質です」

 ケンジは説明を続ける。

「『スターアイズ』を持つ能力者は、他の能力者よりも膨大なエネルギーを持ち、なおかつ出力も圧倒的です」

 マキバは思い出す。キョウコの現実改変。思ったことを具現化する、ほとんど反則のような能力。そして、マチヤの全てを消滅させる力。確かに、どちらも圧倒的だった。

「では、トンダさんとカモイさんの目をきちんと見たことがありますか?」

 ケンジが続ける。

「瞳孔が開き切っているでしょう?」

 ミサキが呟く。

「目が死んでるだけじゃなかったの……?」

「そう見えるのも無理はありません」

 ケンジは少し笑った。

「あれは『死眼』と呼ばれます。エネルギー消費を限りなくゼロに近づけ、なおかつ特殊能力による攻撃に対して異常な耐性がある」

 マキバはトンダとカモイを思い浮かべた。トンダの底の見えない目。カモイの目つきの悪さ。単純に死んだ魚のような目をしているだけだと思っていた。だが、それも特異体質だったのだ。

「強い特殊能力者をいかに管理し、または排除するか」

 ケンジの声が少しだけ低くなる。

「その方法を探るため、僕は大学で特殊能力者に関するあらゆる研究をしてきました。その中でも特に研究したのが『特異体質』です」

 彼はファイルをテーブルに置いた。そこには様々な目の図、能力者の分類表、写真、論文のコピーが挟まっていた。

「強い特殊能力者は、大抵何らかの特異体質があります。スターアイズ、死眼、波動髪、逆血、空洞骨、超筋肉、いろいろあります。そして、その中でも、最も稀有と言われているのが――」

 ケンジは、マキバの目をまっすぐ見た。

「『クリスタルアイズ』」

 ミサキはハッとしてマキバを見た。マキバの瞳。水晶のように透き通った、不思議な目。夕日を受ければ金色に揺れ、暗闇では淡く光を拾うような瞳。

「……マキバさんの瞳です」

 ケンジは言った。マキバは黙っていた。ミサキは驚きを隠せない。

「クリスタルアイズ……」

「『クリスタルアイズ』を持つ能力者は滅多にいない。というより、まともな記録がありません。写真すらない。眉唾な証言ばかりです。僕も単なる都市伝説だと思っていました」

 ケンジはマキバから目を離さない。

「マキバさん、アナタを見つけるまでは……」

「僕にそんなすごい力はないよ」

「そうかもしれません」

 ケンジはあっさり認めた。

「クリスタルアイズを持つ者にどんな特徴があるのか、はっきりしたことはわかっていません。ただ、あらゆる証言で共通している点があります」

「何?」

「全知全能」

 ケンジは、その言葉を静かに置いた。

「すべてを見通すことができるらしい。まさに『神の視座』です」

「そんなわけない」

 マキバは即座に否定した。

「僕に見えるのは心の声くらいだよ。それだって聞こえないこともあるし、何もかもわかるわけじゃない」

「でも、あなたは今まで誰も傷つけずに事件を解決してきた」

「それは……」

「その方法を知っているからです」

 ケンジは一歩踏み込んだ。

「つまり、攻略本を片手にゲームしているようなものです」

 マキバの表情が少し変わった。それは、彼にとって不快な表現だった。

「僕はゲームをしているわけじゃない」

「比喩です」

「人の苦しみを聞いて、何とかしたいと思っているだけだ」

「それも、クリスタルアイズによって導かれた行動かもしれない」

「違う」

 マキバははっきり言った。

「僕は、自分で考えてる」

 ケンジは小さく笑った。

「確かに、ただ単に頭が切れて、勘が鋭いだけかもしれない。だからこそ確かめたいのです」

「確かめる?」

「僕がふっかけた今回の面倒事を、クリスタルアイズでどのように対処するのか」

 ケンジの目は真剣だった。

「クリスタルアイズは実在するのか。実在するのであれば、僕の理想とする平和を成し得るための攻略方法を教えてもらいたい」

 ミサキが立ち上がった。

「つまり、自分の興味関心のために、私たちを散々振り回したってこと?」

 怒りを隠さない声だった。

「冗談じゃないわ。仮にその『クリスタルアイズ』とやらがダイちゃんにあったとしても、アンタに協力しないわよ」

「ミサキさん、落ち着いて」

 マキバが止める。

「……本題に入ろうか」

 マキバはケンジを見る。

「悪魔の証明について」

 ケンジは少しだけ姿勢を正した。

「聞きましょう」

「まず、トンダさんとマチヤさんは不倫していない」

「根拠は?」

「キョウコさんとトンダさんは、マチヤさんのことを本当の家族のように思っている」

 ケンジは無表情で聞いている。

「だから、トンダさんとマチヤさんが不倫するなんて、キョウコさんは微塵も思っていない。トンダさんも、キョウコさんがマチヤさんを殺すなんて微塵も思っていない」

「それは信頼の話ですね」

「うん」

「物的証拠ではない」

「そうだね」

「では、マチヤさんが『怪物』ではない証拠は?」

 マキバは少しだけ目を伏せた。そして言った。

「『怪物』は死んだ」

 ミサキがマキバを見る。

「今いるのは、マチヤユミという女性だけだ」

 ケンジの目が細くなる。

「意味がわかりません」

「数年前、街を消しかけた存在。それは確かに『怪物』だったのかもしれない」

 マキバは続ける。

「でも、今の彼女は違う。少なくとも、トンダさんも、キョウコさんも、カモイさんも、僕たちも、彼女を怪物だと思っていない」

「それは個々人の認識に過ぎません」

 ケンジは呆れたように言った。

「物的証拠にならない」

「でも、君たち特保のカテゴリだって同じだよ」

 マキバは静かに返した。

「誰かが『危険』だと決める。誰かが『怪物』だと名づける。誰かが『殺していい』と分類する。その判断も、結局は人間の認識だ」

 ケンジは黙った。

「君はマチヤさんを『怪物』だと言う。でも、彼女の名前はマチヤユミだ。お菓子が好きで、仕事をサボりがちで、みんなを困らせるけど、マチヤさんはマチヤさんだ」

 マキバの声は穏やかだった。

「僕たちが彼女を『怪物』として扱わない限り、彼女はもう怪物じゃない」

「暴走すれば?」

「止める」

「止められなければ?」

「止める方法を探す」

「多くの人が死んだら?」

「そうならないようにする」

「甘いですね」

「甘くてもいい」

 マキバはケンジをまっすぐ見た。

「危険だから殺す、強すぎるから消す。その考え方を認めたら、君が嫌っているトンダさんたちと何も変わらない」

 ケンジはしばらく黙っていた。そして、微笑んだ。

「今の素晴らしい論破も、『クリスタルアイズ』が教えてくれたんですか?」

「いや」

 マキバは即座に言った。

「僕自身の言葉だよ」

 ケンジの笑みが少しだけ止まる。

「僕は自分で考えて、自分の言葉を話す」

 マキバは続けた。

「君と違って」

 ケンジは、きょとんとした。初めて、表情が崩れた。

「……僕と違って?」

「うん」

「……どういう意味ですか?」

「僕は、ずっと疑問だった」

 マキバは彼を見る。

「なぜ君から心の声が聞こえないのか」

 ケンジは黙っている。

「今、ようやくわかった気がする」

 マキバの声は、優しかった。だが、その言葉は鋭かった。

「ケンジくんには……心がない」

 部屋の空気が止まった。ミサキですら何も言えなかった。

 ケンジは表情を変えない。いや、変えられなかった。

 マキバは続ける。

「君は、ご両親や養成機関といった大人たちから植え付けられた価値観に沿って生きてきた」

「……」

「君が自分の考えのように話している平和論も、ベースとなる価値観を微調整しているだけだ」

 ケンジの指がわずかに動いた。

「君は今まで、自分の心で考えたことがない」

「……」

 ケンジは反論しようとした。だが、言葉が出なかった。怒りも湧かない。否定もできない。ただ、頭の中で何かが止まっていた。マキバの言葉が、深いところへ届いてしまったからだ。

 キョウコという圧倒的強者との出会いによって、価値観が変わったと思っていた。でも、違った。「自分は世界を管理統制する側である」、その根本は壊れていなかった。弱者を管理する側から、強者を削る側へ。形を変えただけ。自分が世界を設計し、分類し、裁く側であるという前提は、何も変わっていない。大人たちに植え付けられた価値観に沿って、少し角度を変えただけだった。

 特殊能力者の研究も、本当に自分がしたかったのか。わからない。クリスタルアイズに興味を持ったのも、本当に自分の好奇心だったのか。わからない。

 平和のため。秩序のため。管理のため。その言葉を使えば、自分の行動は説明できた。

 でも、自分自身の心はどこにあったのか。ケンジは、初めてそこに触れた。

「口が悪いけど……」

 マキバは言った。

「要はガキなんだよ、君は」

 ケンジは瞬きもできない。

「いや、ガキですらない。ロボットだ」

 さらに言葉が刺さる。

「心を持たないラジコンだ」

 ミサキが少しだけ顔をしかめた。だが、止めなかった。マキバは続けた。

「ケンジくん、本当のことを教えてほしい」

「……本当のこと?」

「なぜ今回、僕たちを巻き込んだ?」

「それは……」

「平和のため?研究のため?クリスタルアイズを確かめるため?」

 マキバは静かに首を振った。

「そうじゃなくて、君の本心はどうなんだ?」

 ケンジは答えられなかった。

「今すぐじゃなくていい」

 マキバの声が柔らかくなる。

「よく考えるんだ。自分の心を見つめるんだ」

 その言葉で、ケンジの中に、いくつもの記憶がよみがえった。

 キョウコを初めて見た時。彼は心の高鳴りを感じた。美しい。強い。眩しい。その感覚を、彼は不要なノイズだと思った。だから無視した。キョウコに対する感情を、「圧倒的な能力者として強い関心がある」と解釈した。

 メディアを通じてキョウコの死を知った時。胸の奥が空洞になった。深い喪失感があった。けれど彼は、それを「重要な研究対象の損失」と解釈した。

 マキバを初めて知った時。誰も傷つけずに事件を解決する青年。相手を上から管理するのではなく、同じ目線に立って、話を聞き、救おうとする存在。彼は強い好奇心を抱いた。いや、本当は憧れだった。自分にはできないことをしている人間への憧れ。だが、それもノイズとして処理した。「クリスタルアイズの持ち主として関心がある」と解釈した。

 マキバと特殊対策室について調べ、キョウコがぬいぐるみとして生きていることを知った時。心が高鳴った。生きていた。また会える。だが、それすら彼は「利用できる」と解釈した。

 自分の心を、自分で何度も別の言葉に置き換えてきた。そうしなければならないと思っていた。なぜなら、彼は特別で、理性的で、世界を管理する側の人間だから。心など、ノイズに過ぎないから。

「……キョウコさんに」

 ケンジはぽつりと言った。声が小さい。

「会いたかった」

 マキバもミサキも黙って聞いた。

「マキバさんに……憧れがあった」

 ケンジの表情は、迷子の子どものようだった。

「だから……」

 言葉が続かない。

 マキバは少し笑った。

「普通に会えばいいでしょ」

 ケンジが顔を上げる。その表情には、いつもの芝居がかった余裕はなかった。ただ戸惑っている少年だった。

「まあ、憧れられるほどの人間じゃないけど……」

 マキバは手を差し出した。

「改めて。マキバダイスケです。よろしく」

 ケンジは、差し出された手を見つめた。しばらく躊躇していた。それから、おずおずと手を伸ばす。そして握る。

「……ミヤタ・アーノルド・ケンジです」

 声は小さい。

「よろしく……お願いします」

 ミサキも笑顔で手を差し出した。

「シミズミサキ。よろしく!」

 ケンジは少しだけ顔を引きつらせた。

「あ、ミサキさんは結構です」

「何でよ!?」

「怖いので」

「失礼ね!」

 マキバは苦笑した。


 六月に入った。梅雨の季節になった。

 街路樹の下にはアジサイが咲き、紫や青の花が雨に濡れている。その日も、朝からしとしとと雨が降っていた。特殊対策室の事務所では、いつも通り騒がしい一日が始まろうとしていた。

 そこへ、突然新人が入った。銀髪の美少年。ミヤタ・アーノルド・ケンジ。

 彼は事務所の中央に立ち、丁寧に頭を下げた。

「ミヤタ・アーノルド・ケンジです

 いつもの芝居がかった口調ではなく、少し硬い、真面目な声だった。

「未熟な部分も多いですが、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします」

 マチヤが真っ先に反応した

「ケンジくん!よろしくー!」

 モテギも元気よく立ち上がる。

「私の指導はスパルタですよ!覚悟してください!」

 カモイ、カマタ、ヤマナシ、ナガヤマは唖然としていた。

 カマタが最初に口を開いた。

「いや、どういうことだよ?」

 カモイも叫ぶ。

「なんで特保のガキがウチに!?」

 ケンジは静かに答えた。

「特保は辞めました」

「軽いわね!」

 トンダはいつもの穏やかな顔で言った。

「ケンジくんは能力、経歴ともに十分すぎますし、マキバくんとミサキさんの推薦もありましたので」

 キョウコがデスクの上で跳ねる。

「アンタたちよりは遥かに優秀よー!」

「うるせえ悪霊!」

 カモイが怒鳴る。

 ヤマナシはマキバとミサキを見た。

「マキバ、ミサキ。どういう風の吹き回しだよ……?」

 ミサキは腕を組んだ。

「超エリートをヘッドハンティングしただけよ」

 マキバは少し苦笑した。

「特保からこんな小さな事務所に転職して、キャリアが心配だけどね」

 トンダが眼鏡を押し上げる。

「小さな事務所で悪かったですね」

「あ、いや、そういう意味じゃ……」

 ケンジは静かに首を横に振った。

「いえ、僕にとってはキャリアアップですよ」

 そして、少し考えてから言い直す。

「いや、違う」

 全員が彼を見る。

「ここから僕の本当のキャリアが、人生が始まります」

 ケンジの声は、以前より少しだけ不安定だった。だが、その分だけ人間らしかった。

「僕は今まで、何もかもわかったつもりでいました。でも本当は井の中の蛙で、何もわかっていませんでした」

 彼はまっすぐ前を見る。

「この職場で、自分が何を求め、何を望み、何を得たいのか、探していきたいと思います」

 カマタが鼻で笑った。

「おいおい、青臭いこと言うんじゃねえ。自分探しをしたいならインドにでも行ってろ」

「自分を失ってるカマタさんよりは立派です!」

 モテギがすかさず言った。カマタはショックを受けた。

「お前なんで最近オレに厳しいんだよ!?」

 事務所に笑いが起きる。

 ケンジは少し戸惑ったように、その笑いを見ていた。そして、ふとキョウコの方へ向き直る。

「ところで、キョウコさん」

「何ー?」

 ケンジは真剣な顔で言った。

「僕と結婚してくれませんか?」

「いいよー!」

 キョウコは即答した。

「おい」

 トンダの声が低く響いた。

 事務所にまた笑いが起きた。カモイは腹を抱えて笑い、マチヤは「結婚だー!」と喜び、モテギは「おめでとうございます!」と拍手し、ヤマナシは「いいのかよ」と呆れ、ナガヤマは「初日から濃いですね……」と呟いた。

 マキバは、その光景を見ていた。

 窓の外では、雨がしとしと降っている。梅雨の湿った空気の中、特殊対策室にまた一人、厄介で奇妙な仲間が増えた。

 ミヤタ・アーノルド・ケンジ。世界を管理しようとした少年。自分の心を知らなかった少年。彼がここで何を見つけるのか。マキバは、少し楽しみだと思った。

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