本木玲奈

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『話したことないや』

『んー、普通に美人だと思うぜ?

でも、なんかツンツンしてて可愛くねぇよな』

『可愛いっていうよりは、かっこいい感じ』

『なんかいっつも一人でいるけど、

別にそれを気にして無さそう。

一匹狼って感じだね』

『うんうん!私に友達なんかいらないのってね』

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昨日は1日で、香織ちゃん、栞ちゃん、菫ちゃん、住田さんの4人がいなくなってしまった。

これで、私たちの残りの人数は18人…。

日に日に人が減っていく。

こんな争いを見ているくらいなら、死んだ方がマシなんじゃないかとも思うようになった。

だって、疲れて何もしたくないはずなのに…。


「ナイフの犯人さ、アイツが怪しいと思うんだよな」


昨日結局出てこなかったナイフを持ち込んだ犯人を、今でも探してる。

恨みあいは簡単に始まる。

昨日ゲームが終わってから、みんなの目が疑いの目になっていた。

誰かがこのゲームを早く終わらすために、よからぬ事を企んでいるかもしれない。

そう思うと怖くて眠れなくて、周りの人と距離を取るようになる。

信じられるのは自分だけ。

こうやってまた、始まる。

人間の本心なんて、知らない方が幸せだ。

目の前で仲間を失った私は、もう何かを話す元気もなかった。

次は自分が選ばれたって、別にいい。

いっその事、このまま眠って死ねたらいいのに。

どんどんそんな思考になっていく。

今朝は出されたご飯にも手をつけないまま、私は床に座り込んでいた。

すると。


『ゲームヲカイシシマス』


また恐怖のゲームが始まった。

その音を聞いただけで吐き気がする。


「うえ…っ」


それは、私だけではなかったらしい。

周りには、ご飯に手をつけないでぐったりしている人がほとんどだった。

極わずか、ご飯を残さず食べて平然とした顔をしている人もいたけれど、そんな人達を避難する気力すら残っていない。


『ダイ4ゲーム、3ニンヲランダムニエラビマス』


このままじゃ、ゲームで殺されるよりも、精神的にも体力的にも追い詰められて死ぬ方が先かもしれない。

そんなことを考えていると、画面は回り始めた。

何人ものクラスメイトたちの名前がルーレットのように表示され、運命の瞬間が来る。

バッと画面が止まり、名前が選択されているのを生気のない目で見ると、そこに書いてあったのは。


【A】若宮美智子

【B】星奈仁美

【センタク者】本木玲奈


自分の名前だった。

ああ…私がいる。

そうか…ついに選ばれてしまったんだ。


『シテイバショニイドウシテクダサイ』


動かないからだを必死に動かし立ち上がると、美和ちゃんが心配そうな顔でこっちを見て声を漏らした。


「仁美…」


だけど、笑顔を返すことはできず、私はよたよたと歩きながら【B】と書かれた椅子に座った。

残りの2人が席につくのを確認すると、金属のベルトで体を固定された。

ーガシャン。

その瞬間、初めて味わう恐怖と不安に押しつぶされそうになった。

これがみんなの味わってきたものなんだ…。

…怖いっ。

ここの椅子に座るまでは、私を選んでくれてもいいと思っていたのに。

ベルトに拘束された瞬間、死にたくないという気持ちが生まれてしまう。

ただ、見ているだけとはまるで違う。

緊張と不安と恐怖。


『センタク者ハ、イマカラ1ジカンイナイニボタンヲオシテクタサイ』


そして、ゲームが始まった瞬間、私の体はガクガクと震え出した。

次は自分が、電流のようなものを浴びて死ぬかもしれない。

そう思うと、逃げ出したくて仕方なかった。

もうここに居たくない。

もうこんな絶望を味わいたくない。


「…っ」


私を殺して。

さっきまでそう思っていたはずなのに、違うことを叫びそうになる。

嫌だ、嫌だ。

死にたくないって体が叫ぶ。

気を抜くと、私だけは選ばないでと言ってしまいそうだった。


ゲームが始まってから10分間、誰も話さなかった。

そんな中、体を震わせてひたすら時が過ぎるのを待っていると、1番初めに口を開いたのは、Aに座っていたこのクラスの委員長、若宮さんだった。


「私を…選んでください…」


小さく、消え入りそうな声で言った言葉。

彼女は震えている。

だけど、私よりは確実に勇気があった。

いつも見えないところでクラスをまとめていた委員長。

もう1人の学級委員だった木禅くんとは正反対の性格で、声が小さく、みんなの前で何か言っても誰も聞いていない、ということが多かったけれど…。

掃除、勉強、クラス行事。

頼まれたことは何でもやってくれる、真面目な人だった。

きっと話すのがあまり得意ではなかったんだろう。

クラスではいつも一人だったけど、私も1度、用事があって委員会に出れないことがあった時、委員長が代わってくれた。

不器用だけど、一生懸命で優しい人。

私は委員長にそんな印象があった。


「私を選べば…恨む人だっていません。悲しむ人だっていません。だから…私を選んでください」


その言葉を聞いて、私の心臓がドクッと鳴った。

このままじゃ、ダメなんだ。

こうやって私は、いつも言おうか言わないか考えているうちに、目の前のことが終わってしまう。

口に出すことが怖くて、いつも止まってしまう。

だけど、それじゃダメなんだ。


「待って…!」


私も咄嗟に口を開くと、委員長はこっちを見た。


「委員長は、これからみんなをまとめることが出来ると思うの。クラスみんなのことを考えたら、私なんか必要じゃない。だから私のことをセンタクして欲しい」


声が震えた。

その言葉を口に出すのはとても怖かったけど、後悔することの方が今は恐ろしい。

自分が声をかけられなかったせいで、菫ちゃんが、住田さんが…栞ちゃんが、あんなことになってしまった。

もう同じ過ちを繰り返したくない。

恐怖に耐え、真剣な目でセンタク者の本木さんを見ると、彼女はクールには言い放った。


「アンタたち、馬鹿じゃないの」


本木玲奈ちゃん。

いつも学校では一人でいて、誰とも口を利かないような人。

私たちのグループの中では、『気取ってるよね』なんて静香ちゃんが言っていたけれど、本人はそんなこと、全く気にしていないみたいだった。

すごいと思った。

自分が悪口を言われていても、全然傷ついた顔をしないところ。

ひとりでも堂々と生きているところが、すごいと思った。

本木さんと話すと、いつも核心を突いたことを言われるから話すのは苦手だったけど、本木さんの生き方はなんだかかっこいいなって思っていた。

何があっても動じない、強い人。

こんな状況になった今だって、ほとんど表情が変わっていない。

この状況さえも、本木さんにとっては怖くないんだろうか…?

不安な表情を浮かべて彼女を見ると、本木さんは委員長を見て鋭い口調で言った。


「委員長。あんたはみんなのためとか言っておきながら、自分がこれ以上ここにいるのは耐えられないから、今ここで消えてしまおうと思っているだけ。一人じゃ心細いもんね」


そして、今度は私の方を見て言う。


「星奈さん。あんたは死にたくないって思ってるにも関わらず、委員長があんなことを言い出したから、自分も合わせてそうやって言っただけ。だって、クラスの人が見てるもんね」

「…っ」


いきなり言い出した本木さんの言葉に、私はドキリとする。

この状況で、そんなこと言うなんて…。

だけど、何も言い返すことはできなかった。

だって、その通りだったから。

もし、周りが見ていなかったら?

3人だけでゲームをしていたら?

私は自分を選んで欲しいなんて言っただろうか。

いや、きっと言えない。

私はいっつも弱くて、周りの反応が気になって仕方ないやつだから。

そして、本木さんは私たちをしっかりと見た。


「私を殺せば誰も恨まないから殺してくれ?ふざけないで。私の方がクラスに必要ない人間だから殺してくれ?笑わせないで。いい加減気づきなさいよ。誰かを選んでけ落とそうとするから恨みが生まれるの。人に順位を付けようとするから絶望が生まれるの。

このゲームは間違ってる。命の大切さが、人を殺すことでわかるはずがないでしょ?人の命が天秤にかけられることなんて、あってはならないの」


強い眼差しで言う本木さんに気付かされる。

どっちを殺すか、どっちが死ぬか…そうじゃない。

どうして私たちは普通にこのゲームを行っているんだろう。

こんなのは間違っている。

おかしいんだって気づいていたはずなのに、なぜゲームに従うんだろう。

それは、自分が死にたくないからだ。

怖いよ、死にたくないよ。

その恐怖が心までも支配していたことに今、気がついた。

そうだよ。

こんなゲームはおかしいよ。

命の大切さは、誰かを犠牲にしてわかるものではないんだ。

誰かの命を比べられるわけないんだ。


「だから私は、ボタンを押さない。絶対に」


クラスのみんなや、外からこのクラスの様子を見ている人に堂々とそう言える本木さんは、本当にかっこいい人だと思った。

だけど…、ボタンを押さなかったら…。

死ぬのは本木さんになる。

そんなふうに自分の死を受け入れることなんて、私にはできない。

こんなに正しいと思えることを聞いた今でさえ、しっかりと意識を持たなければ、『私だけは選ばないで』と口に出してしまいそうなのに。

元々さんのように、センタク者がボタンを押さないでいることなんて、普通の意思じゃ無理だ。

だって人は、怖がりだから。

弱いから。

自分がこの世から居なくなっちゃうなんて、耐えられないよ…。


そのまま、教室内には沈黙が流れ続けた。

時間が経って欲しくない。

そう強く思っても、時間は刻々と過ぎていく。

私は焦って本木さんを見るけれど、彼女はずっと目をつぶったままだった。

残り時間はあと5分になった。

怖すぎて私の手が小刻みに震えを繰り返していた。

その時、委員長が小さな声で言った。


「本木さんは怖くないの…?」


今にも泣きそうな目をしている委員長だけど、こういう時、やっぱり的確な質問をしてくれる。

じっと本木さんを見つめると、彼女は笑ってこう言った。


「私だって人間なんだから、怖いに決まってんじゃない」


そう、だよね…。

少しホッとした自分がいた。


「だけど、今まで自分のポリシーは曲げないで生きてきた。間違ってることは、間違ってるって言ってきた。だから、最後まで全うしたい。じぶんというものをすててまで、間違ってる方に流されたくない。」


その力強い目に、彼女の意志の強さを感じる。

だけど、ボタンの近くに置かれている手が小さく震えているのがわかった。

怖くないわけないよね。

本木さんも普通の女の子なんだから。

死ぬのは誰しも怖いよね。

鼻の奥がジーンとして、目頭が熱くなってきた時、時計が目に入る。

あと1分…。

本木さんも残り時間を確認したみたいで、グッと手を握った。

本当にこれでいいのだろうか。

元々さんはこれで…。

あと30秒。

本木さんの手がピクリと動いたのが見えた。

後10秒。

その時の本木さんの行動を見て、私は言葉が出なかった。

ボタンの方へ行こうとする右手を、必死に左手で押えている。

わかってる。

怖いんだよ。

皆、死ぬのは怖いんだって。

自分の意思を曲げてしまいそうになる。

いつもかっこいい本木さんだって…いつ意思が変わってもおかしくない状態。

だけど。

ービーーー!

大きなブザーは鳴った。


『ボタンハセンタクサレマセンデシタ』


彼女の意志を押し通した結果となって。

機械の音が聞こえた時、本木さんは安心した顔をしていた。

ボタンを押さなかったことに安心している。

だけど、殺されてしまうのは。

本木さん…。

ゴクッと唾を飲んだ瞬間、


「待って本木さん!言いたいことがあるの…!」


と、隣に座っている委員長が叫んだ。

それはいつも以上に大きい声だった。


「私が虐められた時、本木さん、助けてくれたでしょ?あんたもしっかり言い返しなよって言ってくれて…それで私、委員長になったの!

人前で何かを言うのは苦手だけど、本木さんの言葉でいつまでもこんなんじゃダメだって思った。私もあんな風になりたいって…。本木さんは、私の憧れだったの…!」


委員長が泣きながらそう言った時。


『センタク者ヲコロシマス』


機械はそう発した。


「本木さん…!」


嫌だ。

行かないで!

そう思った瞬間、本木さんは床に開いた穴に落ちていく。

床には針が沢山用意されているであろう穴へ、真っ直ぐに。

姿が見えなくなる瞬間…本木さんは、ふわりと笑った。


「いやあああっ!本木さん!本木さんっ」


ガチャガチャと委員長のベルトの音が響き、我に返る。


「本木さん、笑ってた…」


思わず私が呟いた言葉に、委員長がさらに涙を流す。

本木さんの最後の笑顔…。

それは、自分の正しい生き方ができて安心しているようだった。

私の頬に一筋の涙が流れた時。


『死亡者、本木玲奈を回収する』


モニターの中の男がそう言って、穴が閉まるともう、彼女は完全にいないんだと実感した。

本木さんがいなくなってしまった…。

だけど、本木さんは自分の意思を通してみんなに教えてくれた。

このゲームは間違ってるんだって。

だから、私は決めたの。

センタク者になっても、私は誰も選ばない。

私は誰も殺さない。

無駄じゃない。

本木さんの死は、きっとみんなに何かしらの影響を与えてくれたと思うから。

だってね、その証拠に、このゲームが終わってから口を開く人は誰もいなかった。

みんなただじっと、モニターに映る男を睨んでいるだけだった。

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