本作は異世界転移を描く物語です。
そして、このジャンル特有のお約束が、これでもかという程、ふんだんに散りばめられています。
主人公の普並桐花は、本人の同意もなく突然異世界へ転移させた身勝手な女神に対して、常に冷静なツッコミを入れます。
「どうしてこうなったのでしょうか?」
冒頭、そう呟く桐花。
意外にも、動揺は見受けられません。
とはいえ、彼女は世界を救いたいわけでも、異世界で成り上がりたいわけでもありません。
ただ、早く自宅へ帰って、ごろごろしたいだけ。
そんな、ごく普通の……いや、少々ドライな風紀委員なのです。
しかも彼女、魔法が使えるわけでもなければ、身体強化のチート能力を持っているわけでもありません。
女神が彼女に与えたのは、勇者のスキルを無効化する〝チート殺し〟の木刀だけ。
なんともケチな女神ですよね。
それでも桐花は、文句こそ言うんですが、こんな状況でも動揺する様子はありません。
実は、この彼女の反応そのものが物語の伏線にもなっているのです。 巧い演出なのです。
ともかく桐花が女神に対する淡々とした塩対応、これは見ていてほんとうに面白いです。
けれど、彼女は単に素っ気ないだけの人物というわけでもないのです。
道すがら親切にしてくれたテオルとの束の間の交流。 そして彼へお礼をするエピソード。
こうした何気ない場面からは、桐花の優しさや、人との縁を大切にする一面が垣間見えます。
クセの強いキャラクターたちが織りなすテンポの良いコメディ。
これだけでも十分楽しめる作品なのですが、なんと本作の魅力は他にもまだあるのです。
特に印象的なのが、勇者への〝懲罰〟ともいうべき戦闘シーンです。
派手なチート能力を振るう勇者。
対する桐花は、ただ一本の木刀を構えるだけ。
この圧倒的なまでの対比が、なんとも胸を躍らせてくれます。
そんな二人の戦いは、いったいどのような結末を迎えるのか。
ここはぜひとも、本作を読んでご自身の目で確かめていただきたいところです。
〝異世界あるある〟を逆手に取ったメタ的な面白さ。
主人公と女神、それぞれにクセのあるキャラクター性。
二人のテンポの良いやり取りから生まれる笑い。
意外性と爽快感を覚える戦闘シーン。
本作には、これらが絶妙なバランスで詰め込まれています。
とても6438文字とは思えないほどの内容が充実ぶり。
短編ということもあり、本作は読み始めればあっという間に読み終えてしまいます。
けれど読み終えた後には、この小気味よい賑やかさを、もう少し味わっていたかったと思わされる。
そんな、楽しくて、爽快で、ちょっぴり優しい異世界コメディなのです。
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