※プロローグ〜第12話(全36話中、完結済)まで拝読した時点でのレビューです。作者様の全作品を読破予定ですが、まずはここまでの内容でレビューさせていただきます。
この作品の最大の挑戦は、普段恋愛ものの小説を好む読者(率直に言えば、主に女性層)を「SF」というジャンルへと誘うチャレンジにあると感じました。「マトリックス」の地下都市ザイオンでの戦闘シーンを思わせるアクションから始まり、仲間の喪失、痛み、飛び交う銃弾の雨。散りばめられたSFのフレーバー。ケレン味たっぷりの導入から一転、作者様は思いっきり物語のブレーキを踏み、登場人物たちの感情を描くことにシフトします。でもそれは手癖ではなく、「やりたいこと」に合わせた戦略だと感じました。
一話ごとに新しい謎と喪失を積み重ねる第1章から一転、第2章以降は、既知の情報をあえて何度も丁寧に反復し、ミライという存在の輪郭を、会話と沈黙の積み重ねだけでゆっくりと描いていきます。テンポだけを見れば、SFサスペンスとして読み始めた読者にとっては牛歩に感じられる瞬間もあるかもしれません。けれど、この「置いていかない」丁寧さこそが、恋愛小説の文法に慣れた読者を、負荷なくSFという土俵に立たせるための、計算された橋渡しなのだと思います。読み進めるほどに、その意図は輪郭を増していきました。
その丁寧さを支えているのが、圧倒的なディテールの解像度です。ミライが「寒い」「痛み」という概念を、機能用語と素朴な疑問の往復で一つずつ獲得していく過程。防衛機構が崩れ落ちる場面の、光が壁を伝い、装甲が鉄屑に変わるまでを追う一続きの描写。作者様の中に、シーンを映す確かな「カメラ」があることが伝わってきます。特に第3話、ユーゴが無言でジャケットを肩にかけ、ミライが「温度が残っています」と返す場面は、言葉で感情を拒みながら行動で示すという、この作品全体を貫く手法の白眉でした。「『ミライ』という音が、まだ口の中に残っていた」という一文も、聴覚的な情報を味覚の後味として描く、鮮やかな比喩でした。
構成面で一つだけ、好みが分かれるかもしれない点を挙げるとすれば、第9話でミライがユーゴの過去に触れ、拒絶される場面のタイミングです。関係性を積み上げた直後に置くことで衝撃を最大化する今の配置か、あるいはもう少し早い段階に置いて、拒絶からの回復過程そのものをじっくり描く配置か。これは優劣ではなく、作者様が「衝撃の純度」を選んだ結果だと感じました。
第12話で登場した神城零の、AIONそのものと一体化したような存在感、そして榊隆臣という人物の不穏な呟き。ここから物語がどう転がっていくのか、12話という折り返し地点にして、既に目が離せません。
「感情を知らないAI」というテーマを、説明ではなく体験を通してミライに獲得させていく手つきは、非常に丁寧でした。この先、ミライとユーゴの関係がどう試されていくのか、続きを楽しみにしています。
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