第6話 鋼の骨組みと、初めての満腹
「ーーいいから、乗れ。」
怖がる親子を、中ば強引にハイエースのシートに
押し込み、ゆっくりと河原を登って行く。
「家って……これか?」
やがて見えてきた物に、康介は絶句した。
そこにあったのは「家」じゃない。適当な丸太に枝葉を立て掛けただけの、風が吹けば倒壊確定の「何か」だ。
「これじゃ外に居るのと変わらんだろうが」
康介の言葉に、ヨシは憮然と、サワは恥ずかしそうに下を向いた。
「…無いよりはましだ。雨が降りゃ濡れる、風が吹きゃ倒れる。捨て人の暮らしなんて、こんなもんだ」
その言葉が、康介の「職人魂」に火を点けた。
「よぅし、見てろ。俺の目に入ったからには、こんな手抜きは許さねえぞ」
ハイエースのリアゲートを開き、積んでいた単管パイプを引っ張り出す。
「あんた、何するだ!その円い筒は……!」
驚くふたりを無視して、クランプを締めあげるインパクトドライバーの快音を響かせる。
ガガガガッ!
骨組みを組み、屋根には積んでいたコンパネを惜しみなく並べ、次々と固定する。さらに、その辺の倒木を電動ノコで切り出し、即席の壁として打ち付けた。
仕上げに、端材で組み立てた引き戸とアクリル板の窓をはめ込む。
「…よしっ。とりあえず、これで雨漏りはしねえし、風で飛ばされることもねえ」
なんと言うことでしょう!
そこには、無機質で狭いながらも圧倒的に頑丈な『仮設住宅』が建っているではありませんか!
サワは、キラキラした目で家を見つめ、声を震わせた。
「康介さは…本当は、凄腕の妖術使いだか?」
ヨシは、あまりの出来事に喜びと恐れが入り混じった顔をしていたが、やがて小さく息を吐いた。
「…仕方ねえ、今夜は、泊めてやるだ」
夜になり、LEDの作業灯を点けた。
太陽が地上に降りてきたような輝きにふたりが腰を抜かす中、前夜コンビニで買いこんであったおにぎりやパン、惣菜を広げた。
「食え。知り合いに持ってくはずだった分だ。タップリあるぞ」
ふたりは、初めて見る「白い米」や、柔らかなパンを口にし、ボロボロ涙を流しながら食べていた。
「…うまい。うまいだ、康介さ」
サワは生まれて初めて経験する『満腹』という幸福感に包まれ、そのまま泥のように眠りについた。
静かになった部屋で、LEDの白い光を浴びながら、ヨシがポツリ、ポツリと話し始めた。
かつて網元の娘だった自分が、なぜこの山奥で『捨て人』として生きることになったのか。あの、赤い髪の『鬼』との出会いから始まった、残酷な過去の物語を。
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