第3話 せせらぎの女神、赤毛の衝撃
焦る気持ちを抑え込み、慎重にハンドルを捌く。
一時間ほど悪路と格闘しただろうか。急に視界が開け、朝露に濡れた草原の先に、澄んだ水を湛えた小川が現れた。
康介は川べりの平坦な場所にハイエースを停め、深くシートに身を預けた。
「……ふぅ。撮影だったら、今頃ナンバーを特定されて大目玉だな」
ため息をつきながら、ダッシュボードに置いていたスマホを手に取る。源さんに「道にまよった」と一言入れなきゃならない。
だが、画面の隅に表示されていたのは、見たこともないほど完璧な「圏外」の文字だった。
「…あれっ?」
不思議に思い、今度はナビの画面を叩く。だが、自車位置を示すアイコンは、道のない真っ白な画面の中でくるくると虚しく回り続けていた。
「あれっ?」
嫌な汗が背中を伝う。気を落ち着かせるために煙草に火を点け、無意識にラジオのボリュームを上げた。だが、いつも聴いている深夜放送の続きは聞こえず、自動スキャンをかけてもノイズすら拾わない。
「あ…れ…?」
3度目の独白は、声にならなかった。
さすがに心細さが限界に達し、康介は車外へ出た。
ひんやりとした朝の空気を吸い込み、ふと上流に目を向ける。百メートルほど先、水際に誰かがしゃがみ込んでいるのが見えた。
「……人だ、誰か居る」
川に手を突っ込み、何かを洗っているようだ。武器らしきものは見当たらない。此処が何処なのか、港南市にはどう行けばいいのか。それを聞くだけでいい。
康介は努めて穏やかな足取りで、ゆっくりと近づいて行った。
「……済みません。ちょっと、此処がどこだか教えてくれませんか?」
声をかけると、その人物はビクッと肩を振るわせ、弾かれたように立ち上がった。
「っ…!」
康介は、思わず足を止めた。
振り返った相手は、まだ幼さの残る若い娘だった。だが、その姿はあまりに異質だった。
朝日に透ける、燃えるような赤い髪。そして、驚愕に大きく見開かれた、吸い込まれるような青い瞳。
康介がこれまで出会ってきた誰とも違う、それどころか、この古臭い景色の中に存在していいはずのない「色彩」が、そこにはあった。
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