自分の「好き」が分からなくなった——その一文から、この作品は静かに始まります。二人の人物が、それぞれ違う形で自分の色を見失ってきた時間が、丁寧に描かれています。読み進めるほど、最初は小さく見えた描写が別の重さを帯びてきます。「普通」という言葉が、どれほど静かに人を追い詰めるのか。答えを出すことよりも、答えを求めてしまう問いの形そのものを見つめている作品です。言葉と沈黙の間にあるものを味わいたい人に、読んでほしい作品です。